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東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)医学総合研究所 未来医療研究センター 分子細胞治療研究部門の落谷孝広特任教授、田村貴明客員研究員(千葉大学)、吉岡祐亮講師は、千葉大学医学部附属病院泌尿器科の坂本信一診療教授、市川智彦前教授らの研究グループと共同で、前立腺癌骨転移巣で悪性化した破骨細胞由来の細胞外小胞(Extracellular vesicles: EVs)が腫瘍進展を加速させることを明らかにし、破骨細胞由来EVsが腫瘍浸潤に先立つ炎症性骨破壊を惹起するメカニズムの一端を示しました。
本研究結果は、2025 年 6 月 23 日に、Journal of Extracellular Vesicles誌 (IF: 14.5) に掲載されました。
【概要】
東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)医学総合研究所 未来医療研究センター 分子細胞治療研究部門の落谷孝広特任教授、田村貴明客員研究員(千葉大学)、吉岡祐亮講師は、千葉大学医学部附属病院泌尿器科の坂本信一診療教授、市川智彦前教授らの研究グループと共同で、前立腺癌骨転移巣で悪性化した破骨細胞由来の細胞外小胞(Extracellular vesicles: EVs)が腫瘍進展を加速させることを明らかにし、破骨細胞由来EVsが腫瘍浸潤に先立つ炎症性骨破壊を惹起するメカニズムの一端を示しました。
本研究結果は、2025 年 6 月 23 日に、Journal of Extracellular Vesicles誌 (IF: 14.5) に掲載されました。
【本研究のポイント】
● 前立腺癌の骨転移は主として造骨性骨転移*を呈しますが、骨転移巣の腫瘍先進部位においては骨を吸収する破骨細胞が異常に活性化していました。
● 前立腺癌細胞に教育された破骨細胞は、炎症性サイトカインであるIL-1βに関わる遺伝子の発現亢進を特徴とする悪性形質を獲得していることがわかりました。
● この悪性破骨細胞由来のEVsには正常の破骨細胞の活性を促進し、骨芽細胞の活性を抑制するマイクロRNAが豊富に含まれていました。
●前立腺癌骨転移マウスモデルにおいて、悪性破骨細胞由来EVsに特異的なマイクロRNAを投与すると腫瘍進展が加速し、異常な骨破壊が認められました。
*造骨性骨転移:骨組織の造成が優位となる骨転移形式のこと。骨代謝のバランスが崩れ、骨を造る働きをする骨芽細胞の活性が相対的に過剰になっているとされる。骨を吸収する働きをする破骨細胞の活性が相対的に過剰になっている溶骨性転移と相対する概念。
【研究の背景】
前立腺癌は男性において最も罹患者数の多い癌です。前立腺癌は比較的予後の見込める癌腫として知られていますが、いったん骨転移を引き起こすと予後不良であることが知られています。また、骨転移は骨を蝕んでいく過程で、骨痛を引き起こし、病的骨折や高カルシウム血症をもたらして患者の生活の質を著しく損ないますので、骨転移進展の抑制は臨床的に非常に重要です。その前立腺癌は造骨性骨転移という特異な転移様式を呈するにも関わらず、破骨細胞が担う溶骨性の変化もまた異常に活性化していることが臨床的にも非常に興味深い現象として知られていました。
細胞外小胞(Extracellular vesicles: EVs)はあらゆる細胞が分泌する脂質二重膜構造を有する微粒子です。EVsには、タンパク質やmRNA、マイクロRNAなどの機能性分子が含まれており、細胞間で受け渡されるメッセンジャーとしての役割を担っています。われわれの生体内では、EVsを介して多くの生理現象が制御されており、EVsが様々な恒常性の維持に関与することが知られています。一方で、以前から癌細胞が分泌するEVsは転移先臓器の組織において、癌細胞の生存に有利な環境を作りだすことが知られており、EVsを標的とした治療用製剤の開発が盛んに行われています。
今回の研究では、前立腺癌の骨転移巣において破骨細胞には何らかの性質の変化が起こっており、この癌細胞に教育された破骨細胞が分泌するEVsが腫瘍進展の鍵になっていると仮説を立て、悪性化した破骨細胞由来のEVsが骨転移の進展にどんな役割を持っているのかを探索しました。
【本研究で得られた結果・知見】
まず骨転移モデルマウスの病理切片を観察すると前立腺癌骨転移巣の腫瘍先進部位において破骨細胞が異常に活性化していました。次にIn vitroの共培養系を用いて前立腺癌細胞の存在下で破骨細胞を培養し、この破骨細胞はIL-1βの関連遺伝子が上昇しており、破骨細胞の働きを抑える骨修飾薬に対して抵抗性をもつことを見出しました。この悪性化した破骨細胞由来のEVsの役割を探索するためにEVsの添加実験を行うと、破骨細胞活性は促進され、骨芽細胞活性は抑制されました。EVsに含まれるマイクロRNAを網羅的に調べてみると、実際に破骨細胞の活性を促進するmiR-5112、骨芽細胞の活性を抑制するmiR-1963といったマイクロRNAが豊富に含まれていることが明らかになりました。さらにこれらのマイクロRNAがIL-1βの関連遺伝子を標的として変化をもたらすことも見出しました。加えてこれらのマイクロRNAを骨転移モデルマウスに投与すると腫瘍進展が加速し、異常な骨破壊が引き起されました。
本研究は、前立腺癌細胞の存在下における破骨細胞由来のEVsの役割を調べた世界初の研究です。この成果は、未だ謎が多い前立腺癌骨転移の進展メカニズムの一端を明らかにし、新規治療法にも繋がる可能性を示しています。
【今後の研究展開および波及効果】
本研究は、EVsが関わる前立腺癌骨転移進展メカニズムの一端を示すことができました。今後は、これらの知見を活かして、悪性化した破骨細胞や由来EVsを標的とした新規治療法の開発を行います。
【論文情報】
タイトル:Extracellular Vesicles From Prostate Cancer-Corrupted Osteoclasts Drive a Chain Reaction of Inflammatory Osteolysis and Tumour Progression at the Bone Metastatic Site
著 者:Takaaki Tamura1,2, Tomofumi Yamamoto1,3,4, Akiko Kogure1, Yusuke Yoshioka1, Yusuke Yamamoto3, Shinichi Sakamoto2, Tomohiko Ichikawa2 and Takahiro Ochiya1*
(*責任著者)
1 Department of Molecular and Cellular Medicine, Institute of Medical science, Tokyo Medical University, Tokyo, Japan
2 Department of Urology, Graduate School of Medicine, Chiba University, Chiba, Japan
3 Laboratory of Integrative Oncology, National Cancer Center Research Institute, Tokyo, Japan
4 Division of Biological Chemistry and Biologicals, National Institute of Health Sciences, Tokyo, Japan
掲載誌名:Journal of Extracellular Vesicles
D O I:
https://doi.org/10.1002/jev2.70091
【主な競争的研究資金】
the Project for Cancer Research and Therapeutic Evolution (P-CREATE) from the Japan Agency for Medical Research and Development (AMED) (Grant Number JP21cm0106402 to T.O.)
the JSBMR Rising Star Grant from the Japanese Society for Bone and Mineral Research (JSBMR) to T.T
▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報・社会連携推進室
住所:〒160-8402 東京都新宿区新宿6-1-1
TEL:03-3351-6141(代)
メール:d-koho@tokyo-med.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/