ドライブレコーダで高精度な点検・台帳整備を実現する位置推定技術を確立~電柱・標識・街路樹等、社会インフラの点検DXでコスト削減~

NTT株式会社

発表のポイント:
  • 従来の作業員による現地点検の削減と、紙台帳に変わる高精度なデジタル台帳の整備をめざし、ドライブレコーダ点検画像内のインフラ設備の位置を高精度に特定する技術を確立しました。
  • 本技術では、画像から3次元シーンを再現する技術(以下、3次元再構成技術)を用いて、ドライブレコーダ画像から3Dデータを生成することで、画像内のあらゆる地物について高精度な位置特定を可能とします。
  • 本技術を用いて街全体を3D管理することで、官公庁が推進する3D都市モデル等と連携した都市計画や防災対策、自動運転・ドローン航路設計等で必要な高精度3D地図整備へのデータ活用なども可能となり、安心・安全でスマートなまちづくりの実現に貢献します。
 NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、ドライブレコーダ等の車載カメラにより撮影した画像から、画像内のインフラ設備位置を特定する技術を確立しました(図1)。本技術を用いることで、街中を走行する車のドライブレコーダから収集した電柱・標識・街路樹等の画像に、高精度なインフラ設備位置情報を紐づけることが可能になります。これにより、点検業務の効率化や高精度なデジタル台帳作成を実現し、社会インフラ維持管理の稼働・コスト削減に貢献します。
 本研究成果の一部は、2025年11月19日~26日に開催されるNTT R&D FORUM 2025 IOWN∴Quantum Leap※1に展示予定です。
 

図1.本技術によるドライブレコーダ点検画像のインフラ設備位置特定およびGIS管理

1. 背景
 社会インフラの老朽化および維持管理に携わる作業員不足は深刻であり、維持管理業務の抜本的効率化は急務となっています。中でも、膨大な設備の安全を確保する点検業務のDXは、最優先課題の一つです。昨今、AIの進歩により点検画像から劣化の検出・診断が可能となった※2ことで、現地に赴く必要のないドライブレコーダを用いた点検・デジタル台帳作成が現場導入されつつあります。しかしながら、ドライブレコーダ画像と共に得られるGPS等の位置情報は、1~10メートル程度の誤差を含んでおり、点検の度に位置情報にずれが生じるという問題があります。ドライブレコーダ点検画像に高精度なインフラ設備位置を紐づけて管理するには、画像内のインフラ設備位置を特定する技術が必要です。

2. 既存の位置推定手法の課題
 既存の位置推定手法としては、「点検画像」と「参照画像(撮影時のカメラの自己位置既知の画像)」の特徴マッチングを行い、カメラの自己位置を推定した上で、画像内のインフラ設備の位置を算出する手法があります。この手法では、点検画像の風景に特徴がある場合は、特徴点をマッチングすることで自己位置を推定し、インフラ設備の位置を特定することができます(図2上段)。しかしながら、点検画像が風景特徴に乏しい場合は、誤マッチングが生じることで自己位置を推定できず、インフラ設備の位置を特定できないことがあります(図2下段)。多様な点検画像に対応するためには、風景特徴の多い少ないにかかわらず、高精度に位置を特定できる技術が必要です。
 

図2.既存の位置推定手法の課題

3. 研究の成果
 既存の位置推定技術は、点検画像1枚に写る範囲の風景特徴のみを手掛かりとしていましたが、本技術では、一連の画像から3Dデータを生成し、点検画像1枚よりも広い範囲の風景特徴を手掛かりとすることで、風景特徴に乏しい場所でも高精度な位置特定を可能としました。
 具体的には、予め、3次元再構成技術を用いて、高精度な位置情報を有する「参照3Dデータ」を用意しておき(図3 Step1)、点検画像を含む一連のドライブレコーダ画像からも同様に「点検3Dデータ」を作成します(図3 Step2)。そして、2つの3Dデータを重ね合わせることで、点検3Dデータ全体に参照3Dデータの高精度な位置情報を対応づけ(図3 Step3)、点検画像のカメラの自己位置および画像内のインフラ設備位置を特定します。これにより、ドライブレコーダ点検画像に、高精度なインフラ設備位置情報を紐づけることが可能になります。

【技術のポイント】
①参照3Dデータの特徴
 本技術では、点検エリアの参照データとして、高精度な位置情報および、3D形状・色・画像特徴量の情報を有する「参照3Dデータ」を使用します。参照3Dデータは、NTTがMobile Mapping System (MMS)※3点検で蓄積した、高精度な位置情報を有する画像や点群データから、3次元再構成技術を用いて作成します。

②3Dデータの重ね合わせ手法の特徴
 Step3では、点検画像撮影時のGPS位置等をもとに参照3Dデータの使用する区間を絞り込みます。その中で精度よく3Dデータを重ね合わせできるよう、画像特徴量および3D形状情報を併用する独自のアルゴリズムを構築しました。
 

図3.本技術の概要

4. 検証の概要
4-1.検証条件
 地物がまばらな風景特徴の乏しい道路環境を想定し、NCLT公開データセット※4を用いた検証実験を行いました。点検時に得られる位置情報(GPS等)の誤差を想定し、Step3における点検3Dデータの初期位置にノイズ(位置ノイズ: 0~10 m,回転ノイズ: -50˚~50)を与え、本技術によって参照3Dデータに正確に重ね合わせることができるか、100回の繰り返し検証を行いました。

4-2.検証結果
 100回試行の結果、位置誤差の中央値0.11 m、回転誤差の中央値1.28°で、参照3Dデータに重ね合わせできることを確認しました。これにより、点検3Dデータ全体に高精度な位置情報が紐づくことから、点検3Dデータ作成に用いた一連の画像内のインフラ設備の位置が特定可能になります。
 

図4.検証結果および出力イメージ

5. 今後の展開
 今後は国内道路シーン等での検証を進め、NTTグループで展開を進めるドライブレコーダを用いた点検・デジタル台帳作成ソリューションでの実用化をめざします。これにより、社会インフラの共通課題である維持管理の稼働・コスト削減に貢献します。また、本技術を用いて街全体を3D管理することで、官公庁が推進する3D都市モデル等と連携した都市計画や防災対策、自動運転・ドローン航路設計等で必要な高精度3D地図整備へのデータ活用なども可能となり、安心・安全でスマートなまちづくりの実現にも貢献します。

6. 関連する過去の報道発表
・2022年5月16日「画像認識AIを用いて社会インフラ設備の錆を高精度に検出~さまざまな設備の一括点検により稼働削減をめざす~」
・2024年5月13日「インフラ設備の鋼材に発生した腐食の深さを画像から自動で推定する技術を確立​~高精度な設備の耐久・耐荷性能診断による、維持管理の低コスト化を実現~」

【用語解説】
※1.NTT R&D FORUM 2025 IOWN∴Quantum Leap」公式サイト https://www.rd.ntt/forum/2025/
 

※2.GIS(Geographic Information System)
 地理的位置情報を持ったデータを総合的に管理・加工し、視覚的表示や分析を可能にする技術。

※3.Mobile Mapping System (MMS)
 レーザスキャナやカメラを搭載し、走行しながら道路周辺の高精度な3次元位置情報を取得する車両搭載型計測システム。NTTでは全国の電柱・ケーブル等の所外設備の点検業務で使用。

※4.NCLT公開データセット
 ミシガン大学ノースキャンパスで四季・時間帯をまたいで記録されたマルチセンサデータセット。画像撮影時のカメラの自己位置が既知。
[参考] Nicholas Carlevaris-Bianco, Arash K. Ushani and Ryan M. Eustice, University of Michigan North Campus long-term vision and lidar dataset. International Journal of Robotics Research, 35(9):1023-1035, 2015.

その他のリリース

話題のリリース

機能と特徴

お知らせ