CT画像から卵巣がん腹膜播種を診断するAIモデルを開発

学校法人慈恵大学

読影では困難な小腸播種を82%の正確性で診断

東京慈恵会医科大学産婦人科学講座 金 里阿助教、關 壽之講師、岡本 愛光講座担当教授、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学講座 高橋 昌寛講師らと、サイオステクノロジー株式会社 野田 勝彦、吉田 要らの研究グループは、卵巣がん患者の腹部CT画像を用いて腹腔内の細かな腫瘍転移(腹膜播種)の有無を判断するAIモデルの開発を行い、腹膜播種全体で77%という高い診断性能を達成しました。特に、CT画像の読影では困難とされていた小腸播種では82%という高確率で判定しました。これにより卵巣がんの治療方針を迅速に進められるようになることが期待されます。
本研究は2026年3月23日(英国時間)に学術誌Scientific Reportsに掲載されました。
<ポイント>
    従来の人によるCT読影では判別が困難な事が多い腹膜播種の有無を、術前のCT画像から判別するAIモデルを開発しました
    腹膜播種全体では77%という高い正確さで見分けることに成功しました
    腹膜播種の中でも、個々の腫瘍が小さいため読影による判断が難しい小腸への播種を82%の精度で判別しました

卵巣がんでは腹腔内に細かな腫瘍が転移する腹膜播種を起こすことが多く、これらの腫瘍は初回手術で完全切除することが重要です。しかし切除不可能な臓器に転移している場合は完全切除が困難であり、先に抗がん剤治療を行い腫瘍を縮小させ、転移部分を減らしてから手術をするよう治療戦略を切り替える必要があります。その切除不能な播種として最も多く見られるのが小腸です。小腸は大きく切除すると重い合併症につながるためここに多数の播種があると完全切除は困難となります。これまで特に小腸への播種は読影では判別困難だったため開腹か腹腔鏡で肉眼的に観察する必要がありましたが、今回CT画像から播種の有無を迅速に判断できるAIモデルを新たに開発しました。

【本研究内容についてのお問い合わせ先】 
東京慈恵会医科大学 産婦人科学講座 
助教 金 里阿
講師 關 壽之 
電話 03-3433-1111(代) 

【報道機関からのお問い合わせ窓口】 
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サイオス株式会社 広報 電話 03-6401-5120 メール mktg@sios.com
研究の背景
1.    背景
上皮性卵巣がん(卵管がん・腹膜がんを含む)は近年増加傾向にあり、初期症状に乏しいため、診断時には腹膜播種(腹腔内に細かな腫瘍が種を播いたように広がる状態)を伴う進行がんが約半数を占める難治性疾患です。手術による腫瘍の完全摘出が予後改善に重要とされており、臓器を巻き込んでいる場合はその臓器も同時に切除することが求められます。しかし播種が広範囲に及ぶ場合、切除することが困難な臓器を巻き込んでいることもあり完全切除が困難なこともあります。その場合は速やかに化学療法(抗がん剤)へと治療方針をシフトすることが求められます。
切除困難な臓器として高頻度に播種が発生するのが小腸です。長距離の小腸切除は短腸症候群など重篤な合併症につながるため困難となります。そのため、小腸播種が腫瘍完全摘出困難の理由となることが多く、治療方針の決定には、術前に腹膜播種、特に小腸播種の有無を正確に評価することは重要です。
現在、術前評価には主にCT検査が用いられていますが、播種病変は小さいことが多く、特に小腸播種の診断精度は十分とは言えません。全腹部MRIによる精度向上の可能性はあるものの、検査時間や患者負担、コストの面から現時点では現実的ではなく、実臨床では試験的開腹や審査腹腔鏡といった侵襲的手段に頼らざるを得ないのが現状です。これらの侵襲的検査は患者負担が大きく、治療開始の遅れにつながることで予後悪化の懸念もあります。
近年、人工知能(AI)・機械学習技術は急速に発展し、画像認識分野では人間の識別能力を上回る精度が報告されています。我々は、医療画像AI解析の実績を有する東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科学講座およびサイオステクノロジー株式会社と連携し、非侵襲的に腹膜播種、とくに小腸播種を高精度に予測する手法の確立を目指し、本研究に取り組みました。
2.    手法
2020年から2023年にかけて東京慈恵会医科大学附属病院、東京慈恵会医科大学附属柏病院で卵巣がんに対して手術をおこなった227人の患者さんの手術前の造影CT画像を対象としました。画像から腹部の部分のみ取り出しAI解析に使用しました。腹膜播種(小腸播種含む)自体があるかどうかを判定するモデル(P-Model, 図)とその小腸の播種があるのかどうかの判定のみ行うモデル(SB-Model, 図)を作成しました。
本研究では、医用画像解析の分野で広く使われているAIモデルの一つであるMobileNetV2を採用しました。
AIの性能を客観的に評価するため、本研究では症例を8つのグループに分ける8分割交差検証を行いました。そのうち7グループをAIの学習に、残り1グループを性能評価に使用し、この組み合わせを入れ替えながら学習と評価を繰り返しました。
学習用画像については、回転や反転、拡大・縮小などの処理を行い、元の画像を約960倍に増やしました。1回の学習では、拡張された画像の中からランダムに画像を選び、20回の繰り返し学習を行いました。
さらに、少数の症例から作成した大量の学習データを用いることで生じるAI性能のばらつきを確認するため、学習データの組み合わせを変えた24通りの検証セットを作成しました。その結果、P-ModelおよびSB-Modelそれぞれについて、合計192個のAIモデルを構築し、性能の安定性と再現性を詳しく検証しました。
3.    成果
AIによる解析の結果P-Modelが感度 68.8%、 特異度 85.8%、 正確性 77.3%、SB-Modelが感度 86.4%、 特異度 77.5%、 正確性 81.9%という高い判断能力を達成できました。特にSB-Modelでは過去の報告(人間による画像読影)を上回る結果となりました(図)。
しかし中にはAIによる診断精度が低い画像もあり、多くの腹水の量や腫瘍の量が診断能力のハードルとなっていることが示されました。
本研究は2施設の患者さんの限られた症例数からの解析であったものの、これまで困難とされた小腸の播種をCTで判断する一歩につながる結果となりました。
またAIが判断を苦手とする部分もある程度解明され今後の性能向上のヒントを得ることができました。

4.今後の応用、展開
本研究では画像による播種診断の可能性が示されたものの、100%の診断精度にはまだ届きません。今後は診断精度を上げること、播種の位置をより精細に診断することなどが求められると考えており、今回得た知見をもとにさらに規模を拡大し性能向上に努めていく予定です。


 

発表雑誌 雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Diagnostic performance of artificial intelligence for detecting peritoneal and small bowel dissemination in epithelial ovarian cancer using preoperative contrast-enhanced CT imaging
著者: Ria Kim, Toshiyuki Seki, Katsuhiko Noda, Kaname Yoshida, Kota Yokosu, Rintaro Hamada, Erika Habuchi, Masahiro Takahashi, Hirokuni Takano, Aikou Okamoto
DOI : 10.1038/s41598-026-41728-4

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