投資の背景とストーリー、若年層・インバウンド層誘客成功の秘訣とは
地域創生ソリューションでは、観光ファンドの運営を通じて国内各地で投資を行い、観光振興を通じた地域活性化を図っています。ファンドは地域の枠を超え47都道府県全てを応援しており、日本を代表するデベロッパー、航空会社、旅行会社、ホテルオペレーター、金融機関等のネットワーク・ノウハウを最大限に活用し運営しています。また、観光産業~地域創生は裾野が広く多くの可能性に溢れており、ホテル・旅館等の宿泊施設から観光産業を高度化するベンチャー企業まで、多様な案件の支援を行っています。
その代表的な成功事例のひとつが、群馬県利根郡みなかみ町、水上温泉に位置する「あらたし みなかみ」です。
かつては「東の熱海」とも称された水上温泉ですが、近年は施設の老朽化、さらには廃墟の増加が深刻な課題となっていました。この状況に対し、”温泉体験のスタートアップモデル”をコンセプトに、あえて「新築」かつ「全室露天風呂付き」というハイスペックな投資をコーディネート。若年層やインバウンドをはじめとする、従来の水上温泉とは異なる新規顧客層の開拓に成功し、大手OTAの水上エリアにおける取扱高推移によると、2022~3年にかけ、自館の取扱高400%増のみならず、エリア全体の取扱高37%増に貢献し、地域全体の成長を牽引しています。
なぜ水上温泉への投資を決断したのか。投資の背景にはどのようなストーリーがあったのか。本プロジェクトを主導したアセットマネージャーの岩崎文和氏と、現場を統括する佐藤大輔支配人のインタビューを交え、その成功の鍵と今後の展望を紐解きます。
■所在地
群馬県利根郡みなかみ町湯原740-3
■開業日
2022年11月1日
■構造
全室露天風呂付き、利根川を望むリバービュー
■客室数
42
■客室タイプ
ツインルーム 30室
トリプルルーム 11室
ハンディキャップルーム 1室
■交通アクセス
JR上越線「水上駅」より徒歩約15分
上越新幹線「上毛高原駅」より車約15分
■運営
株式会社フィルド
■支配人
佐藤 大輔
- なぜ今、「水上」で「新築」だったのか―投資と地域再生の背景
水上温泉は首都圏から新幹線で約1時間という好アクセスを誇り、夏はラフティングやキャニオニング、冬はスキーなど、通年アクティビティの聖地として特に近年はインバウンド(特にニュージーランド、オーストラリア等)からの注目が高まっていました。しかし、投資家の視点では「老朽化した温泉地」という印象が強く、新規投資が進みにくい現状がありました。
一方で、本プロジェクトのアセットマネジメントを担当した岩崎氏は、水上温泉に独自のポテンシャルを見出しました。
「プロの投資家であれば、より市場規模の大きい例えば箱根や熱海などを選び、リスクを避ける傾向にあります。しかし、水上には『アクセス』『アクティビティ』『インバウンド需要』という明確なポテンシャルがありました。だからこそ、既存施設の改修ではなく、ビジネスモデルとしての差別化と継続性を重視し、24時間入浴可能な『全室露天風呂付き』という高付加価値な新築施設の開発を決断しました」(岩崎氏)
- 開発の困難―地域創生ソリューションを通じた地元金融機関・企業・団体とのタッグ
開発には困難もありました。
「利根川に面した崖地という立地から、一時は1億円規模の補強工事が必要となる可能性もありました。しかし、施設運営も担うフィルド社の設計の工夫により、崖に触れずに建築することで、コストを抑えつつ絶景を確保することができました」(岩崎氏)
また、地元金融機関との強力なタッグも開発を後押ししました。難しい立地条件における行政協議や地元調整においては、そのネットワークが大きな力となりました。地元の建設会社や業者との橋渡しを銀行が担う中で、地域創生ソリューションは、多くの企業の知見・情報・人材を結集したAll-Japanのプラットフォームとして単なる資金提供にとどまらず、開発の最上流から参画し、地域と外部企業の間に立つコーディネーターとして広域的な視点とスピード感を提供しました。
- 名称に込められた想いと成功の鍵―若年層やインバウンド層を魅了する体験設計
こうした困難を乗り越え、2022年11月に開業した「あらたし みなかみ」。名称には、新しい温泉体験の形を提案する想いが込められています。ターゲットは、従来水上温泉の中心顧客であったシニア層ではなく、「温泉ビギナー層(国内若年層とインバウンド層)」です。特筆すべきは、Z世代を中心とした新しい情報収集~予約動線です。
佐藤支配人は、日々現場で全く新しい手応えを感じています。
「従来の温泉旅行は、『場所(エリア)を決めてから宿を探す』という流れが当たり前でした。しかし当館では、例えば『関東 / きれい / 映える / ホテル』といったキーワード検索から『あらたし』に辿り着き、ホテルを予約してから『場所が水上だった』と知るお客様が増えています。若年層のお客様にとっては、私たちが当たり前に思っている日常の風景も新鮮に映るようで、例えば『車のワイパーを上げている雪国の風景』や『昭和レトロな郵便ポスト』などは『エモい体験』としてSNSで拡散されています」(佐藤支配人)
岩崎氏も、SNSをはじめとした積極的な情報発信・拡散を成功の鍵と捉えています。
「SNSでの発信を含め、『誰に』『何を』届けるかの分析と実行を徹底したことで、これまで水上には縁のなかった層のお客様を呼び込むことができました。自館の情報だけでなく、周辺の観光スポットや飲食店情報も発信することで、若年層に『水上の滞在』をご提案しています。結果として、大手OTAの取扱高推移データでもエリア全体の成長率を大きく上回る実績を残せています」(岩崎氏)
また、Z世代が特に求める「ストーリー性」に応えるため、施設全体で独自の世界観を構築しています。SNSで「映える」料理や空間、五感に訴える演出(音楽、香り等)を重視するほか、スタッフも「キャスト」と位置づけ、滞在全体が物語となるような体験提供を目指しています。
この成功事例は、ホテル単体の利益にとどまらず、地域経済へも波及しつつあります。「あらたし みなかみ」がフックとなり若年層を水上エリアに呼び込むことで、今後は地域全体のさらなる活性化に貢献することを目指しています。夕食をあえて洋食スタイルに絞り込んだことや、長期滞在のインバウンド客が増加したことで、宿泊客が市街地の飲食店にも訪れる動きが定着しました。
「地元の寿司店が『あらたし』のお客様で満席になるなど、地元への効果を実感しています。また、地域のために本気で動く移住者も増え、地元の方々も新しい風を歓迎してくれています。私自身も旅館組合の青年部長として、行政や商工会と連携し、地域全体でかつての賑わいを取り戻そうという熱量が高まっています」(佐藤支配人)
現在、インバウンド比率が冬場には日によって7割に達し、平均滞在期間も7〜10日と長期化しています。今後は、シニア層やハンディキャップのある方も安心して旅を楽しめる「ユニバーサルツーリズム」への対応や、アクティビティを提供する地元企業とのさらなる連携強化を視野に入れています。
「地域の『当たり前』を、観光客にとっての『非日常』の価値に変え、お客様に選ばれる地域であり続けることが大切です。単独での成功ではなく、合意形成を大切にしながら、面として水上温泉のブランド価値を高めていきたいと考えています」(佐藤支配人)
「エリア再生の最優先課題は集客です。集客さえできれば、老朽化への対応策はいくらでも打てます。私たち自身が楽しんで活動する熱量を地域全体に伝播させ、水上をさらに盛り上げていきたいと考えています」(岩崎氏)