世界初、核融合炉のプラズマ予測・制御のための高頻度リアルタイム通信の実現 ~QSTとNTTがフュージョンエネルギーの実用化を支える通信技術を共創~
- 核融合炉内のプラズマを消失させずに保持するために必要なプラズマの高速予測・制御の鍵となる高頻度リアルタイム通信を実現。
- トカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SAの制御システムに実装し、世界初、1万分の1秒(100マイクロ秒)以下で高頻度に通信する性能の実証に成功。
- QSTとNTTの連携協力協定に基づいた共同研究の成果により、IOWNをはじめとする先進技術のJT-60SAへの実装に見通しを得た。今後さらに連携を強化し、革新的な環境エネルギー技術の進展に貢献。
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(本部:千葉県千葉市稲毛区、理事長:小安重夫、以下「QST」)とNTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田明、以下「NTT」)は、核融合炉の高速プラズマ予測・制御のための高頻度リアルタイム通信を実現しました。
QSTとNTTは2020年に連携協力協定※1を締結し、世界に先駆けた革新的な環境エネルギーである核融合の技術創出をめざす共同研究を進めてきました。
核融合炉に必要な高い圧力のプラズマを安定的に保持するためには、急速に大きくなるプラズマの乱れを1万分の1秒以下という短い時間で高速に制御する必要があります。一方、設備規模の拡大および制御ロジックの複雑化により、制御ネットワーク内の計算機間の通信の長距離化、通信データ容量の増加が伴います。しかし、従来技術では、1万分の1秒以下という時間での高頻度のリアルタイム通信を、想定される距離とデータ容量で実現することは困難でした。世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SA※2では、このような高頻度のリアルタイム通信を行うための専用のネットワークの設計を進めており、今回、制御システム内で活用できる高頻度で確定性のある通信技術を確立し、本技術の実証試験を実施しました。その結果、従来技術では不可能だった、1万分の1秒以下という高頻度のデータ通信を実現することに世界で初めて成功しました。
本成果はJT-60SAの今後の加熱実験において高圧力プラズマのリアルタイム制御に挑戦するにあたって不可欠であると共に、より大きなプラズマを少数の計測器で予測しながら制御するために多くの制御計算機群が必要となるイーター※3や原型炉※4などの核融合炉のリアルタイム予測制御に繋がる画期的なものです。本成果を受けてQSTとNTTはさらに連携を強化し、引き続き、フュージョンエネルギーの早期実用化に向けて取り組みます。
1.背景
革新的な環境エネルギーであるフュージョンエネルギーの原型炉実現に向けて、世界的に最も進展しているトカマク型核融合炉では、様々な計測器からプラズマの状態をリアルタイムでデータ収集し、制御ネットワークを通して、プラズマの位置形状や不安定性、密度や温度等の制御を行います。特に原型炉を含む将来の核融合炉では、高い圧力のプラズマで急速に大きくなる不安定性を制御する必要があり、そのために様々な計測情報を含むデータを安定的に100マイクロ秒以下という高い頻度で安定的にデータ通信する手法の確立が課題となっていました。このような課題の解決に向けて、本共同研究では、世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SAにおいて、高頻度のデータ通信を行うための専用のネットワークの設計を進め、JT-60SAのリアルタイム制御システムで活用することを目的に、従来技術では不可能だった、高い頻度と安定性を両立する通信技術の研究開発を進めてきました。
2.技術の手法と成果
核融合炉の制御ネットワーク通信は、計測データの収集、制御対象となる物理量の評価と制御量の算出、電源設備等のアクチュエータへの指令という流れで行われます。この一連の流れを完了するまでに求められる時間は、制御対象が成長する時間スケールで決まります。特に核融合炉では、高い圧力のプラズマで急速に大きくなる不安定性が発生する可能性があり、100マイクロ秒という短い時間で高速に制御する必要があります。つまり、制御量の算出等に必要な時間を確保するためにも、数10マイクロ秒という極めて短い時間でのデータ通信を高い頻度で実現する必要があります。
一方で、原型炉を含む将来の核融合炉では、関連設備によるプラント規模の拡大により、制御ネットワーク内の計算機間の通信距離は数100m程度になることが想定されています。また、プラズマの不安定性の予測制御計算のためには3次元情報等を含む1キロバイト程度のデータ転送が必要となります。しかし、従来の技術では、そもそも100マイクロ秒以下という時間でのデータ通信を核融合プラント内で想定される距離とデータ容量の制約内で行うことができませんでした。
そこで本共同研究では、図1(a)に示すように、JT-60SAにおいて高圧力プラズマで発生しやすい不安定性を制御するために必要な専用ネットワークの設計を進めてきました。このネットワーク上では、磁場情報等を含む計測データ収集計算機から計測データが制御計算機に転送され、制御計算機がプラズマの予測計算および制御指令値の算出を行い、コイル電源計算機に指令値を転送するという流れでプラズマを高速に制御します。JT-60SAにおいて上述のような将来の核融合炉で要求される高頻度のデータ通信を安定的に行うための専用の制御ネットワーク構成の設計を進めるとともに、100マイクロ秒以下の周期性という超高頻度かつ定められた時間までに確実にデータ転送を完了できる確定性を備えた超高頻度確定性通信技術を確立しました。そして、当該技術をJT-60SAの制御ネットワーク内で400m離れた計算機に組み込んだ評価試験環境を構築し、実証試験において、データ転送時間を評価しました。その結果、図1(b)に示すように、核融合炉で要求される100マイクロ秒以下の周期性という極めて高い頻度のデータ通信に世界で初めて成功しました。これは、将来の核融合炉で想定される高圧力のプラズマで起こる不安定性を高度に制御し、原型炉開発における長時間運転の可能性を大幅に向上させる成果となります。今後は、JT-60SAの加熱実験に向けて、多くの計算機群が配置された制御ネットワーク内での評価を行い、高圧力プラズマのリアルタイム制御に応用していく予定です。
● 超高頻度確定性通信技術
核融合炉のリアルタイム制御では、距離とデータ容量の制約がある中で、100マイクロ秒以下の周期性を持った極めて高い頻度の通信を実現しなければなりません。さらに、定められた時間までにデータ転送が安定的に完了することを保証する確定性も重要です。このような通信を実現するためには、
・制御計算機における遅延時間の低減
・制御計算機間をつなぐネットワークにおける遅延時間のばらつき、すなわち、遅延ゆらぎの低減
を実現する必要があります。
制御計算機では、データ転送に要する時間を低減し、極めて高い頻度かつ低遅延な通信の実現が求められます。そこで本技術では、「周期的に繰り返し通信する」といった特徴に着目し、通信制御に関する情報交換を最適化しました。この特徴は、核融合炉のリアルタイム制御のみならず、多くの確定性通信ユースケースに共通するものです。図2(a)のように、従来技術では、あらゆる通信に対応するため、データ送信の直前に通信制御情報交換します。これは、データ送信の直前まで、次に送信するデータの詳細を確定することができず、通信制御情報を生成できないためです。従来技術は汎用的な通信に適用できる一方で、通信制御情報の交換時間を原因として極めて高い頻度の通信への適用が困難でした。そこで、対象とするユースケースを周期的な通信に限定し、事前に通信制御情報を確定させることで極めて高い頻度での通信を可能とする通信制御技術を確立、通信用ライブラリとして実装しました。具体的には、受信装置から送信装置に対する確認応答に、次周期のデータ送信時に使用する通信制御情報を付与しました。送信装置は、この通信制御情報にもとづき次回データ送信を行います。これにより、データ送信直前の通信制御情報交換が不要となり、極めて高い頻度のデータ転送が可能になりました。
図2(b)にネットワークにおける遅延ゆらぎの低減例を示します。ネットワークに多数の制御計算機が存在する場合、データの合流地点において転送待ちが発生する可能性があります。例えば、イーサネットネットワークにおいては、イーサネットスイッチ等のネットワーク機器において一部データに転送待ちが発生し、遅延ゆらぎが生じる可能性がありました。そこで、TSN※5に代表される送信タイミングを制御する仕組みを用いることで遅延ゆらぎを回避し、マイクロ秒オーダーの確定性通信を実現します。
(b)遅延ゆらぎ低減するための送信タイミング制御技術。
3.各社の役割
・QST: JT-60SAにおける高速プラズマ予測制御のためのリアルタイム制御ネットワークの設計および整備、制御ネットワークへの超高頻度確定性通信技術の組み込みと評価
・NTT:超高頻度確定性通信技術の研究開発
4.今後の展開
本成果は、JT-60SAの今後の加熱実験において目標とする高圧力プラズマの長時間維持のためのリアルタイム制御に不可欠なものであるとともに、より大きなプラズマを少数の計測器で制御する原型炉の定常運転で必要となるプラズマ制御に繋がる画期的な成果です。本成果を受けてQSTとNTTはさらに連携を強化し、NTTが提唱するIOWN※6をはじめとする先進技術を核融合研究開発に適用しながら、引き続き、フュージョンエネルギーの早期実用化に向けて取り組みます。これにより、グリーンでサステナブルな社会の実現に貢献していきます。
【用語解説】
※1 NTT株式会社と国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構連携協力協定の締結について
https://www.qst.go.jp/site/press/45578.html(日本語)
https://group.ntt/jp/newsrelease/2020/11/06/201106a.html(日本語)
※2 JT-60SA(JT-60 Super Advanced、ジェーティーロクジュウ スーパー アドバンス)
幅広いアプローチ(BA)活動として日欧共同で実施するサテライト・トカマク計画と我が国で検討を進めてきたトカマク国内重点化装置計画の合同計画として、茨城県那珂市のQST施設に建設された、現時点では世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置となります。その目的は、イーターの技術目標達成のための支援研究、原型炉に向けたイーターの補完研究、人材育成です。JT-60SAは、約-269℃(絶対温度約4K)に冷却された強力な超伝導コイルを使用して1億℃にも達するプラズマを閉じ込めます。
URL:https://www.qst.go.jp/site/jt60/5150.html(日本語)
※3 イーター(ITER)計画
日本、欧州、ロシア、米国、中国、韓国、インドの7極の国際協力の下、その建設・運転を通じてフュージョンエネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証する計画であり、加熱システムによる入力エネルギーの10倍のフュージョンエネルギー(Q≧10)を得ることが目標です。現在、サイトがあるフランスのサン・ポール・レ・デュランスにおいて、プロジェクト実施のための国際機関であるイーター機構を中心に運転開始に向けた建屋の建設や機器の組立が行われるとともに、各極において担当する様々なイーター構成機器の製作が進められています。
URL:https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/(日本語)
※4 原型炉
原型炉とは、JT-60SAやイーターの成果にもとづいて建設される次期装置であり、フュージョンエネルギーによる発電と経済性を実証する装置です。現在、世界各国で原型炉の概念設計が進められています。
※5 TSN
TSN(Time-Sensitive Networking)とは、Ethernet通信のリアルタイム性に関する複数の国際標準で構成された技術規格で、主な規格にIEEE 802.1AS・IEEE 802.1Qbvがあります。これらの規格を組み合わせることで、遅延時間や遅延ゆらぎを極限まで抑え、リアルタイム性を保証することが可能となります。
※6 IOWN
IOWN(Innovative Optical and Wireless Network)構想とは、あらゆる情報をもとに個と全体との最適化を図り、光を中心とした革新的技術を活用し、高速大容量通信ならびに膨大な計算リソースなどを提供可能な、端末を含むネットワーク・情報処理基盤の構想です。詳しくは以下ホームページをご覧ください。
■IOWN構想とは
https://www.rd.ntt/iown/
