身近な医療の質と高齢者の予防接種率の関連が明らかに
本研究は、『Journal of General and Internal Medicine』に掲載されました。(日本時間 9月16日付オンライン)
研究成果のポイント
- 高齢者でのプライマリ・ケアの質指標スコアと予防接種率との正の相関を世界で初めて示した
- 都市部から郡部まで日本全体の様々な医療機関を対象とした研究
- プライマリ・ケアの改善による予防接種率の向上が期待される
図1 高齢者のプライマリ・ケアの質指標JPCAT スコアと予防接種率の関係
研究の背景
厚生労働省がインフルエンザ及び肺炎球菌予防接種の接種対象者と定める高齢者の実際の接種率はそれぞれ50.2%、37.8%と十分とは言えません。他国においても同様に不十分な接種率が課題となっています。これまでの研究では、小児の予防接種やがん検診の受診などの予防医療行動と、プライマリ・ケアにおいて「患者が医療ケアのプロセスで経験した事象(PX*2:Patient Experience)」のスコアが正の相関を持つことが指摘されていましたが、高齢者の予防接種とPXの関連は明らかではありませんでした。
そこで本研究ではプライマリ・ケアにおける高齢者のPXとインフルエンザ及び肺炎球菌予防接種実施の関連を調べました。
研究の内容
本研究は、日本のプライマリ・ケアの質評価・向上を目的として、全国25か所の総合内科、家庭医療科、総合診療科の無床診療所及び200床未満の病院を受診した20歳以上の全外来患者を対象にした質問紙調査「PROGRESS研究」の一部です。今回はその中で2018年2~3月の特定週1週間に受診して調査に回答した方の中から65歳以上の方1,000名を抽出しました。調査にはわが国で広く使われているプライマリ・ケアの尺度JPCAT*3を使用しました。
その結果、本研究対象者の予防接種率はインフルエンザが68%、肺炎球菌が53.8%でした。年齢、性別、学歴、世帯年収、主観的健康観の交絡因子を調整した後も、JPCATのスコアが1標準偏差分増加すると、予防接種を受けている人の割合がインフルエンザで1.19倍、肺炎球菌で1.26倍増え、予防接種実施と正の相関を示すことが明らかになりました。
今後の展開
本研究では原因と結果を直接証明することはできませんが、プライマリ・ケアにおいて患者が必要としている機能を十分に提供することで予防接種の接種率が向上する可能性があります。このことから、JPCATの調査を参考にしながらプライマリ・ケアを改善することで高齢者の予防接種率向上に寄与する可能性も考えられます。
用語説明
*1 プライマリ・ケア:
「身近にあって、何でも相談にのってくれる総合的な医療」(日本プライマリ・ケア連合学会ウェブサイトより https://www.primary-care.or.jp/public/index.html)
患者さんの年齢や症状の種類に関わらず、かかりつけ医的に、また在宅医療、緊急時の対応から、健康診断の結果についての相談、地域の検診や保健行政なども含めて、幅広く行う医療のことで、いわゆる「総合診療科外来」がこれにあたります。
*2 PX(Patient Experience):
医療の質評価に用いられる患者経験(Patient Experience)を指します。「患者がケアのプロセスで経験した事象」と定義され、患者にとっての価値に主眼をおいた尺度を用いて評価します。
*3 JPCAT (Japanese version of Primary Care Assessment Tool):
我が国初のプライマリ・ケアにおけるPX尺度であり、その特徴として、患者の価値観を重視し、患者が認識・利用する機能を評価する必要がある、といったプライマリ・ケアの特性を総合的に評価することが可能です。具体的にはプライマリ・ケアの主要な要素である以下の5つのポイントで29項目の質問を用い、それぞれのスコアと合計スコアで評価しています。
- 近接性 「診療時間外に体調が悪くなった場合も、相談ができる」など
- 継続性 「患者としてだけでなく、あなたという人をよく理解してくれる」など
- 協調性 「専門医の受診が必要になったときに、十分な手助けをしてくれる」など
- 包括性 「必要なときに、幅広い内容の相談ができる」など
- 地域志向性 「地域全体の健康問題に関心を持ち、その解決に取り組んでいる」など
※本研究は、医療経済研究機構の研究助成金を受けて行われました。
論文情報
掲載誌:Journal of General Internal Medicine
論文タイトル:Better Patient Experience is Associated with Better Vaccine Uptake in Older Adults: Multicentered Cross-sectional Study
著者:Makoto Kaneko, MD, PhD , Takuya Aoki, MD, MMA, PhD, Ryohei Goto, PT, PhD,
Sachiko Ozone, MD, PhD, and Junji Haruta, MD, PhD
DOI: 10.1007/s11606-020-06187-1