小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者における抗体獲得および保持についての調査研究を開始
研究の背景
新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)によって引き起こされる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)はパンデミック(世界的流行)となり、我が国でも広範囲に及ぶ外出自粛や休業、また学校や保育施設等においては休校休園等の措置を余儀なくされました。その脱却に向けた方法として、SARS-CoV-2に対する抗体検査により、免疫能の獲得を明らかにすることは、従来に近い社会活動を回復させるために指標のひとつとなる可能性が期待されています。
また、小児におけるCOVID-19 に関しては、感染者数が少なく、重症者割合・死亡者も成人と比較すると極めて低い割合であることがわかっており、感染経路に関しては、家族内感染が79%との報告もあります。小児におけるCOVID-19の病態や、抗体の獲得と保持の実態、抗体価測定の意義を明らかにするために、COVID-19小児患者におけるSARS-CoV-2に対する中長期的な免疫能を評価することが、小児における新しい日常にとって急務となっています。
横浜市立大学では、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業(研究代表者:山中竹春教授)の支援のもと、本年8月より、COVID-19に感染し回復された方々を対象に、抗体測定の意義を明らかにする大規模な研究「新型コロナウイルス感染症回復者専用抗体検査PROJECT(https://covid19-kaifuku.jp/)」を日本で初めて開始しました。
また、梁 明秀 教授を中心とする研究グループが開発した抗体検査試薬キットは、交差反応が極めて低く、特異度の高い抗体検査試薬を研究で利用可能となっており、今回この技術を使って小児の抗体調査研究を行います。
研究の概要
研究課題名
小児新型コロナウイルス感染症患者における抗体獲得および保持についての前向き観察研究
研究の方法
抗体が6か月後や1年後も残るのか、さらに残った抗体は再感染しにくいことを意味するのかを調べるために、初回のPCR等の検査が陽性となった日から、およそ3か月、6か月、1年後に、抗体検査と中和活性測定を行い、ウイルス感染阻止能を評価する研究を計画しました。本研究で得られた結果はさらに国産抗体検査キットの普及やワクチンの開発に貢献することが期待されます。
症例登録期間
2020年10月23日から2021年1月31日まで
研究の対象となる方
- 日本在住で研究登録時に16歳未満である
- 咽頭ぬぐい液、鼻咽頭ぬぐい液、または唾液のPCR等(PCR検査またはLAMP法)の遺伝子増幅検査によりCOVID-19と確定診断された小児患者(予定登録数 50例以上)
- 本研究の参加について、保護者等代わりの方が研究内容について十分な説明を受け、文書にて同意が得られている方
AMED 令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業について
※本研究は、下記の国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業の支援を受けて行われます。
研究課題
事業名:日本医療研究開発機構(AMED)令和2年度ウイルス等感染症対策技術開発事業
課題名:「新型コロナウイルス抗体検出を目的としたハイスループットな全自動免疫測定方法の開発及び同測定方法の社会実装に向けた研究」
研究体制
代表機関 公立大学法人横浜市立大学
代表研究者 横浜市立大学学術院医学群 臨床統計学 主任教授 山中竹春
分担研究機関 東ソー株式会社、関東化学株式会社
研究開発の概要
東ソー株式会社は、横浜市立大学 微生物学の梁 明秀 教授らが開発した抗体検出技術に基づき、既に事業展開している全自動化学発光酵素免疫測定装置(AIA-CLシリーズ)の新規項目として、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検出用の試薬開発を行います。短期間での製品開発と社会実装につなげることを目標とし、将来的に体外診断用医薬品としての製品化を目指します。本学は、このシステム開発のための基盤的研究として、抗原の選定や品質試験、全自動測定系に最適な抗原の作製法の探索等を行い、かつ、本学附属病院や他の医療機関等の臨床検体からのデータ収集や、科学的・社会的意義の高いデータ解析を実施します。さらに、本測定システムで得られた抗体価の結果に基づいた、COVID-19発症や重症化、治療効果予測、感染防御能との相関等についても検証します。
関東化学株式会社は、本測定システムにおいて、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)抗体検出用の試薬に用いる抗原タンパク質を安定的に生産する方法の確立を目指し、試薬原料(抗原タンパク質)の供給体制を整えます。