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京都産業大学生命科学部の加藤啓子教授、藤田明子研究員らの研究グループは、弘前大学の井原一成教授、東京都健康長寿医療センターの河合恒研究員ら協力の下、高齢者のうつ・不安症※1を検出する新規揮発性尿中バイオマーカー※2を発見し、英国科学雑誌「Discover Mental Health」(オンライン版)で発表した。今後、バイオマーカーを使った診断技術が確立されると、うつ・不安症の早期発見が実現し、フレイル※3から要介護への進行の防止に寄与することが期待される。
ストレス社会といわれている現在、うつ病や不安障害の罹患率は高齢者に多いとされ、このことは、健康と要介護の中間の状態を表すフレイルの進行リスクを高めてしまう。
フレイルにある3つの因子「精神的フレイル(うつ・不安症)」、「身体的フレイル(サルコペニア※4)」、「社会的フレイル(ひきこもり)」、を早期発見し適切な介入を行うことで要介護状態への移行を阻止し、自立した健康な生活に戻すことができるとされているが、精神的フレイルについては特に診断が難しく、簡易的な診断方法が切望されていた。
本研究では最終代謝産物である尿に着目し、尿中揮発性有機化合物(VOCs)※2を解析。精神科医が診断した9人の大うつ病および不安症罹患者と対象者の尿中揮発性有機化合物(VOCs)を、固相マイクロ抽出法※5とガスクロマトグラフ質量分析法※6を用いてプロファイリングしたところ、高齢者のうつ・不安症を検出するバイオマーカーを発見した。
加藤教授は、「今後は、健康診断や別の病気の診察をきっかけに高齢者のうつ・不安症を早い段階で見つけることで、フレイルから要介護状態への移行を阻止する手助けにつなげたい。そのため、より大きな規模での検査に発展させていきたい」とコメントしている。
この研究成果は、2022年10月27日(日本時間)に英国科学雑誌「Discover Mental Health」(オンライン版)に掲載された。
※1うつ・不安症
うつ病は、一日中気分が落ち込んでいる、何をしても楽しめないといった精神症状とともに、眠れない、食欲がない、疲れやすいなどの身体症状が現れ、 日常生活に大きな支障が生じている場合に、うつ病の可能性がある。精神的ストレスや身体的ストレスなどを背景に、脳がうまく働かなくなっている状態。一方で不安症は、心配や不安が過度になりすぎて、日常生活に支障が出る場合のことをいい、精神的な不安から、こころと体に様々な不快な変化が起きる状態である。
※2 揮発性尿中バイオマーカーもしくは、尿中揮発性有機化合物(VOCs)
揮発性有機化合物(Volatile organic compounds、 VOC)は、一般に、大気中で気体となる有機化合物の総称。本研究の対象である尿は、体内の代謝産物の中でも、特に、排泄される最終代謝産物を含む。この最終代謝産物の産生経路を遡って解析することで体内の代謝負荷を捉えることができると考えられる。うつ・不安症モデルマウスにおいて、脂肪酸鎖の異なる油脂餌が、うつ、不安症の程度に強く影響したが、油脂は、疾患のサインである匂いとも関連する。
※3フレイル
「加齢により心身が老い衰えた状態」のことをいい、高齢者のフレイルは、生活の質を落とすだけでなく、様々な合併症を引き起こす。フレイルの状態は、早く介入し、対策を行えば元の健康な状態に戻る可能性がある。
※4サルコペニア
サルコペニアとは、加齢による筋肉量の減少および筋力の低下のことを指す。2016年10月、国際疾病分類に「サルコペニア」が登録され、現在では疾患に位置付けられている。
※5固相マイクロ抽出法
尿中の揮発性有機化合物を吸着する、ジビニルベンゼン、 Carboxen、 ポリジメチルシロキサンから成るファイバーのことを示す。液体試料、固体試料、大気試料から揮発(香気)成分(分子量40〜275)を吸着する。
※6ガスクロマトグラフ質量分析法
ガスクロマトグラフィー質量分析装置(Gas chromatography mass spectrometer) 。質量分析器を検出器としたガスクロマトグラフ装置のことをGCMSと呼ぶ。ガス状の化合物または気化する化合物で、300℃程度で気化し、分解しない化合物を対象とする。一般に有機化合物を対象とする。
むすんで、うみだす。 上賀茂・神山 京都産業大学
関連リンク
・非侵襲性尿中揮発性バイオマーカーを利用した、うつ・不安症 診断技術の開発への試み
https://www.kyoto-su.ac.jp/news/20221028_345_release_ka01.html
・うつ・不安症モデルマウスにおいて、情動行動と連動する尿中代謝産物を発見--マウスの心が尿でわかる--
https://www.kyoto-su.ac.jp/news/20200302_400a_news.html
・京都産業大学 生命科学部 先端生命科学科 加藤 啓子教授
https://www.kyoto-su.ac.jp/faculty/professors/ls/kato-keiko.html
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【リリース発信元】 大学プレスセンター
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