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北里大学医療衛生学部血液学の佐藤隆司講師、堀江良一教授、医療系研究科大学院生、医療検査学科卒業研究生、医学部消化器内科学の魚嶋晴紀講師、日高央診療教授、草野央主任教授らの研究グループは、血小板減少を伴うC型慢性肝炎患者にC型肝炎ウイルス (HCV) を排除する直接作用型抗ウイルス薬 (Direct acting antiviral agents: DAA) (注1) による治療を行なった結果、血小板数の上昇および血小板に対する自己抗体を産生するB細胞の減少を見出しました。これにより、DAA治療による血小板数の回復には血小板に対する自己免疫応答の改善が深く関与していることを明らかにしました。
本研究成果に関する論文は、2023年1月3日にTaylor & Francis社のオープンアクセス誌「Platelets」に掲載されました。
■研究成果のポイント
◆ 血小板減少を伴うC型慢性肝炎患者において、DAA治療前と比べDAA治療後では血小板膜糖蛋白GP (Glycoprotein) IIb/IIIa (注2) に対する自己抗体を産生するB細胞が有意に減少しました。
◆ DAA治療により、自己抗体の産生に関与するB細胞活性化因子 (B-cell-activating factor: BAFF) (注3) の濃度が低下しました。
◆ HCV排除によるDAA治療が血小板に対する自己免疫反応を低下させ、C型慢性肝炎患者の血小板数を改善させることが明らかになりました。
■研究の背景
肝疾患における血小板減少の病態は、脾機能亢進症や血小板系の造血因子であるトロンボポエチン (Thrombopoietin: TPO) の産生障害、さらに自己免疫の関与が考えられています。自己免疫の関与として、自己抗体である抗血小板抗体が血小板上の血小板膜糖蛋白のGPIIb/IIIaなどに結合し、その血小板は網内系の貪食細胞のFcγ受容体 (FcγR) を介して取り込まれ、血小板の破壊が亢進すると考えられています【図1】。この機序は免疫性血小板減少症 (Immune thrombocytopenia: ITP) (注4) における血小板減少の機序と類似しているため、肝疾患に伴う血小板減少は二次性ITPに分類されています。
これまで本研究グループは、肝硬変の血小板減少において、血小板膜糖蛋白GPIIb/IIIaに対する自己抗体である抗GPIIb/IIIa抗体を産生するB細胞が多く検出され、それら抗体産生B細胞数と血漿BAFF濃度には正の相関があり、自己免疫が血小板減少の病態形成に深く関与することを明らかにしてきました (Satoh T et al. Ann Hematol. 2022, doi: 10.1007/s00277-022-04973-x)。
HCVの複製を強力に抑制するDAAは多くのC型慢性肝炎患者でHCV排除の治療に用いられています。そして、血小板減少を伴うC型慢性肝炎患者でDAA治療後に血小板上昇が散見されていますが、HCV排除による血小板数の回復の機序は不明であり、抗血小板抗体の動態や自己免疫機序の詳細は十分に解明されていませんでした。
■研究内容と成果
本研究では、DAAで8〜12週間治療を行い、治療後にHCV RNAが陰性となったC型慢性肝炎患者を対象としました。DAA治療前後の検体を用いて、血小板減少に関与する自己抗体 (抗GPIIb/IIIa抗体) を産生するB細胞数の変化、血漿BAFFや増殖誘導リガンド (APRIL)、IL-21、TPOの濃度の変化を測定しました。抗GPIIb/IIIa抗体産生B細胞数の測定はELISPOT法 (Enzyme-linked immunospot) を用いました【図2】。
血小板減少 (血小板数が10万/μL未満) を伴うC型慢性肝炎では、DAA治療により、血小板数は有意に増加し 【図3a】、抗 GPIIb/IIIa 抗体産生 B 細胞数は有意に低下しました 【図3b,c】。一方、これらの変化は血小板減少を伴わないC型慢性肝炎では認められず、また血漿TPO濃度は血小板減少の有無に関わらず、DAA治療では変化が認められませんでした。
さらに、血小板減少を伴うC型慢性肝炎の血漿BAFF濃度は、DAA治療により減少し 【図3d】、血漿BAFF濃度と抗 GPIIb/IIIa 抗体産生 B 細胞数は正の相関関係を示しました。これらの結果は、DAA治療が血小板に対する自己免疫反応を抑制し、血小板減少を改善することを示唆しています。
C型肝炎では肝細胞や肝臓内の樹状細胞から産生されたIFN-α/β、IFN-γなどの炎症性サイトカインがHCV排除に関与し、これらのサイトカインは単球やマクロファージに作用し、BAFFの産生を誘導することが知られています。このことから、DAA治療によるHCV排除が炎症性サイトカインの産生を抑制し、それに伴うBAFFの正常化により自己反応性B細胞が減少し、血小板減少が改善された可能性が推察されます【図4】。
■今後の展開
肝疾患に伴う血小板減少においては、病態を正確に把握し、それに基づいた検査法の開発や治療法の選択が強く求められます。本研究の知見において、抗 GPIIb/IIIa 抗体産生 B 細胞数や血漿BAFF濃度を経時的に測定することは、治療効果判定などに有効であると考えられます。また、C型肝炎は肝臓以外の臓器及び組織に多彩な病変を合併することが知られ、これらは肝外病変と総称されています。肝外病変の原因としては、HCV感染に対する免疫異常および病変部へのHCV感染の関与が考えられて、病態として自己免疫疾患も存在します。本研究成果は自己免疫が関与する肝疾患の病態解明にも繋がると期待されます。
■論文情報
掲載誌:Platelets
論文名:Introduction of direct-acting antiviral agents alters frequencies of
anti-GPIIb/IIIa antibody-producing B cells in chronic hepatitis C patients with thrombocytopenia
著 者:佐藤隆司*、魚嶋晴紀、和田尚久、瀧口隼人、金子芽衣、仲村真里奈、権田菜月、
本間真愛、日高央、草野央、堀江良一 (*責任著者)
DOI:10.1080/09537104.2022.2161498
■用語解説
注1) 直接作用型抗ウイルス薬 (DAA):
C型肝炎ウイルスが増える (複製) 時に必要なウイルス遺伝子の構成成分に直接働きかけ、ウイルスが増えないようにする薬剤である。
注2) 血小板膜糖蛋白GP (Glycoprotein) IIb/IIIa:
血小板膜上に最も豊富に存在するインテグリンであり、フィブリノゲンやフィブロネクチンなどの受容体である。止血機序、特に血小板の凝集に重要な役割を果たす。GPIIb/IIIaはITPの抗血小板抗体によって最も高率に認識される自己抗原である。
注3) B細胞活性化因子 (B-cell-activating factor: BAFF):
B細胞の増殖・生存・分化・抗体産生に重要な役割を果たす分子で、単球、マクロファージ、樹状細胞の細胞膜上に発現され、可溶型として分泌される。
注4) 免疫性血小板減少症 (ITP):
自己抗体である抗血小板抗体によって網内系での血小板破壊が亢進し、血小板減少を呈する後天性の自己免疫疾患である。
■研究資金
本研究は日本学術振興会の科学研究費 (19K08478, 22K08017) および北里大学医療衛生学部特別研究費の助成を受けて実施しました。
■問い合わせ先
≪研究に関すること≫
北里大学 医療衛生学部 血液学
講師 佐藤隆司(サトウ タカシ)
E-mail:takashis@kitasato-u.ac.jp
≪報道に関すること≫
学校法人北里研究所 総務部広報課
〒108-8641 東京都港区白金 5-9-1
TEL:03-5791-6422
E-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/