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弘前大学(青森県弘前市)大学院理工学研究科の渡辺孝夫教授(研究当時)らの研究グループは、量子液晶状態(注1)の量子力学的な揺らぎ(量子液晶揺らぎ)によって超伝導電子対の結合の強さが増強されることを実験的に明らかにした。今まで知られていた磁気的な揺らぎによる超伝導状態との比較により、非従来型超伝導の発現機構に対する理解が次のステージへ進むことが期待される。なお、本研究成果は2023年3月6日付けで米国科学誌『Physical Review X』にオンライン掲載された。
【本件の概要】
東京大学大学院新領域創成科学研究科の向笠清隆大学院生(研究当時)、石田浩祐大学院生(研究当時)、芝内孝禎教授、同大物性研究所の今城周作特任助教、金道浩一教授、岡山大学異分野基礎科学研究所の笠原成教授、弘前大学大学院理工学研究科の渡辺孝夫教授(研究当時)らの研究グループは、量子液晶状態(注1)の量子力学的な揺らぎ(量子液晶揺らぎ)によって超伝導電子対の結合の強さが増強されることを実験的に明らかにした。
超伝導状態の物質に磁場をかけていくと、ある大きさで超伝導が消失する。研究グループはこの性質に着目し、鉄系超伝導体(注2)のひとつ Fe(Se,Te)の超伝導が消失する磁場の大きさ(上部臨界磁場)を測定し、超伝導が磁場を大きくしていくとどのように変化していくのかを調べた。その結果、磁場が大きくなるにしたがって超伝導状態が徐々に縮小し、そこでは強い量子液晶揺らぎが発達していることがわかった。量子液晶揺らぎによって、超伝導電子対の形成を促す相互作用が強くなることを実証した。
今回の成果は、「量子液晶揺らぎによる電子対形成」という新しいメカニズムによる超伝導が実現可能であることを示すものであり、これまでよく知られている磁気的な揺らぎ(注3)による超伝導と比較することによって、超伝導の発現機構に対する理解が大きく進展することが期待される。
本研究成果は、2023年3月6日付けで米国科学誌『Physical Review X』にオンライン掲載された。
(注1)量子液晶状態
固体中の電子が量子力学的な効果により液晶に類似した性質を獲得した特異な電子状態のこと。電子集団の外場に対する応答が、方向により異なる性質(異方性)を示し、これは量子力学的な効果により固体中に液晶のような向きを持った電子状態が現れたと考えることができ、近年注目を集めている。
(注2)鉄系超伝導体
2008年に東京工業大学の細野秀雄教授(研究当時)の研究グループによって初めて発見された、鉄原子を含む超伝導物質群。常圧下では銅酸化物高温超伝導体に次いで高い温度で超伝導を示す物質群である。
(注3)磁気的な揺らぎ
電子はスピンという自由度があり、これによりそれぞれが磁石のように整列する場合がある。結晶全体でスピンが整列した状態から時間的に変動することを磁気的な揺らぎという。
▼本件に関する問い合わせ先
弘前大学大学院理工学研究科 総務グループ総務担当
住所:青森県弘前市文京町3番地
TEL:0172-39-3510
メール:r_koho@hirosaki-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/