自社オフィスを用い、複雑化する社会課題の解決に向けた実証実験をスタート
脱炭素やワークスタイル変革、ダイバーシティなどを推進する取り組みを導入した新オフィスへ
株式会社日建設計(本社:東京都千代⽥区、代表取締役社⻑:⼤松敦、以下「日建設計」)は、2023年4月より、東京オフィスのリ・デザインを皮切りに、各拠点の刷新にあわせた新たなワークプレイスの実証実験を開始します。■自社オフィスを実証実験の場とする背景と想い
ここ数年来、社会課題は様々な要因が絡み合い複雑化・多様化しており、1つのサービスや組織の力で解決することは困難な状況になっています。
地球温暖化や資源の枯渇、コロナ禍以降浸透したリモートワークによる働き方の変化とその弊害など、新たな社会課題解決のためには、分断された社会を再び結び付けることが重要なプロセスだと考えられます。
日建設計は設計事務所として、建築士人数、売り上げが国内1位※1、世界主要設計事務所の中でも建築士人数世界3位、売り上げで世界2位※2と上位を占めています。また、過去60年間に弊社が担当した設計プロジェクトのCO₂排出量は、日本のCO₂排出量の1.2%にあたる※3など、日建設計の活動は少なからず社会へ影響を与えています。
そのため、カーボンニュートラルをはじめとする社会課題に対して都市・建築のフィールドでより効果的な取り組みを生み出すこと、またそこから得た知見を、業務を通じて広く社会に実装していくことは、日建設計が果たすべき重要な役割であり、責務であると考えています。
そこで、この度、自社オフィスのリ・デザインを行うタイミングで、様々なプレイヤーをつなぎ、共創し、自社を舞台に実証実験を行うことで、よりよい社会環境創造に向けた取り組みを推進することといたしました。
※1国内主要設計事務所の2021年度決算ランキング(日経アーキテクチュア20220908)
※2World Architecture 100 2023
※3過去60年の設計プロジェクトの床面積と用途別原単位から算出した略算結果と2021年4月国立環境研究所公表データより算出
自社オフィスのリ・デザインコンセプトは以下の4点です。
~あたらしいオフィス空間のトライアルの場として~
- 新しい社会ニーズに応える多様な価値を創造する
- 設計事務所として技術を磨き、最高の信頼を得る
- オフィスに集まって一人でできないことを実現する
- 働きながら社会課題解決を率先して行う
今回開始する「自社オフィスを用いた実証実験」のポイントは以下の5点です。
- 複雑化する社会課題に対し、社内外で共創していく仕組みづくりの仕掛け
- オフィスからカーボンニュートラルを推進する取り組み
- コロナ禍で変化したワークスタイルに対応する取り組み
- 多様性を尊重する建築環境への取り組み
- 地域やビルのタイプを問わず、課題解決にチャレンジできる仕掛け
1.複雑化する社会課題に対し、社内外で共創していく仕組みづくりの仕掛け@東京オフィス
●複雑な社会課題解決のためのインフラとなるフロア「PYNT(ピント)」(3階)
東京オフィスの1階から4階を、「つながる」、「学ぶ」、「発信する」をテーマに社会とつながり 人が集う "共創がうまれる場"と位置づけ運用します。
その中でも、社内だけでなく、企業や大学、行政、NPOといった社外の共創パートナーも巻き込んだオープンイノベーションにより複雑な社会課題の解決を目指すインフラとなるのが、3階に新設するフロア「PYNT(ピント)」です。4月10日(月)にオープンします。
ワークショップ、イベントなどが定期的に行われているほか、人が集まるカフェ、社内外の人をつなぐコミュニティチーム、共創プロジェクトを生むきっかけをつくるイノベーションデザインセンターなど、活動を支援する仕組みを持っています。
PYNTは、社内の閉じた空間ではなく、社外の方も利用できるフロアです。試行錯誤の過程や未完成のプロダクトを展示し、フィードバックを得やすい場での対話を誘発して社会課題解決に向けたチャレンジを加速します。「社会にひらく、未来への解像度があがる場」を目指し、日々実証実験を繰り返しながらアップデートをしていきます。
PYNT Website : https://www.nikken.jp/ja/about/pynt.html
●GARAGE SYSTEM(3階)
PYNT内に設けた“GARAGE”という場所は、未完成の取り組みやプロトタイプの展示スペースです。展示内容は、社内からの公募で入れ替えます。この仕組みを”GARAGE SYSTEM”としました。未完成の展示を体験した方たちからフィードバックを得る、仲間になってもらうなど、共創のための仕組みです。次に紹介するFuture Platform®もGARAGE SYSTEMの展示のひとつです。
●未来の社会課題を見据えた、先端的取組みやテクノロジーのデータベース「Future Platform®」(3階)
現在はもちろん、未来に起こる社会課題まで見据え、解決に向けて活用できる先端的取組みやテクノロジーのデータベースコンテンツとしてPYNT内での対話を加速させる装置のひとつが「Future Platform®」です。本コンテンツにより、多彩な先端的取組みと都市・建築が融合した未来の社会環境を、共創者とコミュニケーションしながら検討することが可能です。
●XRテクノロジーで、空間や寸法感覚を社内外で共有できる「XRスタジオ」(3階)
XRスタジオは建築と仮想世界を地続きの場と捉え、空間の開発・実験・展示を行うスタジオです。VR、AR、MR、プロジェクションといったXR関連のテクノロジーを複合的に組み合わせ、対象空間の解像度を高めるためのコンテンツや方法を実装していきます。
例えば建築設計において寸法感覚は重要なものです。ここでは、現実の「間隔」と、自身の長年培った「感覚」をキャリブレーションすることができる空間を、プロジェクションとXRで複合的に体験できるようにしました。実践的な建築空間から仮想世界まで、社内・社外の共創パートナーと共有・議論しながらこの場をつくっていきたいと考えています。
2.オフィスからカーボンニュートラルを推進する取り組み
●2050年カーボンニュートラル実現に必要なZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)の鍵、ビルオーナーとテナントが一体で進める脱炭素化@大阪オフィス
2050年のカーボンニュートラル実現には、CO₂排出量に占める比率が高い業務部門、とりわけ事務所ビルの脱炭素化が重要です。事務所ビルの脱炭素化は自社ビルであれば取り組みやすい一方、建物の開発・運用者(ビルオーナー)と使用者が異なるテナントビルでは取り組みづらく課題となっていたことから、環境省でも2021年9月に「リーディングテナント行動方針」を発表しました。
※環境省HP https://www.env.go.jp/earth/zeb/tenant/index.html
こうした課題を背景に、大阪オフィスがテナント入居するビルのオーナー・銀泉株式会社様は自社所有のテナントビルにおけるカーボンニュートラル対策を検討・実施されてきましたが、さらなる加速案が必要と感じておられました。
そこで、日建設計より建築設計事務所の知見を生かした新たな提案をさせていただき、本年5月に入居する銀泉備後町ビルで、共に実証実験を行うこととなりました。
特徴的な施策は窓改修です。銀泉株式会社様は、日建設計が入居する銀泉備後町ビルの環境性能を上げるために窓改修を実施し、自然換気を増強することでエネルギー面に加えて感染症対策面の性能を向上させます。日建設計はさらに、ビルの持つポテンシャルを最大限に活かせるよう、オフィス内の滞在状況に応じて照明や空調を停止してワーカーの移動を促すなど、快適性と環境共生を両立させる運用を行います。
今後、両社の一体的な取り組みによるCO₂削減量の計測と検証を行い、本取り組みがテナントビルにおけるカーボンニュートラルの新たな形となることを目指してまいります。
●ワーカー一人ひとりのCO₂排出・削減量を可視化、環境行動を促すアプリケーション「Asapp(アサップ)」@東京オフィス
建物の改修だけでなく、ユーザー側の行動変容を促すアプローチで脱炭素を推進するため、環境行動を促すスマートフォンアプリケーション「Asapp(アサップ)」を開発し、東京オフィスで試験運用を開始しました。個人の活動によるCO₂排出量に加え、アプリがフロア移動を促して空調や照明使用を最小化することで、ワーカー一人ひとりのCO₂削減量も可視化します。削減した分は、社内のカフェで使えるポイントに還元されます。
https://www.nikken.co.jp/ja/news/press_release/2023_03_01.html?cat=ALL&archive=ALL
カーボンニュートラル推進の一環として、原材料や製品を可能な限り廃棄させずに再利用することで、環境負荷低減や持続可能な資源利用を達成する「サーキュラーエコノミー(循環型経済)」の原則に従った設計を東京、大阪、名古屋のオフィス改修に取り入れます。
改修後のオフィスのコンセプトに合わせ、新たに投入する資源は自然素材やリサイクル材など環境に良い素材を用いることに加え、改修によって発生する廃棄・解体材に対して付加価値をつけ、新たな用途に活かすための検討や実践を行っています。
また、社内だけではなく他の場所や組織で使えるよう専門業者を通じて、できるだけ捨てないための取り組みも進めてまいります。リユース、アップサイクル、リサイクルの適材適所での適用によって、社会システムを広く見据えた素材循環を目指しています。
●ビル改修を題材とした、建設起因のCO₂ 定量評価法の確立@東京オフィス
これまで、改修起因のCO₂削減の定量評価法は確立されていませんでした。ものさしが存在しないため、実態が把握されておらず、相対的な評価は困難であり、削減目標がもてないことで、改修におけるカーボンニュートラルは促進されにくい状況でした。
この度、東京オフィスにおいて、同面積の新築との比較による建設起因のCO₂削減量を算出します。さらに、リユース、アップサイクル、リサイクルの活用で、捨てなかったことにより発生しなかったCO₂、捨てるための輸送起因のCO₂を積み上げることで、実態把握を行います。
また、この手法を日建設計の他地区オフィスでも展開し、データを積み上げることで、定量評価を行います。
3.コロナ禍で変化したワークスタイルに対応する取り組み
●コミュニケーション促進に重点を置き、偶発的な出会いを生み出すアクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)@大阪オフィス
新たな働き方の実践として、働く場所や時間をそれぞれが自由に選べる働き方「アクティビティ・ベースド・ワーキング(ABW)」のトライアルを大阪オフィスで行います。
従来ABWでは、「集中したい」「WEB会議がしたい」「人とコミュニケーションがとりたい」など、個人のニーズにフォーカスしたレイアウトが一般的でした。
そこで日建設計では、オフィスを「個人でできないことを実現する場」として位置づけ、ABWのレイアウトも “人とのコミュニケーション”を前提に再構築しました。例えばイベントを開催するフロア、デジタルツールを集めたフロア、本やサンプルなどの資料を集めたフロア、CGと模型を集めたフロアなどがあり、各コンテンツを目的に集まってくる人同士のコミュニケーションを誘発し、偶発的な出会いを生み出すことで、新たなイノベーションにつながる理想的なABWの形を模索します。
「おいしい環境建築」は、現代農業技術であるアグリテックを活用し、オフィス内で野菜やハーブなど、「使える、食せる植物」を育てることで、人と植物の積極的な関わり合いからウェルビーイングな環境を創出する取り組みです。
2022年6月27日~8月5日に先行して実施した日建設計社内の概念実証(PoC)では、本取り組みによるコミュニケーション機会やリフレッシュ効果の創出、出社モチベーションや健康意識の向上などが実証されました。前述のガレージシステムを活用した今回の実証実験では、社外の方々も巻き込みながら、さらなる価値を検証するとともに、自社への導入を検討いただける共創パートナーも募集します。
4.多様性を尊重する建築環境への取り組み
●“誰が使うか”ではなく“何をするか”にフォーカスしたトイレ@東京オフィス(3階)
新しいトイレでは「誰が使うか」ではなく「何をするか」に着目してトイレの区分方法を見直し、トイレにおける排泄以外のアクティビティに沿って3種類の個室(瞑想/仮眠などの“リラックス”、歯磨/ストレッチなどの“リフレッシュ”、着替え/身だしなみを整える“スタイリング”)を計画しました。
5.地域やビルのタイプを問わず、課題解決にチャレンジできる仕掛け
●“課題解決の再現性”に向け、バラエティに富む地域や気候、異なるビル形式や規模感を用いた実証実験展開@全社オフィス+α
自社を「あたらしいオフィス空間のトライアルの場」として捉え、様々な社会課題の解決に向けて展開する今回の実証実験から得られる成果は、同様の課題を抱えたクライアントの皆さまや社会への還元を目指しています。
今回限りの取り組みとせず、課題解決の考え方に再現性を持たせるため、実証実験では様々なタイプの自社オフィスを用います。
地域の観点では、札幌、東京、名古屋、大阪、博多と気候も環境も大きく異なる日本国内の拠点を用い、ビル形式では既存自社ビル、共同ビル、テナントビル、規模では40名程度の小規模から1,000名以上の規模まであり、様々な枠組みでオフィスの新たなトライアルを展開します。
■日建設計について
日建設計は、建築・土木の設計監理、都市デザインおよびこれらに関連する調査・企画・コンサルティング業務を⾏うプロフェッショナル・サービス・ファームです。1900年の創業以来120年にわたって、社会の要請とクライアントの皆様の様々なご要望にお応えすべく、顕在的・潜在的な社会課題に対して解決を図る「社会環境デザイン」を通じた価値創造に取り組んできました。これまで⽇本、中国、ASEAN、中東で様々なプロジェクトに携わり、近年はインド、欧州にも展開しています。
URL:https://www.nikken.jp/ja/