【弘前大学】四肢の再生能力を''見える化'' -- かたちの再生において活性化するゲノム領域をカエルで実証 弘前大学 2023年07月25日 20:05 弘前大学(青森県弘前市)大学院農学生命科学研究科の多田玲美さんと横山仁准教授、東北大学大学院生命科学研究科の東舘拓也さんらは遺伝子組換えの技術を駆使して、四肢のかたち作りでカギになると予想されるゲノム領域の働きを可視化(見える化)し、幼生では再生中の四肢でこのゲノム領域が活性化するのに対して、成体では活性化しないことを解明した。この研究成果は日本時間2023年5月28日に国際誌『Developmental Biology』に掲載された。 【研究の背景】 イモリやサンショウウオのような両生類は高い再生能力を持ち、四肢を切断されても再生することができる。四肢の切断後に「再生芽」という細胞集団が切断面に作られ、四肢を元通りに再生する(図1)。 アフリカツメガエルの場合は幼生(オタマジャクシ)では、四肢を切断しても元通りに再生する。四肢の親指の側を前側、小指の側を後ろ側とすると前側-後ろ側に沿ったパターン(前後軸)も元通りになる(図2)。しかし尾の消失などの体の作り替え(変態)が完了して成体になると再生能力が低下し、四肢を切断しても1本の棒状軟骨しか再生できず、四肢の前後軸に沿ったパターンは見られない(図2)。 脊椎動物の四肢で前後軸が作られる過程においては、後ろ側で働くshh (sonic hedgehog)という遺伝子がカギになることがわかっている。ツメガエルでは幼生の再生芽はshhを発現するのに対して、成体の再生芽はshhを発現しないことから、shhの欠如によって前後軸を作れないために成体の四肢は1本の棒状軟骨しか再生できなくなっている可能性が以前から指摘されてきた。しかしなぜ成体ではshhを発現できないのか、その理由は分かっていなかった。 近年の研究から、四肢におけるshhの発現は同じ染色体上に存在する四肢エンハンサーと呼ばれるゲノム領域によって調節されることがわかってきた(図3)。さらにツメガエルにおいては、幼生では四肢エンハンサーのDNAが低メチル化状態にあるのに対して、成体では高メチル化状態になることから、DNAのメチル化というエピジェネティクス制御によって四肢エンハンサーが不活性化されることで、成体の四肢ではshhを発現できなくなっている可能性が示唆された。しかし両生類の四肢再生におけるshh四肢エンハンサーの活性化の有無についての検証はこれまで行われてこなかった。またエンハンサーの活性化と四肢の再生能力との対応についてもわかっていなかった。 【研究の内容】 本研究では、shh四肢エンハンサー配列に緑色蛍光タンパク質(GFP)を連結したもの(図4上段)をゲノムに導入した遺伝子組換えツメガエルを作製することで、四肢エンハンサーの活性化をGFPの蛍光で可視化。その結果、幼生の再生芽では四肢エンハンサーが活性化することがわかり、両生類の四肢再生におけるこのエンハンサーの活性化を初めて実証した(図4下段)。これに対して成体の再生芽ではエンハンサーの活性化が見られないことから、前後軸のある四肢を再生する再生芽においてのみ、エンハンサーが活性化することが示された(図4下段)。 一方で、四肢エンハンサーの活性化に関わるhoxd13などの遺伝子は幼生だけではなく成体の再生芽でも発現していることが遺伝子発現の比較解析から分かった。幼生に比べて成体の四肢では四肢エンハンサーのDNAが高度にメチル化されていることを考えると、成体の再生芽ではエンハンサーの活性化因子が存在するにも関わらず、エピジェネティクス制御によってエンハンサーは活性化因子に対して応答できなくなっている可能性が考えられる。 この予想をさらに裏付けるために、遺伝子組換えによってツメガエルのゲノム中に導入された四肢エンハンサー配列に対しても、そのメチル化状態を解析。その結果、導入された四肢エンハンサーについても、幼生に比べて成体になるとDNAのメチル化率が増加することが示され(図4下段)、成体の四肢ではエピジェネティクス制御によってエンハンサーが不活性化されている可能性が更に示唆された。 【本研究の意義と今後の展開】 四肢再生におけるshh四肢エンハンサーの活性化が実証されたことで、器官の再生における形づくりのメカニズムの解明が進むと期待される。前後軸のある四肢を再生する再生芽でのみ四肢エンハンサーの活性化が見られたことから、体軸に沿ったパターンを持つ器官を再生させる上で、パターン形成を制御する遺伝子のエンハンサーの活性化が重要であることが示唆された。 また、再生能力が低下する成体においてはエピジェネティクス制御によるエンハンサーの抑制が示唆されることから、再生能力の低い四肢により完全な再生を行わせるためには、カギとなるエンハンサーのエピジェネティクス抑制の解除が重要だと考えられる。 四肢を形成する基本的なメカニズムは両生類でもヒトでも共通している。ヒトは両生類と比べて再生能力が低いが、四肢のように体軸に沿った明瞭なパターンを持つ器官の再生を、将来、ヒトで目指すに当たっては、本研究の成果が大きなヒントになると考えられる。エピジェネティクス抑制の解除の方法としては、DNAメチル化などのエピジェネティクス抑制を阻害する薬物の投与やゲノム編集技術を応用したエピゲノム編集などが考えられる。また本研究で樹立したshh四肢エンハンサーの活性化をGFPによって可視化する遺伝子組換え個体は、エンハンサーの活性化を蛍光で簡単にチェックできるため、エピジェネティクス抑制を阻害する化合物を探索する大規模スクリーニングにおいても利用が期待される。 ■用語解説 (用語1)エンハンサー:ある遺伝子に対して転写を促進させる働きをもつ、ゲノムDNA中の調節領域。非コードDNA領域と呼ばれる、遺伝子(エキソン)以外の領域の中に存在する。 (用語2)エピジェネティクス制御:DNAの塩基配列の変化を伴わずに細胞分裂や世代を経て伝わる遺伝子発現の制御を指す。ゲノムDNAやそのDNAに巻き付くヒストンタンパク質に対して、メチル基やアセチル基が付加されたり外れたりすることで、遺伝子発現の活性化や抑制がもたらされる。 (用語3)DNAのメチル化:代表的なエピジェネティクス制御の1つで、脊椎動物では遺伝子発現の抑制をもたらす。ゲノムDNAにおいてシトシンとグアニンが連続した配列(CpG配列)のシトシンに対してメチル基が付加することがある(メチル化シトシン)。メチル化シトシンの割合が増えると、そのゲノム領域での遺伝子発現が抑制される。 (用語4)エピゲノム編集:ゲノム編集の技術を応用して、特定のゲノム領域において塩基配列を変化させることなくエピジェネティクス制御を改変する技術のこと。例として、クリスパー(CRISPR)をベースにしてDNAのメチル化を促進または解除する技術が報告されている。 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/
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