【東京農業大学第三高等学校附属中学校】12/12(火)養殖体験として春から育ててきたヒラメを実食しました。
命をいただくことの重みや生産者への感謝の気持ちを学びました。
東京農業大学第三高等学校附属中学校(埼玉県東松山市)では、校内で「ヒラメ」を養殖するという体験を、中学2年生の「実学教育」プログラムとして実施しています。日本の水産資源確保に関する課題や、「命」の大切さについて理解を深めることを目的としており、NPO日本養殖振興会の代表理事を務める齊藤浩一氏を講師に、2019年度から導入しました。今年度の2年生59名は、2学級それぞれ2匹ずつ、計4匹のヒラメを育ててきました。
5月9日(火)、7センチ程の小さなヒラメが校舎にやってきました。ヒラメを迎えるにあたって、事前学習としてヒラメの生態や飼育方法についてしっかり学び、エサのやり方や水の替え方、水槽の洗い方の詳細な手順はもちろん、ヒラメの命に関わりかねない禁止事項や、万が一病気になった場合の対応方法などを資料にまとめ、発表しあいました。
養殖が本格的に始まると、生徒たちは毎日ヒラメの世話をするだけでなく、食べたエサの個数やその日のヒラメの様子などを観察し、「成長調査レポート」を作成しました。性格にも個体差があり、調査レポートにはあまりエサを食べない小さなヒラメを気遣い、工夫してエサをあげた様子なども記録されています。海水の入れ替え作業や、ろ過層のマットの掃除など慣れるまでに時間がかかりましたが、特に前年度の養殖体験の様子を、興味関心を持って見ていた科学部の生徒たちが他の生徒をサポートする場面もありました。また、齊藤講師からヒラメの話題に関連して、日本の養殖業界を取り巻く現状や「食文化」など様々な講義を受け、幅広い学びや発見の機会となりました。
夏休みが明けて二学期が始まると、ヒラメはどんどん成長し、生徒たちは作成してきた「成長調査レポート」のデータを分析し、発表資料にまとめ、受験生に向けた学校説明会や文化祭にて発表しました。途中、急に水槽の水が汚れてしまったり、ヒラメに元気がない日が続いたりといったトラブルも発生しましたが、すぐに講師と状況を共有して適切な処置を取りながら、その原因を自分たちで考察しました。生徒の中にはヒラメの状態を心配して、休校日に登校し、ヒラメに寄り添う姿も見られました。
12月12日(火)、一番大きいヒラメはおよそ30センチまで成長し、プログラムの集大成である、育ててきたヒラメを「食べる」瞬間がやってきました。これまでの経験と、今年の2年生の頑張りもあり、過去5年間で初めて、4匹のヒラメの命を途中で失うことなく、この日を迎えることができました。調理師免許を持つ齊藤講師から、「素材の味」を活かすことを大切にする和食の話や、調理道具の包丁についての講義の後、遂にその時を迎えます。大切に育ててきたヒラメがまな板に乗った様子を目の前に、生徒たちは自然と手を合わせました。
齊藤講師が、素早くヒラメを絞めると、1時間ほど前まで元気に水槽を泳いでいたヒラメに、じんわりと血がにじみます。その様子にショックを受けている生徒もいましたが、命をいただくことの重みをしっかりと受け止めました。ヒラメは丁寧に五枚に下ろされ、さらに一口サイズに捌かれると、さっと出汁で熱を通され、生徒たちのもとに渡りました。一人一人の様々な思いのこもった「いただきます」の声が調理室に響き渡り、全員がその味をしっかりと噛みしめました。
実食の後は、最後の取り組みとして、これまでの体験や講義を振り返り、「養殖新聞」にまとめました。「未来の養殖」についても考えを巡らせ、12月14日(木)に発表会を行いました。
このプログラムについて、生徒からは「水槽を洗って水を入れ替えるのに毎回1時間くらいかかったけれど、ヒラメのために頑張れた」「命を預かる責任を実感できた」「生産者がどんな思いで育てているかが少しわかったと思う。食べ物や作っている人や、育てている人への感謝を忘れずに生きたい」といった感想が寄せられました。その様子を4月から見届けてきた、2年生の学級担任を務める佐藤茜先生は「生徒たちは毎日ヒラメの様子を気にかけ、小さな変化を見落とさず真摯に向き合ってきました。この体験を通じて、生徒の主体性や考え方の変化を実感していました。中には学力向上のきっかけになった生徒もいたようで、ヒラメといっしょに、生徒たちも大きく成長くれたと感じます」と笑顔で話してくれました。
取材・撮影 学校法人東京農業大学初等中等教育部