地震後の建物の蓄積ダメージを正確に把握する「ダイレクトモニタリング」を東京大学と開発
南海トラフ地震や首都圏直下地震などの巨大地震の発生リスクが高まっていることや、昨今発生した大地震の被害から、地震後の建物の安全性の判断について関心が高まっています。防災拠点施設や不特定多数が利用する大規模施設を中心に地震後に利用者の避難の要否を即時に判断する構造ヘルスモニタリングシステムを採用する建物が増えています。
一方、令和6年能登半島地震のように繰り返し地震発生が集中する事例や、熊本地震にみられた前震や余震など、建築基準法で建物の供用期間に1回程度と想定している規模の大地震が複数回発生し、建物にダメージが蓄積されることが分かってきています。
このような背景を受け、地震後の建物全体の被害状況のみを判定する一般的なヘルスモニタリングシステムに加え、長期間にわたり建物を構成する部材に蓄積するダメージをモニタリングし、早期の復旧を目指す必要があると考えました。
■「ダイレクトモニタリング」の特徴
今回開発した「ダイレクトモニタリング」では、東京大学伊山潤准教授が開発した計測システムと検出技術を活用し、計測した鉄骨造建物の柱や梁のダメージ蓄積データをもとに、大地震時に被害が生じた場合に詳細な検討を行うことで早期復旧を支援します。
また、蓄積ダメージを把握することでより発生頻度の高い中小地震に対しても建物の維持管理を支援し、安心して建物を継続使用して頂きます。
【従来手法】
※仕上げに覆われた部位の詳細な状態確認は困難
②応急の目視調査結果に基づき、調査技術者が安全性を評価
③復旧のため、広範囲・長期間の詳細調査を実施
④繰り返される地震に対しては安全性の判断ができない
▼
【開発手法(NSmosⓇ+ダイレクトモニタリング)】
①建物の被災度・部材ダメージを、デジタルデータとして検出
※仕上げに覆われた部位においても損傷部位・状態を推定
②検出データに基づき、修復要否を迅速に建物所有者に発信
③復旧のため、範囲を限定した効率的な詳細調査を実施
④繰り返される地震に対してもダメージ蓄積を考慮した安全性の判断ができる
■10層鉄骨造オフィス試験体や自社ビルで検証中
2023年2月に国立研究開発法人防災科学技術研究所が実施した「10層鉄骨造オフィス試験体による建物の動的特性評価実験」の余剰空間貸与制度を利用し、東京大学伊山潤准教授とダイレクトモニタリングの検証を行いました。また、2023年4月には、日建設計東京オフィスに共創の場として開設された「PYNT(ピント)」にもオープン当初から本システムを実装し、検証を行っています。
■今後の展開
日建設計構造設計グループでは、設計から地震後の建物機能・復旧まで一貫したレジリエンスサポートサービスを開発・構築し、実用化・商用化を目指していきます。
【計画期】
・オーダーメイドの設計用模擬地震動「NS Wave®」
・地震時の揺れを疑似体験できる「SYNCVR®」
【応急期】
地震時の建物被災度を迅速に判定できる「NSmos®」
【復旧期】
地震後建物の早期復旧を支援する「ダイレクトモニタリング」
一連のレジリエンスサポートサービスにより、建物の機能維持とライフサイクルコストの最適化を図ります。
また、今後も継続してコンテンツの充実・サービスの質の向上に努め、多用な社会課題解決に貢献します。
■東京大学 伊山潤准教授コメント
南海トラフ地震など、これまでの想定を超える地震の発生や、それに伴う都市機能・経済活動の長期間の低下などが危惧される中で、建築構造物の性能の実態を継続的に監視し、その安全性を確認・維持してゆくことは建築構造に関わる者の責務であると考えています。
私はこれまで、加速度やひずみを実建物において簡易かつ実用的な水準で計測することにより、建物のなかの個別の部材性能や損傷の実態を迅速に判定するための技術の研究を進めてきましたが、今回、日建設計との協働により、実装・普及段階に進むことができることを嬉しく思います。継続して、構造実験・振動実験、実測検証の継続により計測・分析技術の高度化・簡易化を進め、より多くの建物で採用いただける安全性評価技術の向上に努めてゆきたいと思います。
■日建設計について
日建設計は、建築の設計監理、都市デザインおよびこれらに関連する調査・企画・コンサルティング業務を⾏うプロフェッショナル・サービス・ファームです。1900年の創業以来120年にわたって、社会の要請とクライアントの皆様の様々なご要望にお応えすべく、顕在的・潜在的な社会課題に対して解決を図る「社会環境デザイン」を通じた価値創造に取り組んできました。これまで⽇本、中国、ASEAN、中東でさまざまなプロジェクトに携わり、近年はインド、欧州にも展開しています。2021年3月には、脱炭素社会への取り組みに向けた「気候非常事態宣言」を宣言しました。
URL:https://www.nikken.jp/ja/