一般建物の構造材木質化技術を公開し脱炭素社会に貢献
新技術による木材活用により建設時CO2排出量を約10%削減
株式会社日建設計(本社:東京都千代⽥区、代表取締役社⻑:⼤松敦、以下「日建設計」)は、2050年の脱炭素社会の実現に向け、建築物の床や壁面などにおける構造材を中心とした新たな木質化促進技術を開発し、実用化しました。
この度、開発した技術のうち「木質合成床」「高耐力高靭性型CLT耐震壁」は、すでに設計段階にある商業建物プロジェクトに適用中です。また、「耐火木材用柱梁接合部」も、適用が必要なプロジェクトがあれば、導入可能です。これらの技術はより多くの事業主・設計事務所・建設会社の方々の選択肢を拡げていただくために、今後も設計手法等を公開、一般構法化を目指してまいります。
■背景:脱炭素社会に向けて求められる建築への木材活用
日本国内におけるCO2排出量の3分の1は建築関連※であり、脱炭素社会の実現が求められる中での対策が急務です。こうした背景もあり、生育過程でCO2を吸着・固定する効果を持つ木材を積極的に建築へ取り入れる動きが活発化しており、2024年4月施行の改正建築基準法では耐火建築物の一部を木造とすることも可能となっています。
※2024年3月 一般社団法人日本建築学会「建物のLCA指針 改定版」
1900年に発足した日建設計は、現代のさまざまな社会課題に応えていく“社会環境デザイン”を掲げ、これまで関係者と連携しながら課題解決に向けた取り組みを推し進めてまいりました。そこでこの度、耐力※や遮音性、靭性能※をはじめとする木材活用の課題に着目し、今後、建築に木材を取り入れやすくする「床」「壁」「接合部」における木材の活用促進技術3点を開発しました。※耐力:材料が耐えうる力 ※靭性能:材料の粘り強さ
木材やコンクリート、鉄といった建築建材にはそれぞれ一長一短があり、木材には例えば燃えやすい、耐震性や遮音性が低いといった弱点がある一方、炭素排出量が低い、重量が軽いといった強みがあります。今回日建設計が開発した木質化促進技術は、木材を他の建材と組み合わせることで弱点をカバーする、あるいは木材をそのまま用いることで従来の強みを活かしながら建築への木材導入を行うものです。
建築に用いる建材の特性比較
■詳細:建築への新たな木質化促進技術
一般的に、建築では他の箇所に比べて床に使用される建材量が多く、木材の導入によって多くの炭素固定が可能となります。一方で床を木材のみで構成する場合は耐火性や遮音性、居住振動に課題が残るため、鉄筋コンクリートと木材のハイブリッド化で課題解決を図ったのが「木質合成床」です。法律上求められる耐火性能と耐力は鉄筋コンクリート部分で満たしつつ、炭素の固定、および床材として軽量化することで柱梁などへの負担を減らし、耐震性を向上しました。現在設計中の商業ビルのプロジェクトで適用が始まっています。
木質合成床のイメージ(CLT方式)
※個別評定: 特定の試験方法では評価できない建材や設備等を、建築基準法及びその他の技術基準に照らして、個別建築物への適用ごとにその構造安全性について評価する制度。
オフィス、庁舎、集合住宅など中高層の建築に木材を導入する際、木材とスパンの大きな空間に有効な鉄骨などと他の建材とを組み合わせてこれらの性能を確保するケースがあります。
これまでも耐火性や耐震性が担保された木質の柱や梁そのものは存在しているものの、開発各社ごとにその接続部の仕様がオープンになっていないため組み合わせて設計することが難しい状況でした。そこで今回、中高層建築において鉄骨と木材を組み合わせることはもちろん、複数の企業が開発した仕様の異なる木柱や木梁であっても組み合わせて接合できる「耐火木造用柱梁接合部」を開発しました。木部の割裂補強技術の開発により、木部より先に工業製品の鉄部を安定的に破壊させることで安全性を追求した技術です。現在、個別評定の取得を計画中です。
今後、中高層建築での木材活用促進に向け、社会で広く、オープンに利用できる手法も検討する予定です。
日建設計の試算では、今回開発した木質合成床や耐火木造用柱梁接合部の技術を用いることで、例えば地上11階の建築であれば、鉄骨造に比べて建物全体で約10%(躯体では約20%)のCO2排出量を削減できる見込みです。脱炭素社会の実現に向け、建築への木材活用ポテンシャルはまだ多く残されており、日建設計では、今回の開発技術を次世代新築大規模ビルのプロトタイプなどにも適用を図りつつ、社会環境デザインの視点から今後もこうした開発を進めてまいります。
日建設計は、建築・土木の設計監理、都市デザインおよびこれらに関連する調査・企画・コンサルティング業務を⾏うプロフェッショナル・サービス・ファームです。1900年の創業以来120年にわたって、社会の要請とクライアントの皆様の様々なご要望にお応えすべく、顕在的・潜在的な社会課題に対して解決を図る「社会環境デザイン」を通じた価値創造に取り組んできました。これまで⽇本、中国、ASEAN、中東で様々なプロジェクトに携わり、近年はインド、欧州にも展開しています。
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