一番大変だったことはレシピ開発です。約70種類をピックアップしたものの、私自身は見たことも聞いたことも、もちろん食べたこともない料理が約50種類もありました。マニアックな料理が多く、インターネットではレシピをなかなか見つけられません。そこで、各国の郷土料理研究家のレシピ本を参考にして試作したり、現地の料理が食べられるレストランを巡って味を確かめたりし、開発を進めました。
――本場の味を再現するため、各国の大使館を訪問されたとお聞きしました。
本場の味を追求しよう、たくさんのお客さまにおいしいと喜んでいただけるようにしようと思い、大使館をはじめ多くの方々に協力をいただきながらメニュー開発をしてきました。具体的には、24の大使館を訪問し、大使やシェフに試食をお願いしました。おおむね好評をいただき、ボリビア多民族国の料理で、トマトチリソースをかけたスパイシーなチキン「ピカンテデポジョ」は、「故郷を思い出させる味」と、うれしい感想をいただきました。また、じゃがいもを使ったアイルランドの伝統的なパンケーキ「ボクスティ」は、大使を含め、職員の皆さんがおかわりされました。
特に試行錯誤を繰り返したのは、ペルー共和国の新鮮な魚介を使ったマリネ「セビーチェ」。「セビーチェ」は日本のさまざまなレストランでも提供されていますが、多くの場合はオリーブオイルが使われています。ペルーはホワイトアスパラガスの産地として有名なので、ペルー産のホワイトアスパラガスにニンニク、塩、オリーブオイルを合わせてみました。しかし、ペルー大使館にレシピを送ったところ、「ペルーでは、ホワイトアスパラガスもオリーブオイルも使用しない」と指摘を受けました。ペルー大使館のシェフにお聞きしたところ、本場では魚介を唐辛子と酸味をきかせたタレで和え、サツマイモとコーンを添えるそうです。
シェフから教えてもらったレシピをもとに何度も試作を重ね、その都度、大使やシェフに試食していただきました。「セビーチェ」は最終的に、大使館の皆さまから「おいしい」とお墨付きをいただいた自信作です。
コロンビア共和国の料理で、トマトのサルサをかけたポテトフライ「パパクリオージャ オガオソース」は、大使館に「メニューを考案したのでレシピをチェックしてください」と打診したところ、大使館から「シェフが教えるので、大使館に来てほしい」と連絡がありました。
シェフと一緒にキッチンに立ち、現地のトマトサルサソース「オガオソース」を直伝いただきました。「パパクリオージャ オガオソース」も、本場そのものの味わいの逸品です。
大阪・関西万博の情報を発信するYouTubeチャンネルの撮影では、スロバキア共和国とルーマニア出身の方に試食していただきました。スロバキア共和国の、チーズソースでいただく定番料理「カリフラワーナゲット」は、「お母さんが作るよりもおいしい」と、大絶賛をいただきました。また、サワークリームとジャムを使ったドーナツ「パパナシ」を試食されたルーマニアの方は、「おばあちゃんが作ってくれたパパナシと同じ味」と涙ぐんでいました。本場の方に味を認めていただいたことは私どもにとって自信となりました。
国名:ボリビア多民族国
商品名:ピカンテデポジョ
国名:アイルランド
商品名:ボクスティ
国名:ペルー共和国
商品名:セビーチェ
国名:コロンビア共和国
商品名:パパクリオージャ オガオソース
国名:スロバキア共和国
商品名:カリフラワーナゲット
国名:ルーマニア
商品名:パパナシ
――食材のこだわりを教えてください。
くら寿司は、万博特別メニューを含め、全ての料理において、化学調味料・人工甘味料・合成着色料・人工保存料を一切使用していません。味付けは塩、砂糖、酢を基本とし、各国・地域で使われる香辛料やハーブで本場らしさを表現しています。アジア料理は唐辛子やスパイス、中南米料理はクミン、ヨーロッパ料理はオレガノなどのハーブをプラスすることで、それぞれの料理の個性を際立たせました。見た目はもちろん、鼻からも、舌でも現地らしい香りを楽しんでいただけます。
――特別メニューは「くら寿司 大阪・関西万博店」だけでなく、全国約550店舗でも提供されます。このビッグ・プロジェクトを社内ではどのように進めてきましたか。
商品開発部は、リーダーの私を含め10人体制。メニューの開発のほか、原価計算、協力会社との連絡などを分担して行いました。多くの方々に、おいしいメニューを楽しく、安心してお召し上がりいただけるよう、広報部、食材を手配する購買部、セントラルキッチンを運営する製造部などとも連携。全社が一丸となり、プロジェクトを進めてきました。
最終的に、
特別メニューの内容やレシピが決まったのは今年1月末。プロジェクトの発案から1年、約70種類のメニューをサイドメニューとしてラインアップすることが決定してからはわずか半年でした。社内での連携のスピーディーさを生かし、間に合わせることができました。
――パラオ共和国のおしるこ「アホ」は、大阪で親しみを込めて使われる「アホ」と言葉が共通していて、話題になっています。
「アホ」は、ネーミングのユニークさも考慮して選んだメニューの一つです。そのほか、パナマ共和国の「エンサラダデフェリア」、 ドミニカ共和国の「ペスカド・コン・ココ」も、つい声に出したくなるような楽しい名前ですよね。お客さまには「これ、何だろう」「珍しい名前の料理を、誰かに教えたい」と興味を持っていただけると思います。
国名:パラオ共和国
商品名:アホ
――今回の万博をきっかけに、ブームになりそうなメニューはありますか。
ウルグアイ東方共和国の、クッキーでキャラメルクリームを挟んだお菓子「アルファフォーレス」、アラブ首長国連邦の、メロンパンのような外はカリカリで中はふわふわのパンに特製のコーヒー練乳ソースをかけた「パパロティ」は、味の重なり具合、食感、見た目のかわいらしさも日本人好みですので、話題になる可能性があると思います。流行を先取りしたい方はぜひお召し上がりくださいね。
国名:ウルグアイ東方共和国
商品名:アルファフォーレス