名古屋大学大学院生命農学研究科の小田 裕昭 准教授らを中心とする研究グループは、朝食欠食(注1)をして不活動な生活(注2)をするとメタボリックシンドローム(注3)につながる内臓脂肪蓄積が起こることを明らかにしました。
メタボリックシンドロームは、食べ過ぎ、特に油の摂り過ぎが原因として考えられてきました。特に、内臓脂肪型肥満(注4)が健康に良くないことが知られています。いわゆる中年男性に多い“お腹ポッコリ”の肥満です。しかし、実験動物に高脂肪食を与えて肥満にさせた場合には体全体の脂肪が増えるだけで、ヒト、特に男性でどのようなメカニズムで内臓脂肪が貯まるお腹ポッコリ肥満になるか分かっていませんでした。
今回、実験動物としてラットを用いて、活動量を半分にする不活動症候群モデル(注5)を使い、そのラットに朝食欠食をさせました。その結果、体重増加は見られなかったものの、内蔵脂肪だけが特に蓄積することを見出しました。これまでどのような食事や生活習慣がお腹ポッコリと関連するか分かっていませんでしたが、今回の結果により、生活不活動でなおかつ朝食を抜くような不規則な生活をすることでお腹ポッコリにつながることが分かりました。
この研究成果は、お腹ポッコリ型の内臓脂肪型肥満を予防するには、何を食べるかだけでなく朝食を食べるような規則正しい食生活をして、活動的な生活をすることが良いことを示しており、生活習慣によってメタボリックシンドロームが予防できる可能性を示すものです。
【本研究のポイント】
・朝食を食べないで、あまり動かない生活をすると内臓脂肪がたまることが分かった。
・お腹ポッコリの内臓脂肪型肥満は、その原因が不明だったが、生活不活動で不規則な食生活をすると起こることが分かった。
・内臓脂肪肥満は生活習慣病につながるため、規則正しい食生活で活動的な生活によって予防できることが分かった。
【研究背景と内容】
メタボリックシンドロームは、インスリン抵抗性(注6)を基盤とする生活習慣病の前段階の未病状態であり、生活習慣の改善によりもとに戻ることができると考えられています。メタボリックシンドロームの原因は、エネルギーの過剰摂取や動物性脂肪(飽和脂肪酸)の摂り過ぎによって、肥満になることだと考えられてきました。肥満といっても、皮下脂肪がたまる皮下脂肪型肥満(注7)と内臓脂肪がたまる内臓脂肪型肥満があります。後者がいわゆる中年男性に多いお腹ポッコリ肥満です。このお腹ポッコリ肥満では、脂肪細胞から健康に悪いアディポサイトカイン(注8)が放出されて、生活習慣病につながることが分かってきています。
これまでの実験では、実験動物に動物性脂肪の高脂肪食を与えると体全体に脂肪がたまる全身型の肥満になり、内臓脂肪型肥満になりませんでした。このため、どのようなメカニズムでお腹ポッコリになるのか、そのメカニズムは明らかにされてきませんでした(図1)。
本研究では、マイルドな高脂肪食を不活動症候群モデルラットに与え、朝食を欠食させる群とそうでない群を設けて比較しました(図2)。
その結果、不活動で朝食を欠食させると、体重が増えないにも関わらず、内蔵脂肪が蓄積することが明らかになりました。不活動症候群モデルラットや朝食欠食だけでは内臓脂肪の蓄積は起きないため、両者の組み合わせが内臓脂肪を蓄積させることが分かりました。朝食欠食をさせることで、体内時計が乱れて、体温上昇のリズムが遅れ、肝臓や脂肪組織の脂質代謝関連遺伝子のリズムも遅れることで、脂質代謝が乱れて内臓脂肪の蓄積が起きることが分かりました(図3)。
【成果の意義】
内臓脂肪型肥満は、健康に悪いアディポサイトカインを放出するため、生活習慣病につながると考えられてきました。しかし、どのようなメカニズムでこれが起きて、どのような食事や生活習慣によって引き起こされるのかは分かっていませんでした。
本研究により、不活動の生活で朝食を抜くような不規則な食生活をすると内臓脂肪型肥満につながることが明らかになりました。運動するということではなく、日常生活で十分動いて、朝食を食べるなどの規則正しい食生活をするとお腹ポッコリ肥満を予防できることを示唆しています。食べ方や生活習慣の改善により、お腹ポッコリ肥満やメタボリックシンドロームを予防できる可能性があると考えられます。
【用語説明】
注1)朝食欠食:
習慣的に朝食を食べないことを指し、若年の男性で多く見られる。ダイエット目的で、積極的に食べない人もいる。朝食については、古くから食べたほうが良いか悪いかについて議論が盛んで、「朝食論争」とも呼ばれている。これまで本研究グループは、実験動物を使って朝食欠食をすることにより、体重が増えたり、筋肉が減ることを報告してきた。(名大プレスリリース、2022.3.23、2018.10.30など)朝食欠食は、食事の種類により異なった脂質代謝異常を引き起こすことを示してきた。
※名大プレスリリース 「朝食を食べないと、体重が増えるだけではなく、筋肉量も低下することを解明」(2022.3.23)
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2022/03/post-229.html
※名大プレスリリース 「朝食を抜くと体重が増えるメカニズムは体内時計の異常であることを解明!」(2018.10.30)
https://www.nagoya-u.ac.jp/about-nu/public-relations/researchinfo/upload_images/20181101_agr.pdf
注2)不活動な生活:
普通の生活で十分に動かない生活不活動を指す。たとえば、自然災害の避難所生活の人などがその例で、不活動な生活を強いられることで健康障害を起こすことが知られている。必ずしも運動をしていないことを指すものではなく、運動とは独立したメタボリックシンドロームの危険因子と考えられている。
注3)メタボリックシンドローム:
生活習慣病の前段階の未病状態であり、インスリン抵抗性を基盤とした状態を指す。食事や運動に気を遣うことによって、可逆的に戻ることが期待される状態。一般に太っていることを指す言葉として使われることがあるが、必ずしも正しくない。日本人の場合、太っていない人でもインスリン抵抗性がありメタボリックシンドロームと評価される場合がある。そのような人は、痩せていても糖尿病になることがある。
注4)内臓脂肪型肥満:
肥満は脂肪組織に脂肪が大量にたまることを指すが、脂肪がたまる場所により、大きく二つに分けられる。皮下脂肪にたまる肥満を皮下脂肪型肥満と呼び、お腹の中に脂肪がたまる肥満を内臓脂肪型肥満と呼ぶ。この内臓脂肪型肥満は、お腹ポッコリ肥満であり、悪いアディポサイトカインを放出するため、生活習慣病につながることが分かっている。
注5)不活動症候群モデル:
生活不活動は多くの健康障害を引き起こす。これを生活不活動症候群と言う。ラットの坐骨神経を切断することによって、通常の活動が半分以下に抑えられる。そのためこのラットモデルを不活動症候群モデルとして実験を行った。
注6)インスリン抵抗性:
インスリンが効きにくくなる状態を指し、メタボリックシンドロームの基盤となる。肥満になると引き起こされるが、肥満でなくても脂肪肝によっても引き起こされる。
注7)皮下脂肪型肥満:
主に皮下の脂肪組織に脂肪がたまるタイプの肥満を指す。このタイプの肥満では、生活習慣病につながることはないと考えられている。
注8)アディポサイトカイン:
脂肪細胞から放出される生理活性物質を指す。ホルモンのような作用を示し、内臓の脂肪組織が大量の脂肪をためると糖尿病を引き起こすような生理活性物質を放出する。一方、脂肪をためていない脂肪組織からは、抗糖尿病作用のある生理活性が出ることが分かっている。
【論文情報】
雑誌名:Scientific Reports
論文タイトル:Physical inactivity and breakfast skipping caused visceral fat accumulation in rats
著者:Syunsuke Nakajima, Fumiaki Hanzawa, Saiko Ikeda, Hiroaki Oda 太字が名古屋大学
DOI: 10.1038/s41598-024-68058-7
URL:
https://www.nature.com/articles/s41598-024-68058-7
▼本件に関する問い合わせ先
名古屋大学広報課
TEL:052-558-9735
FAX:052‐788-6272
メール:nu_research@t.mail.nagoya-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/