北里大学医学部分子遺伝学の務台英樹講師・藤岡正人教授、国立病院機構東京医療センター臨床研究センターの松永達雄部長の研究グループは、慶應義塾大学医学部共同利用研究室(細胞組織学)の黒田有希子講師・松尾光一教授、東京大学大学院農学生命科学研究科の市川紗希学部生(現:同薬学系研究科修士)・片岡直行准教授・田中智教授らと共同で、遺伝性難聴DFNA78のマウスモデルとして、原因遺伝子SLC12A2に実際の患者と同等の遺伝子変異を導入した難聴モデルマウスの作出に成功しました。
このマウスでは、蝸牛血管条変性とそれに伴う内リンパ腔という空間の著しい縮小を認め、同時に、この特徴的な形態変化と並行して変動する遺伝子を網羅的遺伝子発現解析で多数認めました。本研究は遺伝性難聴の病態を明らかにしており、今後の治療法開発に大きな進展をもたらすと考えられます。この研究成果は、2025年4月28日付で、Scientfic Reports誌に掲載されました。
■研究成果のポイント
・新生児500-1,000人に一人は生まれつき耳が聞こえにくい「先天性難聴」を持っています。この難聴が起きる仕組みを詳しく理解することは、根本的な治療法を開発するためにとても重要です。
・私たちはこれまでの研究で、遺伝性難聴「DFNA78」の原因となるSLC12A2という遺伝子を見つけました。今回の研究では、この遺伝子の患者さんで見つかったスプライスバリアントと同じものをもつマウス(Slc12a2Em2)を作りました。
・このマウスは難聴を呈しており、耳の中を詳しく調べると、「蝸牛(かぎゅう)の血管条」という、音を感じる細胞(感覚細胞)にとって大事な内リンパを作る組織が大きく萎縮していました。さらに遺伝子の働きを調べた結果、正常な内リンパが十分に作られなくなることで、感覚細胞が音に反応できなくなると考えられました。
・この新しいマウスモデルにより、遺伝性難聴DFNA78が「蝸牛血管条の障害」が原因で起きることと考えられました。このマウスの研究によりSLC12A2の機能や内リンパ維持の仕組みについての理解が深まり、新しい難聴治療法の開発にもつながると考えています。
■論文情報
【掲載誌】Scientific Reports
【論文名】Complete omission of exon 21 from Slc12a2 transcripts in mice results in hearing loss
【著 者】Hideki Mutai, Yukiko Kuroda, Shinobu Noji, Saki Ichikawa, Koichi Matsuo, Satoshi Tanaka, Naoyuki Kataoka, Masato Fujioka & Tatsuo Matsunaga
【DOI】10.1038/s41598-025-99827-7
【URL】
https://doi.org/10.1038/s41598-025-99827-7
■問い合わせ先
【研究に関すること】
北里大学 医学部 分子遺伝学
講師 務台 英樹(むたい ひでき)
e-mail:mutai.hideki@kitasato-u.ac.jp
URL:
https://www.med.kitasato-u.ac.jp/lab/molgen/
【報道に関すること】
学校法人北里研究所 広報室
TEL:03-5791-6422
e-mail:kohoh@kitasato-u.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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