藤田医科大学医学部臨床栄養学 飯塚勝美教授は、20~69歳の日本人を対象にお酢の摂取量と年齢や性別の関係を調べました。お酢に含まれる酢酸には健康効果があると考えられています。これまでに私たちが行った探索的研究では、酢酸の摂取量が多い人ほど、たんぱく質やビタミンの摂取量も多いことが示されましたが、年齢や性別とどのように関係しているのかは、明らかになっていませんでした。
今回の研究では、酢酸の摂取量と年齢・性別との関連を調べ、さらに年齢、性別、エネルギー摂取量の影響を調整した上で、酢酸摂取量と栄養素摂取との関連を分析しました。解析にはMizkan Holdings 中央研究所が保有する、食事管理アプリ「あすけん」を用いて収集した、20~69歳の日本人成人12,074人分の食事データを使用しました。参加者は男性3,038人(平均47.8±11.9歳)、女性9,036人(平均42.4±11.8歳)でした。その結果、酢酸の摂取量は男性や高齢者でより多い傾向がありました(性別:F=11.0,p<0.001; 年齢:F=9.1,p<0.001)。また、同等のエネルギーを摂取している場合でも、酢酸摂取量が多い人ほど、炭水化物や飽和脂肪酸の摂取量が少ない傾向がみられました。これらの結果から、酢酸を含む食事は、でんぷんや飽和脂肪酸の摂取を抑え、肥満予防に役立つ可能性があることが示唆されます。
本研究成果は、スイスの学術ジャーナル「Nutrients」(1月19日号)で発表され、併せてオンライン版が1月19日に公開されました。
論文URL :
https://www.mdpi.com/2072-6643/18/2/318
<研究成果のポイント>
- 本研究では、約1.2万人を対象に、お酢の摂取量と栄養素摂取の関係を検討しました。
- 酢酸摂取量はすべての年齢層で男性の方が多く、年齢とともに増加し、同様の傾向がグルコースおよびフルクトース摂取量にも見られました。
- 年齢と性別で調整した線形回帰分析を行ったところ、酢酸摂取量と食物繊維など多くの栄養素との間に正の関連が認められました。
- さらにエネルギー摂取量で調整すると、炭水化物、総糖質、でんぷん、飽和脂肪酸、酪酸の摂取量では酢酸摂取量と負の関連が見られました。
- 摂取エネルギーが同じであれば、酢酸の摂取量が高いと、炭水化物や飽和脂肪酸の摂取量が低くなり、肥満の予防になる可能性があります。
<背 景>
酢に含まれる酢酸は古代にアルコールの副産物として発見され、中世には醸造技術の発展により調味料・保存料として普及し、近世以降は寿司や漬物など地域固有の食文化に取り込まれてきました。さらに化学分析と工業化により大量生産が可能となり、バルサミコ酢、ワインビネガー、アップルサイダービネガー、米酢など多様な酢が世界で利用されています。酢酸は酸味による味の増強、色の発現、肉・魚の軟化、カルシウム吸収促進、抗菌作用など多面的効果を持ち、血糖調整や脂質代謝改善を通じ肥満・2型糖尿病リスク低減、胃排出遅延や満腹感増加、血圧・コレステロール低下も報告されています。一方で、摂取量の正確な測定が難しく、日内変動も大きいため、摂取量と疾患との関連を検討した研究は限られています。そこで本研究は質問票ではなく食事記録アプリで酢酸摂取量を算出し、約12,000人のデータから年齢・性別の影響を考慮し、さらに年齢・性別・エネルギー摂取量を調整して、タンパク質、炭水化物(食物繊維・糖類等)、脂質(脂肪酸や酪酸)など多数栄養素との関連を明らかにすることを目的としました。
<研究手法・研究成果>
本研究では、酢酸摂取量と年齢・性別との関連を検討し、年齢・性別・エネルギー摂取量で調整した後の栄養素との関連性を調査しました。方法については、食事管理アプリ「あすけん」を用いて収集した、日本人成人12,074名(20~69歳)の食事データを分析しました。二元配置分散分析により、酢酸摂取量に対する年齢、性別、およびその交互作用の影響を評価しました。さらに、多重線形回帰分析を用いて、酢酸摂取量と各栄養素の摂取量との関連を調査しました。モデル1では年齢・性別で調整し、モデル2ではさらに総エネルギー摂取量でも調整を行いました。結果:対象者は男性3,038名(47.8 ± 11.9歳)、女性9,036名(42.4 ± 11.8歳)で構成されていました。酢酸摂取量は男性および高齢の参加者で高い傾向が認められました(性別:F=11.0, p<0.001;年齢:F=9.1,p< 0.001)。モデル1では、酢酸摂取量は多くの栄養素摂取量と正の相関を示しましたが、エネルギーで調整したモデル2では、炭水化物、糖類、でんぷん、飽和脂肪酸、酪酸の摂取量と負の関連が認められました(いずれもp<0.05)。結論:酢酸摂取量が多い人は、エネルギー摂取量が同程度であっても、炭水化物や飽和脂肪酸の摂取量が少ない傾向がありました。これらの結果は、酢酸を含む食事が、でんぷんや飽和脂肪酸の摂取を減らし、肥満予防に寄与する可能性を示唆しています。
(図の説明) 酢酸と栄養素摂取量との関連(標準化回帰係数 ± 95%信頼区間;偏相関係数(r)と95%信頼区間)。回帰分析モデルでは、独立変数として酢酸を、従属変数として各種栄養素の摂取量を設定しました。Model 1は年齢と性別で調整されており、Model 2はさらにエネルギー摂取量でも調整されています。右側への推定値は正の関連を、左側への推定値は逆の関連を示します。赤がModel 1、青がModel 2を示します。酢酸摂取量は、年齢・性別・エネルギーで調整した場合に限り、炭水化物、糖質、飽和脂肪酸、でんぷん、酪酸との間に負の関連が認められました。
<今後の展開>
本研究を通じて、酢酸の摂取量は年齢や性別の影響を受け、でんぷん、炭水化物、飽和脂肪酸の摂取量とは負の関連があることが明らかになりました。今後の研究では、年齢や性別を調整した上で、実際の日常的な食事記録における酢酸摂取量、栄養素摂取量、体組成との関係を明確にする必要があります。また、本研究では分析していませんが、食品の嗜好と酢酸摂取量との関係についても明らかにしていく予定です。個人の食嗜好に基づいて酢酸摂取量を推定できる可能性があります。今後の研究では、食品記録アプリケーションを用いた酢酸摂取量の推定を活用し、他の栄養素の摂取量だけでなく、栄養状態や疾病リスクとの関連性も解明していくことが目指されます。
<文献情報>
論文タイトル:
20~69歳の日本人において、酢酸摂取量は、炭水化物、糖質、飽和脂肪酸摂取量と負に関連する。
著者:
和田理紗子1、吉本 靖東2、小平理乃2、出口香奈子1、青木祐人2、岸幹也2、飯塚勝美1*
所属:
1:藤田医科大学 医学部 臨床栄養学
2:Mizkan Holdings 中央研究所
*責任著者
DOI:
https://doi.org/10.3390/nu18020318