人間科学部 衣笠竜太教授がアキレス腱湾曲メカニズムを解明。その論文が英国Nature姉妹誌の『Scientific Reports』に掲載 -- 神奈川大学



【本件のポイント】
●これまで解明されていなかったアキレス腱が曲がる原理を解明。
●アキレス腱が曲がる仕組みについて、実験とシミュレーションの両面から検証を実施。
●曲がりはアキレス腱自体の形状に由来しており、曲がりすぎないように近傍の脂肪体がクッションの役割を果たしていることを確認。

人間科学部 衣笠竜太(きぬがさりゅうた)教授は、札幌医科大学、東京大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校、カリフォルニア大学サンディエゴ校との国際共同研究で、これまで明らかにされていなかった“アキレス腱がなぜ曲がるのか”のメカニズムを解明し、その成果が、英国Nature Publish Groupのオンライン科学誌『Scientific Reports』に「A Multi-modality Approach Towards Elucidation of the Mechanism for Human Achilles Tendon Bending During Passive Ankle Rotation」として掲載された。




【研究の概要】
 ヒトのアキレス腱は、単離した状態だと真っ直ぐな形になる。一方、実際の生体で観察されるアキレス腱は、足首を曲げた時に湾曲する。アキレス腱の湾曲は足首を持ち上げる運動を増幅する重要な役割を果たしているにも関わらず、これまで湾曲の程度を数値化する方法や湾曲を考慮したアキレス腱の力学特性の検証はされてきたが、アキレス腱がなぜ曲がるのかという基本的な疑問は明らかになっていなかった。
 そこで本研究は、筋や腱などの軟部組織が生体に近い状態で保存され、関節可動性が良好なThiel固定献体(注1)を用いて、湾曲に関与している可能性のある皮膚、脂肪体(Kager's fat pad)、ヒラメ筋を順番に取り除きながら、アキレス腱湾曲の変化を調べた。その結果、これらの組織を取り除いても、アキレス腱は真っ直ぐにならず、依然として湾曲していたが、湾曲しすぎないように脂肪体がクッションの役割を果たしていることが明らかになった。
 続いて、超音波エラストグラフィ(注2)によるアキレス腱のせん断弾性率(注3)とコラーゲン線維(注4)の分布を調べたところ、いずれもアキレス腱の湾曲に寄与していないことを確認した。
 これら2つの実験結果は、アキレス腱の湾曲は周辺組織の変形やその物理的性質によって引き起こされるものでないことを示した。
 そこで、湾曲はアキレス腱自体の形状、つまりアキレス腱は薄いために曲げ剛性が小さく(変形しやすい)、踵骨への付着部位の上昇とともに湾曲が進行するという可能性を調べた。
 この可能性は実験で検証することができないため、3次元筋骨格系モデル(注5)の有限要素(注6)シミュレーションを行ったところ、周辺組織の拘束がなくても、踵骨への付着部位の上昇により、薄いアキレス腱に湾曲が生じることが分かり、アキレス腱の湾曲はアキレス腱自体の形状に起因していることが結論である。
 本研究成果は、英国Nature Publish Groupのオンライン科学誌『Scientific Reports』(2018年3月15日の電子版)に掲載された。


1)Graz大学のDr.Thielが開発した解剖体固定法で固定された献体を指す。
2)超音波を用いて組織の硬さ分布を非侵襲的に画像化する技術である。
3)せん断力による変形のしにくさを表す物性値を指す。
4)線維性結合組織の細胞外基質(細胞外マトリクス)を構成する主成分で、アキレス腱に広く分布。
5)複雑なヒトの筋骨格系を単純化して表現した仮想人体モデルを指す。
6)偏微分方程式の数値解法を指す。

◆研究に関する問い合わせ 
 人間科学部教授 衣笠 竜太
 電話:045-481-5661(代)
 E-mail : rk@jindai.jp

◆報道に関する問い合わせ
 〒221-8686 横浜市神奈川区六角橋3-27-1 
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【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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