【研究成果のポイント】
1. 2種類のπ共役系分子を混合したマイクロ結晶の作成に成功。
2. マイクロ結晶中の2つの分子の混合比を調整することで、1つのマイクロ結晶から2つの波長域での同時レーザー発振を実現。
3. 銀薄膜表面で作成した直立マイクロ結晶が、レーザー発振閾値を大幅に低減させることを見出す。
【研究の概要】
国立大学法人筑波大学数理物質系 山本洋平教授、同大学院数理物質科学研究科 岡田大地(物性・分子工学専攻 博士後期課程3年)は、神奈川大学理学部 辻勇人教授、東京大学大学院理学研究科 中村栄一特任教授、産業技術総合研究所、ストラスブール大学との共同研究で、π共役系分子 注1)マイクロ結晶からの同時多色レーザー発振 注2)に成功。
辻教授、中村教授らにより2012年に開発された炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPV) 注3)[1]は、発光特性と光耐久性が極めて優れたπ共役系有機分子である。今回、本研究グループは、2種類のCOPVが混合したマイクロ結晶の作成に成功。得られた結晶を光励起すると、マイクロ結晶内で発光が閉じ込められ、誘導放出によりレーザー発振が起こることを確認し、COPVの混合比によっては2つの波長域から同時レーザー発振が起こることを明らかにした。さらに、銀基板表面で結晶が直立に成長することを見出し、結晶が寝た状態と比較してレーザー発振閾値 注4)を4分の1程度に低下することに成功した。
このようなマイクロレーザーは、微小レーザー光源としての応用に加え、光回路や化学・バイオセンシングとしての応用が期待できる。
本研究成果は、2018年6月14日付「Nano Letters」誌にて先行公開された。
※本研究は、文部科学省科研費補助金 新学術領域研究 π造形科学「様々な励起プロセスを介したπ電子球体への発光閉じ込めと共鳴発光の変調」「ジベンゾクリセンをモチーフとする曲面π電子系の開発」、国際共同研究強化基金「発光性および強誘電性ポリマーナノ粒子による新しいフォトニック結晶の構築」、基盤研究A「光機能性ポリマー球体の高次連結による光学メタマテリアルの開発」、基盤研究B、基盤研究S、旭硝子財団研究助成 若手継続グラント「導電性高分子マイクロ共振器への電荷注入と共鳴電界発光」、筑波大学プレ戦略イニシアティブ「光と物質・生命科学のアンサンブルによる新現象の発掘と解明」、TIAかけはし「最先端光材料・光テクノロジー国際研究拠点形成に向けたTIA連携」などにより実施された。
【用語解説】
注1) π共役系分子
π電子系を有する分子。発光特性や電気伝導特性を発現する。
注2) レーザー発振
励起状態の分布が基底状態の分布より大きな状態(反転分布状態)からの誘導放出が共振器内部に閉じ込められることで増幅された、位相の揃った光の放射現象。
注3) 炭素架橋オリゴフェニレンビニレン(COPV)
辻、中村らにより開発された、発光特性や光耐久性に優れたπ共役分子。フェニレンビニレン部位が炭素により架橋されており、剛直で平面性の高いπ共役平面を有する。2015年には、COPV分子を用いたDistributed Feedback (DFB)レーザーが報告されている[2]。
注4) レーザー発振閾値(しきいち)
レーザー発振を起こすために必要な最低限の励起光強度で、この値より強く光励起を行うとレーザー発振が起こる。
【掲載論文】
『題名』:π-Electronic Co-crystal Microcavities with Selective Vibronic-Mode Light Amplification: Toward Förster Resonance Energy Transfer Lasing(選択的な振動モードからの光増幅を示すπ電子共結晶マイクロ共振器:FRETレーザー実現に向けて)
『著者名』:Daichi Okada, Stefano Azzini, Hiroki Nishioka, Anna Ichimura, Hayato Tsuji, Eiichi Nakamura, Fumio Sasaki, Cyriaque Genet, Thomas W. Ebbesen, Yohei Yamamoto
『掲載誌』:Nano Letters (DOI: 10.1021/acs.nanolett.8b01442)
-研究に関するお問い合わせ-
【研究に関すること】
山本 洋平(やまもと ようへい)
筑波大学 数理物質系 教授
〒305-8572 茨城県つくば市天王台1-1-1
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Tel:029-853-5030
〇辻 勇人(つじ はやと)
神奈川大学 理学部 化学科 教授
E-mail:tsujiha@kanagawa-u.ac.jp
TEL:0463-59-4111(代)
中村 栄一(なかむら えいいち)
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E-mail:nakamura@chem.s.u-tokyo.ac.jp
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〇神奈川大学 研究支援部 平塚研究支援課
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