愛知大学文学部の片岡邦好教授が社会言語科学会「第18回徳川宗賢賞」を受賞 -- バラク・オバマ氏の2008年の演説の分析が評価



愛知大学文学部(愛知県豊橋市)の片岡邦好教授が「第18回徳川宗賢賞」を受賞した。同賞は社会言語科学会(JASS)によるもので、毎年、学会誌『社会言語科学』に掲載された中から特に優れた論文に授与される。このたび受賞した片岡教授の論文は、バラク・オバマ氏が民主党代表として大統領戦出馬を決定付けた2008年のアイオワ州での演説について分析したもの。




 社会言語科学会は、言語・コミュニケーションを人間・文化・社会との関わりにおいて取り上げ、そこに存在する課題の解明を目指す学際的な学術研究団体。既成の学問領域を立脚点としつつ、その枠を越え、関連領域の研究者との交流を通じ、さまざまな研究テーマを許容している。
 徳川宗賢賞は、同会の故徳川宗賢初代会長の業績と学会設立に傾けた情熱と精神をたたえ、2000年度より設立されたもの。毎年、学会誌『社会言語科学』掲載論文の中から、特に優れた論文に授与される。
 このたび、片岡教授は「言語/身体表象とメディアの共謀的実践について-バラク・オバマ上院議員による2008年民主党党員集会演説を題材に」によって、同賞を受賞した。




◆受賞論文:「言語/身体表象とメディアの共謀的実践について-バラク・オバマ上院議員による2008年民主党党員集会演説を題材に」第20巻1号 pp.84-99

■授賞理由
 本論文は、バラク・オバマ氏が民主党代表として大統領戦出馬を決定付けた2008年のアイオワ州での勝利宣言の演説を取り上げ、演説のテクスト・演説実践・TV放映実践の三層の実践と捉えて、それらをマルチモーダル分析の手法で微視的に分析したものである。
 これまでもオバマ氏の演説は、多くの言語学者、談話分析者、コミュニケーション研究者が分析しているが、本論文は、語彙やフレーズ、複文レベルの限定的な談話にとどまらず、演説全体を包括的なパフォーマンスとして捉え、演説者と聴衆が相互行為的に演説を共想する様を、またオバマ氏の言語的、身体的表象だけでなく、TV放映による戦略的なメディア実践も分析している。
 その結果、テクスト分析だけでは理解しえない聴衆や視聴者に向けられた暗黙知に基づく操作・技能を中心に、それを通じて複数のレベルで共創される詩的テクストと演説者とメディアによる共謀関係を明らかにしている。すなわち、聴衆や視聴者に訴える演説の効果は、語り手個人の技能によるだけでなく、聴衆とメディアによる多層的な共謀関係により達成されることを明らかにしている。
 このように本論文は、オバマ氏の演説についての従来の研究の枠組みを越え、演説のテクスト・演説実践・TV放映実践の三層の実践という観点から考察を行った大変優れた論文であり、徳川宗賢賞優秀賞にふさわしい論文として高く評価できる。

■「徳川宗賢賞を受賞して」(片岡教授によるコメント)
 この度は大変栄誉ある賞を授与いただき、未だに驚きと面映ゆさを拭い去れずにいます。改めて、本稿執筆のきっかけを与えて下さった「現代社会におけるメディア研究」特集号の編者、査読者の皆様に厚くお礼申し上げます。また、日頃からミクロ分析の重要性とマクロ要因の多様性を痛感させてくれる、多くの研究仲間からの刺激が何ものにも代えがたい原動力でした。
 本論文では、日常に浸透したTV放映という活動を、3層からなるレベル間の統合的な実践という観点から考察しました。もちろんこれは便宜的な分類に過ぎません。演説というジャンル固有の特殊性に加え、伝えるという行為には普遍的な指向性も潜んでいるため、さらに複雑な様相を見せる可能性もあります。また、今回は勉強不足ゆえに演説に埋め込まれた政治性にまで踏み込めていませんが、今後の課題として考察を深める決意を新たにしています。社会生活の大部分がことばを中心に廻っていることを思えば、ことばは空気のようなものかもしれません。
 今回の受賞は、その無標な性質を異化し、実体化することが言語研究者に与えられた特権であり使命であることを再認識させていただく機会となりました。

■著者紹介
・片岡邦好(かたおかくによし)
 1960年愛知県生まれ
 米国アリゾナ大学大学院 Interdisciplinary Ph.D. Program in Second Language Acquisition & Teaching (Language Use専攻) 修了
 1999年愛知大学法学部助教、2006年同文学部准教授を経て、2008年より同文学部教授
 2002年度 社会言語科学会第3回徳川宗賢賞受賞
【主要業績】
・Affect and letter writing: Unconventional conventions in casual writing by young Japanese women. (1997) Language in Society 26 (1), 103-136.
・『講座社会言語科学 第5巻 社会・行動システム』(片桐恭弘氏と共編著)(2005)ひつじ書房
・「道案内の指差しに見る「絶対/相対参照枠」の主観的融合」(2011)『人工知能学会誌』 26(4), 323-333.
・Toward multimodal ethnopoetics. (2012) Applied Linguistics Review 3(1), 101-130.
・Synchronic and diachronic variation in the use of spatial frames of reference: An analysis of Japanese route instruction.(朝日祥之氏と共著) (2015) Journal of Sociolinguistics, 19(2), 133-160.
・『コミュニケーションを枠づける』(池田佳子氏・秦かおり氏と共編著)(2017)くろしお出版  など

・愛知大学HP
 http://www.aichi-u.ac.jp/news/29265

・JASS社会言語科学会
 http://www.jass.ne.jp/news/?p=637


▼本件に関する問い合わせ先
企画部 広報課
住所:名古屋市東区筒井二丁目10-31
TEL:052-937-6762
FAX:052-937-4816
メール:koho@aichi-u.ac.jp


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