メカノケミカル法を用い、精密に光触媒を合成するプロセスを開発 -- 環境低負荷で簡便なプロセスによる可視光活性光触媒の合成を実現 --



法政大学生命科学部、大学院理工学研究科、マイクロ・ナノテクノロジー研究センター 石垣 隆正 教授らは、広島大学 大学院先進理工系科学研究科 樽谷 直紀 助教(法政大学マイクロ・ナノテクノロジー研究センター 客員研究員)、国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)機能性材料研究拠点 打越 哲郎 グループリーダー(法政大学マイクロ・ナノテクノロジー研究センター 客員研究員)との共同研究により、メカノケミカル法という低環境負荷で簡便なプロセスを制御して、可視光活性が高温熱処理で上昇する新しいタイプの光触媒を精密に合成するプロセスを開発しました。酸化チタン光触媒の機能を高めるために行ったニオブ添加光触媒を対象とし、メカノケミカル効果を直接観察して、機能発現メカニズムを提案しました。
本研究は、文部科学省 私立大学戦略的研究基盤形成支援事業「グリーンテクノロジーを支える次世代エネルギー変換システム」、法政大学プログラム「グリーンソサエティーを実現する3D先端材料プロセス」などの支援を受けて実施しました。




◆当研究を行う背景
 粒子に機械的応力を印加して微粒子を得る粉砕プロセスは、同時に粒子の物理化学的特性を変化させるため、メカノケミカル法として知られています。固体表面に大きな機械的エネルギーが加わると局部的に原子配列の乱れが生じ、それに伴って物性が複雑に変化し、物質の反応性が上昇します。このプロセスは、反応容器に固体ボールと粉末を入れて撹拌処理するだけの簡便なプロセスです。したがって、スケールアップも可能であり、工業的には人間の背丈に匹敵する容器を用いた粉砕装置も使用されています。また、粉末の分散媒としての液体添加も処理粉末量に比較すると少量であり、環境負荷の低い材料合成プロセスです。
 メカノケミカルプロセスでは、粉砕ボール同士の衝突により、局所的、ごく短時間生成する高エネルギー反応場をつくることが可能であり、従来、多様なメカノケミカル作用が提案されてきました。本研究では、プロセスそのものを観測するのではなく、メカノケミカル法によってつくった粉末を詳細に観察することによって、プロセスの制御性を高めることに成功しました。
 このメカノケミカルプロセスを光触媒粉末の合成に利用しました。酸化チタンは優れた光触媒材料として知られています。酸化チタンに光を照射すると励起された電子とその抜け穴である正孔が生成します。この電子と正孔の固体表面反応により、反応性の高い化学種が生成し、人間にとって有害であったり、不快な匂いのする化学物質が酸化分解されます。この光誘起酸化分解作用に加えて、光照射により固体表面の水に対する濡れ性が高まる作用も知られています(光誘起超親水性)。酸化分解作用と超親水性化を利用すると、固体表面で分解された汚れは、雨で簡単に除去され、メンテナンスフリーの汚れない壁面になります。
 酸化チタンには、同じ化学組成、TiO2を持っていても異なる結晶構造を有する多形があります。代表的な結晶相が、ルチル相とアナターゼ相であり、アナターゼ相が高い光触媒活性を持ちます。アナターゼ相酸化チタン中の電子を励起するためには、室内照明には含まれない紫外線の照射が必要です。また、アナターゼ相を高温にさらすと、活性の低いルチル相酸化チタンに変化してしまいます。そこで、可視光照射で光触媒作用を生じ(室内照明でも活性がでる)、また高温で処理しても活性の下がらない酸化チタン光触媒をつくりたいというのが、本研究の出発点でした。

◆研究方法
 メカノケミカル法を利用した光触媒の合成研究をスタートしました。酸化チタンに酸化ニオブを添加すると、高温処理をしてもアナターゼ相酸化チタンからルチル相酸化チタンに変化する度合いを下げることができました。また、小粒径の触媒微粒子の高い反応速度は大きな表面積に起因しますが、ニオブ添加は酸化チタン微粒子を高温熱処理しても粒子の粗大化が抑制されました。さらによいことに、高温で熱処理することにより可視光照射下での光触媒反応活性が高まりました。母相粉末に添加粉末を加えて高温加熱すると均質な濃度分布になるのが、通常の化学反応です。本研究では、母相となる酸化チタン粉末を構成する微粒子、添加された酸化ニオブ粉末微粒子、それぞれの表面がメカノケミカル処理により活性化され、600~800℃の熱処理により化学反応を開始しました。しかしながら、微粒子内部の活性化されていない部分に原子が移動するほどには熱処理温度が高くないので、酸化チタン粒子の表面にニオブが蓄積されました。高温になるほどニオブの蓄積量が大きくなり、酸化チタンの表面には結晶構造の異なる複合酸化物、TiNb2O7が存在し、このTiNb2O7が本来光触媒活性の低いルチル相を助けて可視光光触媒活性を発現させたと考えました。

◆研究成果と今後の展開
 本研究では、粒子表面の反応性上昇に関するメカノケミカル効果を電子顕微鏡で直接観察しました。この効果は他の材料系にも応用可能であり、メカノケミカル法の有効な活用法の拡大が大いに期待されます。繰り返しますが、メカノケミカル処理は、反応容器に粉末と粉砕ボールを入れて反応容器を回転するだけの簡単なプロセスであり、大量処理が可能です。化学的な精密操作を取り入れるとさらに有益なプロセスとして汎用性が高まります。



■発表論文
・論文タイトル:Spontaneously Formed Gradient Chemical Compositional Structures of Niobium Doped Titanium Dioxide Nanoparticles Enhance Ultraviolet- and Visible-Light Photocatalytic Performance
・著者:樽谷直紀1,2、加藤龍磨3、打越哲郎2,4、石垣隆正2,3,5
 1.広島大学 大学院先進理工系科学研究科 応用化学プログラム
 2.法政大学 マイクロ・ナノテクノロジー研究センター
 3.法政大学 大学院理工学研究科 応用化学専攻
 4.国立研究開発法人 物質・材料研究機構 機能性材料研究拠点 微粒子工学グループ
 5.法政大学 生命科学部 環境応用化学科
・掲載雑誌:Scientific Reports
・DOI番号:10.1038/s41598-021-94512-x
・発表日時:2021年7月30日10時(日本時間7月30日18時)


*図の説明:電子顕微鏡で観察した粒子形態(a)と、この領域の元素分布((b)-(d))。チタンTiの分布(b)とニオブNbの分布(c)を重ね合わせた図(d)を見ると、ニオブが微粒子の外殻領域に偏在していることがわかります。
 同じ領域で線上に化学分析した結果(e)を示します。各粒子を観察した図(f)で示した赤い枠中にはアナターゼ相酸化チタン(g)、青い枠中にはルチル相酸化チタンが(h)が認められ、隣接していることがわかります。また(f)中の緑色の点線上で化学組成を定量的に測定した結果が(e)に示されています。微粒子の外側でNb/(Nb+Ti)量が大きく、粒子外殻領域にニオブが偏在していることを定量的に示しました。



▼本件に関する問い合わせ先
●法政大学 総長室広報課
 TEL: 03-3264-9240
 E-mail: koho@hosei.ac.jp

(担当研究者)
 法政大学生命科学部 教授/マイクロ・ナノテクノロジー研究センター センター長 石垣 隆正
 TEL: 042-387-6134
 E-mail: ishigaki@hosei.ac.jp

●広島大学 財務・総務室 広報部 広報グループ
 TEL: 082-424-3749
 E-mail:koho@office.hiroshima-u.ac.jp

(担当研究者)
 広島大学 大学院先進理工系科学研究科 助教 樽谷 直紀
 TEL: 082-424-7716
 E-mail: n-tarutani@hiroshima-u.ac.jp

【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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