住友林業株式会社(社長:光吉 敏郎 本社:東京都千代田区、以下当社)は、英国の不動産開発業者Bywater Properties Limited(代表:Theo Michell、本社:英国ロンドン、以下Bywater)と合弁会社を設立し、ロンドンで木造6階建て環境配慮型オフィス開発事業に参画します。当社が住宅・不動産事業で欧州に進出するのは初めてです。
建物建築時(建材の原材料調達・製造・建築・解体などの過程)の炭素排出量(エンボディード・カーボン)を英国で一般的な鉄筋コンクリート造と比較して約80%削減するうえ、木材の炭素固定量をオフセットすることで竣工時点にカーボンネガティブの試算となる先進的な取り組みです。建物を省エネや創エネ仕様にし、再生可能エネルギー利用も組み合わせて、建物使用時の炭素排出量(オペレーショナル・カーボン)を加算しても約60年間ネットゼロカーボンを実現します
※1。
総事業費は、約4,800万GBP(約74億8,800万円
※2)で2024年の完成を目指します。このプロジェクトは先進的な低炭素建築計画が評価され、New London Award 2020
※3やWorld Architecture Festival Award 2021
※4を受賞しています。また、環境認証の「BREEAM」、健康配慮型オフィス認証の「WELL」、スマートビルディング認証の「WIRED SCORE」で最高レベルを取得する予定です。
当社は脱炭素社会の実現に向けて、ネットゼロカーボンの実現を目指す海外中大規模木造開発に取り組んでいます。昨年10月に豪州メルボルンで15階建て木造オフィス開発事業への参画を発表しており、本プロジェクトはその第二弾となります。今後、豪州や欧州で先進的な環境対応や中規模木造の知見を深め、「ネットゼロカーボン建築」をグローバルに展開していきます。
※1 英国の建築物環境性能評価基準(BS EN15978)に基づく ※2 英国ポンド(GBP)=156円(2022年2月10日時点のレートで換算)
※3 ロンドン市内の環境や生活に貢献するデザインのプロジェクトに対して表彰。ロンドン市長も支援している
※4 2008年より開催している世界中の優れた建築を表彰する建築賞プログラムで、本プロジェクト は特別カテゴリーの Climate Energy & Carbon 賞を受賞
■本プロジェクトにおける炭素計算の考え方
炭素計算は英国の建築物環境性能評価基準(BS EN15978)
※5に準拠しています。建物を解体後も木材を再利用できる設計であること、使用木材が持続可能な森林から調達されていること
※6を条件に、建物の生涯炭素排出量から木材炭素固定量を差し引くことが可能とされています。この考え方は英国王立勅許鑑定士協会(RICS)
※7と英国グリーンビルディング評議会(UKGBC)
※8においても、炭素排出量と炭素固定量を個別に表示することを条件に認められています。
右図は本プロジェクトの炭素排出量の推移を示しています。
①木材使用により削減された建築時の炭素排出量に対して、
②木材の炭素固定量をオフセットすることにより、
③竣工時にカーボンネガティブになると試算されています。建物使用中のエネルギー消費によるオペレーショナル・カーボンを加算しても 約60年間ネットゼロカーボンとなります。
本プロジェクトでは生涯の環境負荷を評価するライフサイクルアセスメント(LCA)について、持続可能な低炭素建築に積極的に取組む英国建築設計事務所FCBS Studio社の環境研究者Joe Jack Williams博士が監修しています。
※5 BS ENはBritish Standard European Normの略。欧州統一規格を基に規定された英国の国家規格
※6 FSC認証材、PEFC認証材等
※7 英国で設立された土地・不動産・建物分野の国際的鑑定士協会。
各国政府などに中立的な立場で助言や提言を行っている
※8 国連グローバル・コンパクトのメンバーでもある世界グリーンビルディング評議会に加盟する英国の団体。
600以上の会員組織が参画している。
■プロジェクトスキームと欧州での当社の取り組み
当社はBywaterとのJVであるParadise 11 Limitedに加え、本プロジェクトの出資母体としてSF Paradise Member Limited、英国統括会社としてSumirin UK Limitedを設立しました。当社が英国に現地法人を設立するのは初めてです。
当社は1995年にオランダ・アムステルダムに駐在員事務所を開設以来、日本向けに欧州産の良質な住宅用木材製品を安定供給しています。欧州では人口の都市集中などで住宅が慢性的に不足していることに加えて、環境認証を取得した建築プロジェクトや、CLT(直交集成板)を使った中大規模木造建築の開発事例が増えているため、市場調査を進めてきました。
英国、欧州連合(EU)は2050 年までに温室効果ガス排出量ネットゼロを目標に掲げ、環境に配慮した建物に建て替える動きが進んでいます。欧州は、中大規模木造建築で世界をけん引している参入意義の高い市場です。
当社グループは、新たな収益源の創出と持続可能な社会の実現に向け省エネや創エネと、森林や木材の吸収・固定の機能を組み合わせた「ネットゼロカーボン建築」の展開を目指しています。本プロジェクトを足掛かりに更なるネットワークを構築して、環境負荷の低い中大規模木造建築を欧州で展開。脱炭素社会に貢献し中長期的な事業拡大にも繋げていきます。
■物件の特長
本プロジェクトの建物は、省エネ性能の向上(高遮熱性能の外壁、日射を防ぐブラインド)、自家発電(屋上太陽光発電設備)、エレベーター減速時に生み出される電力の再利用を計画しています。
建物内部の梁、柱、天井に木肌を露出させ木の雰囲気やぬくもりを体感でき、隣接する緑豊かな公園側空気を吸気し室内空気を線路側に排気する換気システム、開放感のある天井高を確保するなど、快適な職場環境を提供します。
ロンドン市内の主要路線に面したランドマーク的な木造建築物となり、注目度の高さからすでに慈善団体や大学、医療機関等から入居の問い合わせを受けています。
■立地エリア
ロンドン市内で再開発が進むテムズ川南岸のエリアに立地します。本エリア周辺ではオフィスや集合住宅、 リテールの再開発が進み、アップル社英国本社ビルや米国大使館の移転先となったBattersea・Vauxhall 地区や、ロンドンで年間利用者数最大の Waterloo 駅を中心に新規開発が拡大しています。テムズ川北岸の政府系オフィス(情報保安部 MI5、内務省、司法省、運輸省、教育省、産業戦略省等) が集まる Westminster 地区も近く至便なロケーションです。
■Bywater概要
設立者で会長のRichard Walker氏は、大手不動産サービス会社での経験を経て、Theo Michell氏と共同で2008年8月英国ロンドンにBywaterを設立。オフィスを中心に開発、企画、管理に特化した不動産開発業者。ロンドン、マンチェスター、グラスゴー、北アイルランドなど英国主要都市に展開しています。英国で約 1,000 店舗を持つスーパーマーケッ トチェーン Iceland Foods 社の取締役社長も務め、スーパーマーケット業界ではパーム油生産による森林減少やプラスチックゴミ問題、建設業界では温室効果ガス排出削減を唱え、両業界の環境貢献に取り組んでいます。Bywaterとは本プロジェクト以降も協業を検討しています。
■本プロジェクトを通じた日本のLCA普及に対する貢献
当社は2022年1月27日発表の通り、フィンランドのOne Click LCA社と、建物のCO2排出量等を見える化するソフトウェア「One Click LCA」の日本単独代理店契約を締結しました。本プロジェクトにおいても同ソフトウェアを使用して低炭素建築の計画が進められています。脱炭素で世界をリードする欧州において、本プロジェクトを通じて得られる最先端のエンボディード・カーボンの見える化や削減といった知見を活かして、日本市場のLCA普及に貢献していきます。