熱中症後に遅れて出現する『ふらつき』や『めまい』は熱中症後の中枢神経後遺症として知られている。中枢神経の中でも小脳は特に熱に脆弱なことが報告されているが、熱中症後の遅発性神経傷害の病態についてはこれまでよくわかっていなかった。今回、昭和大学医学部救急・災害医学講座の宮本和幸准教授、中村元保助教、土肥謙二教授らの研究グループは、マウス熱中症モデルを用いた研究で、熱中症後の遅発性神経傷害に、小脳白質の脱髄、プルキンエ細胞の変性、シナプス傷害が関連していることを明らかにした。
熱中症では急性期を集学的治療で乗り切っても、その後におこる『ふらつき』、『めまい』など神経学的後遺症を合併することがある。中でも、熱中症から1~2週間後におこる遅発性神経傷害では急性期をぬけたあとのリハビリに時期に一致し、これらの神経学的後遺症からリハビリが思うように進まず、高齢者の中にはADL(日常生活動作)が低下し普段の生活に戻れないことがある。中枢神経の中でも特に小脳は熱に脆弱であることが知られ、ヒト熱中症の剖検例でも小脳プルキンエ細胞の脱落や浮腫が報告されている。しかし、熱中症後におきる遅発性神経傷害についてはその病態についてはよくわかっていない。
本研究では熱中症後におきる小脳の遅発性神経傷害についてマウス熱中症モデルを用いて検討をおこなった。マウスは「熱中症群」と暑熱暴露をおこなわない群を「対照群」とし、熱中症1、3、5、7、9週後にRota-rod(※1)で協調運動(※2)を比較した。別の2群(熱中症群、対照群)で、 熱中症後1、3、9週後にKluver-Barrera(KB)染色による脱髄、Calbindin抗体を用いたプルキンエ細胞数の定量、 Postsynaptic density protein 95 (PSD-95)、 Synaptophysin(Syn)抗体を用いたプルキンエ細胞周囲のシナプス傷害を比較した。その結果、熱中症群では熱中症3週後に有意に協調運動障害が出現し、時間経過に伴い改善した。脱髄は熱中症群で1、3週後に出現し、9週で改善した。 熱中症群のプルキンエ細胞数は1、3、9週で対照群と比較して有意に減少した。プルキンエ細胞周囲のPSD95、Syn発現は熱中症後3週間で最も低下し、9週では改善した。
これらの結果から、熱中症により小脳のプルキンエ細胞は著明に減少し、その後改善しないことがわかった。一方、小脳白質の脱髄は時間の経過に伴い改善し、 再髄鞘化が考えられた。プルキンエ細胞周囲のPSD-95、Synaptophysinは熱中症から3週間後に最も低下し、その後改善したことから、 熱中症にともなう一過性のシナプス傷害が示唆された。本検討から、熱中症後におこる小脳白質の一過性の脱髄、プルキンエ細胞の減少、一時的なシナプス傷害が遅発性神経傷害に関連していることが明らかになった。
この研究成果は、『Scientific Reports』に掲載された。
※1:実験動物の運動機能測定装置
※2:相互に調整を保って活動する複数の筋によって遂行される滑らかで正確な運動
(手と手、手と目、足と手などの個別の動きを一緒に行う運動)
<論文名>
Heatstroke-induced late-onset neurological deficits in mice caused by white matter demyelination, Purkinje cell degeneration, and synaptic impairment in the cerebellum
<著者名>
Kazuyuki Miyamoto, Motoyasu Nakamura, Hirokazu Ohtaki, Keisuke Suzuki, Hiroki Yamaga, Kaoru Yanagisawa, Atsuo Maeda, Masaharu Yagi, Munetaka Hayashi, Kazuho Honda and Kenji Dohi
<DOI>
https://doi.org/10.1038/s41598-022-14849-9
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