法政大学生命科学部生命機能学科 廣野雅文 教授の研究グループは、スイス・ポールシェラー研究所、理化学研究所の研究グループと共同で、中心体の中核構造である中心子の新しい形成機構を発見しました。中心子は9本のタンパク質繊維からなる9角柱状の構造で、この形には繊毛構造の鋳型としての重要な役割があります。これまでの研究により、この形の決定には、車輪状の骨組構造(カートホイール)と、それとは別の未知の機構が協調して働くことがわかっていました。今回、この共同研究グループは、単細胞モデル生物のクラミドモナスを使った研究により、Bld10p/Cep135というタンパク質が微小管の間を架橋することによってカートホイールとは別の機構で中心的な役割を担っていることを明らかにしました。
中心子は中心体として細胞の分裂などに働いたり、繊毛の形成基部(基底小体)として細胞の運動や感覚受容に働くなど、細胞骨格構造の形成に司令塔のような役割を担う細胞小器官です。9本の短い微小管からなる特徴的な9角柱状の形は、十数億年前に出現した祖先細胞から現在まで変わらずに受け継がれてきました。そのため、様々な生物に広く共有され、単細胞生物でもヒトでもほとんど変わりありません。なぜ8角柱や10角柱ではなく9角柱になるのか、どのようにして厳密に「9」という数に決定されるのかについては、まだよくわかっていません。
廣野教授の研究グループは、中心子の9角柱構造の形成機構について、単細胞緑藻のクラミドモナスを材料にして研究してきました。これまでの解析により、9本のスポークをもつカートホイールという骨組構造が中心子の形を「9」に限定する働きをもっており、これが突然変異によって失われると8角柱や10角柱の中心子が一部形成されることがわかっています。しかし、数はバラつくものの多くの中心子は9角柱のままであることから、カートホイールに依存する機構とは異なる別の機構があって、それが微小管の数をおおよそ「9」前後にしているのだろうと考えられます。しかしその機構をどのような構造・分子が担っているのかは不明でした。
今回、共同研究グループはこの機構を解明するため、カートホイールが失われたクラミドモナス細胞に、Bld10p/Cep135というタンパク質を短くするような遺伝子操作を加えたところ、中心子の微小管間の距離が短くなって7角柱や8角柱の中心子が形成されることがわかりました。さらに、微小管の間を架橋する新しい架橋構造を発見し、それがBld10p/Cep135から構成されることも示しました。これらのことから、このタンパク質が微小管の間の距離が一定になるように架橋し、カートホイールとは別の機構の中心的な役割を担っていると考えられます。
廣野教授の研究グループは、以前から中心子の9角柱構造の形成機構について「動的相互作用モデル」を提唱しています。このモデルでは、カートホイールと微小管はそれぞれ独立に、ある程度バラつきながらおおよそ「9」になるように集合し、それらの間の相互作用によって数とサイズがぴったりあった9角柱だけが安定化して中心子となると考えます。今回の結果は、これまで未知であった微小管が集合する機構について新しい知見をもたらしました。
以上のように、生物種間で広く共有されている中心子の9角柱構造は、ゆるく「9」前後に限定する機構が重層的に働くことで決まることがわかってきました。生物がもつ遺伝子のどこかに「9」という数が書き込まれているわけではないのに厳密に「9」になるのは一見不思議ですが、このような重層的なしくみだからこそ、十数億年もの間、この数が変わらずに保持されてきたのかもしれません。
【発表雑誌】
■雑誌名: The EMBO Journal (2022年9月12日[ヨーロッパ中央夏時間])
■論文タイトル: Bld10p/Cep135 determines the number of triplets in the centriole independently of the cartwheel
■著者: Akira Noga, Mao Horii, Yumi Goto, Kiminori Toyooka, Takashi Ishikawa, and Masafumi Hirono
DOI: 10.15252/embj.2020104582
https://www.embopress.org/doi/10.15252/embj.2020104582
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【リリース発信元】 大学プレスセンター
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