<ポイント>
◇ヘルプマーク※の普及・活用のためには、どのようなメッセージが効果的かを調査。
◇普及・活用には、近い将来に自分や自分の家族がヘルプマークを身につける日が来るかもしれないという『当事者としての未来』に思いを馳せてもらえるようなメッセージを提示することが効果を持つ可能性がある。
<概要>
大阪公立大学大学院 文学研究科 橋本 博文准教授、立教大学 現代心理学部心理学科 前田 楓助教、久留米大学 文学部心理学科 佐藤 剛介准教授の研究グループは、ヘルプマークの普及・活用のためにどのようなメッセージの 提示が効果的であるかについての研究を行い、『未来志向』を促すメッセージが鍵を握る可能性を示しました。
近年、共生社会の実現に向けた取り組みの一環として、ヘルプマークの普及が公的に推進されています。しかし、ヘルプマークの普及、そしてその活用は十分であるとは言い難いのが現状です。
本研究では、近い将来に自分や自分の家族がヘルプマークを身につける日が来るかもしれないという『当事者としての未来』に思いを馳せてもらえるようなメッセージを提示することが効果的である可能性を示しました。さらに、この結果を踏まえてポスターを制作し、そ の効果測定を行ったところ、ポスターを見た人たちの間でヘルプマークに対する肯定的な理解が高まる可能性、そして、ヘルプマークは支援する側を含むみんなのためのものであるという認識も高まる可能性が示されました。
本研究成果は、2022年11月17日(木)に、国際学術誌「Frontiers in Rehabilitation Sciences」に掲載されました。
橋本 博文 准教授
ヘルプマークの主旨を理解し、その活用を図るためには、従来とは異なる啓発アプローチも必要となるでしょう。私たちが現在注目しているのは、「当事者としての未来」に目を向けるアプローチです。このアプローチの有効性を主張するためには、研究知見をさらに積み重ねる必要がありますが、今回の研究成果を足掛かりに、ヘルプマークの普及や活用を図るための一翼を担いたいと思っています。
<研究の背景>
ヘルプマークは、義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、または妊娠初期の方など、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるよう作成されたマークです。助け合いがスムーズに行われるようにと願いを込めて、『助け合いのしるし』と呼ばれることもありますが、十分に普及・活用されているとは言い難いのが現状です。
こうした現状を踏まえ、ヘルプマークに対する理解が進みにくく、また活用されにくい原因を追究するとともに、ヘルプマークの主旨についての理解を促し、活用を図る方法を検討するために調査・研究を行いました。
<研究の内容>
まず、大学生121名を対象にヘルプマークを説明するための文章をいくつか用意し、どの説明文が『肯定的な理解を促すのか』また、『抵抗感を減らすのか』などについてアンケート調査を実施しました。
その結果、統制条件よりも未来志向条件において、肯定的な理解のスコアが高く、抵抗感のスコアが低くなることが明らかとなりました。これにより当事者としての未来に目を向けてもらうことを意図した説明文を提示することで、人々のヘルプマークに対する肯定的な理解が促され、抵抗感も抑制される可能性が示されました。
【添付:グラフ画像】
<統制条件>
ヘルプマークの定義のみを説明する文章を読んでもらう条件
<現在志向条件>
定義に加えて、「ヘルプマークは配慮を必要とする人のためのマークである」ことや「配慮をする側の思いやりのある行動が配慮を必要とする人の安心につながる」ことを説明する文章を読んでもらう条件
<未来志向条件>
定義に加えて、「ヘルプマークはすべての人のためのマークである」ことや「助け合いやすい社会をつくっておくことは、長い目で見ればすべての人の安心につながる」ことを説明する文章を読んでもらう条件
次に、上記の結果を踏まえ、アストラムライン(広島高速交通株式会社)と共同で、『当事者としての未来』に思いを馳せてもらえるようなヘルプマークの啓発ポスターを新たに制作しました。そして、実際にそのポスターを掲示し、人々の認識を変えることができるかどうかを、大学生92 名を対象に調べました。その結果、掲示したポスターを見なかった人たちよりも、ポスターを見た人たちの間でヘルプマークに対する肯定的な理解が高まる可能性が示唆されました。
<期待される効果・今後の展開>
日本独自の「ヘルプマーク制度」をもっと活用していくための手立てを考える上で、本研究の成果は示唆に富むものだと思います。もちろん、本研究で取り上げたような啓発アプローチがどの程度頑健な効果を持つのかについてはまだまだ検討の余地があります。今後は、その効果を冷静に見据えつつ、さらなる研究の蓄積に尽力したいと思っています。
<資金情報>
本研究は、吉田秀雄記念事業財団助成研究の支援を受けて実施しました。
<用語解説>
※ヘルプマーク...義足や人工関節を使用している方、内部障害や難病の方、または妊娠初期の方など、外見からは分からなくても援助や配慮を必要としている方々が、周囲の方に配慮を必要としていることを知らせることで、援助を得やすくなるよう作成したマークです。
<掲載誌情報>
【発表雑誌】Frontiers in Rehabilitation Sciences
【論 文 名】Future-oriented thinking promotes positive attitudes toward the ''Help Mark'' in Japan
【著 者】Hirofumi Hashimoto, Kaede Maeda, Kosuke Sato
【掲載URL】
https://doi.org/10.3389/fresc.2022.967033
【研究内容に関する問い合わせ先】
大阪公立大学大学院 文学研究科
准教授 橋本 博文(はしもと ひろふみ)
TEL:06-6605-2376
E-mail:hirofumihashimoto@omu.ac.jp
立教大学 現代心理学部心理学科
助教 前田 楓(まえだ かえで)
TEL:048-471-6994
E-mail:kaedemaeda@rikkyo.ac.jp
久留米大学 文学部心理学科
准教授 佐藤 剛介(さとう こうすけ)
TEL:0942-43-4411
E-mail:satou_kousuke@kurume-u.ac.jp
【報道に関する問い合わせ先】
大阪公立大学 広報課
担当:久保
TEL:06-6605-3411
E-mail:koho-list@ml.omu.ac.jp
立教大学総長室 広報課
担当:藤野
TEL:03-3985-2202
E-mail:koho@rikkyo.ac.jp
久留米大学 総合企画部広報室
担当:浅原
TEL:0942-31-7510
E-mail:kikakukouhou@kurume-u.ac.jp
▼本件に関する問い合わせ先
立教大学総長室広報課
メール:koho@rikkyo.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
https://www.u-presscenter.jp/