ようやく市場が正常化に向かう中、バリュエーションを注視する姿勢が取り戻されるべきであると考えます。
ヨハナ・カークランド
CIO/マルチアセット運用グローバル・ヘッド
新型コロナウイルス感染拡大という一世一度の危機を経験し、過去30年間続いた従来の環境に変化が訪れています。
数十年に亘る、相対的に穏やかでインフレが低位で推移する環境を過ぎた今、足元では地政学的リスクの上昇やインフレ率上昇に直面しています。
ただし、投資家の目線で見た場合、正常化ともいえる方向へ向かっているといえます。足元での環境は、決して易しい環境とは言えませんが、名目金利が高まってきています。この変化は、制限のない流動性の中で、リターンを獲得するために割高な資産を買わざるを得なかった数年前に比べると、投資環境の大きな変化といえます。
拒絶から容認へ
足元数ヵ月間で、中央銀行の利上げに対する投資家のマインドセットは、「拒絶」から「容認」に変化してきました。市場期待は、適切な水準となっており、これは去年の夏頃と比べると大きな変化といえます。
各国中央銀行の金融政策の差異は、異なるインフレ水準、エネルギー危機やパンデミックへのエクスポージャーにより生じており、資産クラスの中で、投資機会を創出しています。
量的金融緩和政策により主要国の金利がゼロ近辺でほぼ固定されていた過去10年間は、各国の金融政策に大きな相違はありませんでした。これにより、特定の国を選好するポジションを取ることは難しい状況となっていました。
それぞれ異なるスピードで回復
2023年の景気後退の中で舵取りを行う必要がありますが、2001年の景気後退からどのように脱したかを振り返ると、それぞれの経済が異なるスピードで回復を辿ったことがわかります。これは投資の観点からみると興味深く、今後数年間において投資機会を提供することが見込まれると考えます。
エマージング市場は先進国市場に先立って2021年からすでにインフレ対応を行っており、金融引き締めサイクルの終盤にあります。エマージング諸国は先制して利上げを行ったことによる影響をすでに受けていることから、エマージング市場に価値を見出せると考えています。
インフレが2023年のパフォーマンスの鍵に
インフレが2023年の鍵と考えます。インフレが沈静化した場合、市場はさらに穏やかな環境となることが見込まれますが、インフレが継続した場合、金利のさらなる上昇の可能性があるほか、市場はバリュエーションの再評価の必要が出てくる可能性があります。
とはいえ、2022年のボラティリティと比較すると、2023年には金利、債券全般はより安定化し、投資家は利回りの恩恵を受けることができると考えます。債券の魅力は、分散効果から利回りに変化しています。
企業業績予想は低下する必要あり
株式のバリュエーションは債券のバリュエーション程魅力的ではないと考えており、景気後退リスクを考慮して、企業業績予想は低下する必要があると考えています。
では何が株式の力強い回復の引き金となるのでしょうか?米国労働市場の緩和を示すデータは、米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げに歯止めをかけ、債券利回りは低下が見込まれることから、株式の再評価が可能となります。
また、テクノロジーセクターがけん引し、数年に亘って米国株式はアウトパフォームしてきたことから、米国以外の市場は割安であると判断できます。
ただし、先述したように、新たな環境下、投資家はより優れた判断力が必要であるほか、国や企業に対して選別的である必要があります。今後は債券市場、株式市場ともに、勝ち組と負け組の相違がより大きくなることが見込まれます。
過去、株式の優れた投資機会は景気後退の最中に現れたことを覚えておく必要があるでしょう。市場は常に経済ニュースを先取りして動くものです。従って、2023年、投資家はニュースの見出しではなく、バリュエーションに注視する必要があると考えます。
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