白鷹町の1,000ha単位の広大な山林での実証を通じて、地域との共創による新たな林業経営モデルの構築を目指す
山形県白鷹町(町長 佐藤誠七)、物林株式会社(東京都江東区、代表取締役社長 淡中克己、以下 物林)およびデロイト トーマツ グループ(東京都千代田区、グループCEO:木村研一、以下デロイト トーマツ)は「林業再生による地域活性化に取り組む白鷹町プロジェクト」に関する連携協定を本日締結しました。
本協定は、山形県白鷹町、木と緑の総合商社の物林、経営に関する多様なサービスを提供するデロイト トーマツが相互の連携により、白鷹町の1,000ha単位の広大な山林の管理を通じて、同町における林業の再生と地域活性化、わが国林業の課題解決の示唆を得ることを目的にしています。またこれを契機に、中期的には日本における地域コミュニティを核とした林業施業の効率化と林業事業体の自立と自律の実現を目指してまいります。
わが国の森林の保全と林業の健全な発展に向けては、山林の所有形態が小規模分散化し、その生産性が低いために補助金ありきのビジネスモデルになっている現状を打開する必要があります。今回三者は、林業施業のスケールアップにより、持続可能で、かつ効率化・黒字化するモデルの確立へと道筋を描きながら、大規模なプロジェクトで生じる課題の顕在化への対応策の整理・実行・検証といったプロセスを含む実証を行います。
具体的には、林業経営における林業適地の仕分け、伐採と造林の一体作業や下刈りの省略などの林業施業の効率化を通じた収益性の向上策や、木材が持つ価値を最大限に向上させるための歩留まりに着目した製材品開発などを通じて、木材の高付加価値化などについて実証を行います。それにより、地域が元気になり、かつ森林保護にも心を配り、永続性と収益性を確保できる新たな林業経営モデルの実現を目指します。
■三者の主たる役割※1
- 白鷹町:地域の森林の永続性と経済性の向上を両立させていくために、公益的な機能とのバランスを保ち、地域の森林・林業・木材産業の方向性を示す「白鷹町森林(もり)とつながる暮らしビジョン」※2を実践につなげていく
- 物林:長年にわたり林業に携わって得た知見、需要開拓・新製品開発等の経験を通じて、未来の豊かな森林とサステナブルな森林資源の確保を推進するサポーター
- デロイト トーマツ:森林・林業経営に関わるビジネスプランニング、ファイナンス能力の強化や、それらを適切に運営していくために必要なガバナンスの向上に関わるアドバイザリー
■本協定締結の背景
日本の国土面積のおよそ4分の1に当たる人工林は、「今」まさに主伐期を迎え、豊富な資源を蓄えています。しかし、「今後」を見据えると、利用可能な森林資源は大幅に減少していく状況に置かれています
※3。そこには日本林業が抱える構造的な課題があります。これらは、1つの組織単独での取り組みで克服できるものではなく、日本林業界、さらには木材利用に関わる広範なステークホルダー全体で、現状を変革していくことが不可欠です。
このような構造的課題の1つに、山林の所有形態が小規模分散化していることが指摘されます。小規模事業地を統合しようにも、度重なる相続・土地の分割で所有者が過度に分散してしまっており、全員の同意を得る作業は難航しがちで、林業事業のスケールアップは著しく難しい状況です。その結果として、日本全国で小規模な事業地での林業施業が営まれており、一方で高コストを補填する補助金を前提とした施業が常態化しています。この悪循環から抜け出すことなしに、林業が生業へと脱皮することはできず、健全な産業としての自立もできないと考えます。
このような状況の中、白鷹町の鮎貝自彊会が管理する1,700haに及ぶ広大な山林の管理を、地元企業2社と物林が出資して設立した「おきたま林業」が受託しました
※4。この契約の成立は、林業のスケールアップによる採算性向上の実証には千載一遇のチャンスです。この森林を中心に白鷹町に存する森林全体を俯瞰しつつ、白鷹町、物林、デロイト トーマツが連携して、地域コミュニティを核に林業施業の効率化を実現し、林業事業の自立と自律によりヒト・モノ・情報・コミュニティへの投資能力を高めていくことで、地域の活性化につなぐことを支援することには意義があると考え、この度本協定を締結しました。
更なる収益性の向上にはサプライチェーン・マネジメントへの積極的な取り組みも大切だと考えます。切り出された木材は、これまで原木市場に卸す流れが一般的でしたが、価格メカニズムがうまく機能しない状況で、山主へのリターンは縮小し、再造林率も低迷しています。
当然のことですが、これらの取り組みを実現していくためには、森林という自然資産が本来持つ公益的な機能(環境保全・形成、水源涵養、土砂防備、保健機能など)を永続的に保持・育成していくという視点がこれまで以上に重要になると考えます。更にいえば、経済合理性のもとに、ややもすると外部経済化され、劣後されがちな個々人の心身と社会的な健康、あるいは「自然環境や社会環境の調和が私たちの暮らしに長期にもたらす価値」の過小評価などについても、この取り組みにおいて議論を尽くしていくことが必要だと考えます。
地域が、改めてコミュニティを再認識し、森林を守りつつ、地域を活性化していく。そのような取り組みをとおして、個々人がそこに存在している意義を実感し、社会と調和して暮らしていけるためには、経済性と公益性のバランスを図ることの意義を改めて見つめ直すことが重要であると思われます。
これらの取り組みを推進していくために、白鷹町、物林及びデロイト トーマツは、それぞれの役割を意識しつつも、目的の実現に向けて相互に意思疎通を深め、他の組織や個人を巻き込みながら、相互に切磋琢磨を続けていきます。
【注】
※1:三者の主たる役割
【白鷹町】:地域の森林の永続性と経済性の向上を両立させていくために、公益的な機能とのバランスを保ち、地域の森林・林業・木材産業の方向性を示す「白鷹町森林(もり)とつながる暮らしビジョン」を実践につなげていく
白鷹町は、長きにわたり停滞していた林業生産活動を、自立的に循環する形に再構築していく取り組みを推進しています。この背景には、平成25・26(2013・14)年の豪雨災害を受け、保全の視点から森林に目を向け、木材産業の再構築や木材利用、木育、森林学習と川上から川下まで総合的に森林・林業・木材産業の活性化を図ってきた歴史があります。このような背景を踏まえ、策定された白鷹町の森林・林業・木材産業についての方向性を示す「白鷹町森林(もり)とつながる暮らしビジョン」を実現していくための具体策を、ここに真摯に議論し、実践につなげていきます。
【物林】:長年にわたり林業に携わって得た知見、需要開拓・新製品開発等の経験を通じて、未来の豊かな森林とサステナブルな森林資源の確保を推進するサポーター
今、主伐再造林を着実に進めることは、未来に豊かな森林と木材資源を引き継ぐための喫緊の課題です。物林株式会社は、白鷹町において低コスト林業経営への積極的な参画、生産された丸太をより有利に販売し、新たな製品の開発や需要の開拓を行うなどを、地域の関係者の皆様と連携して取り組み、主伐再造林を推進し、持続可能な林業経営を行えるようお手伝いいたします。これにより白鷹町の発展に寄与することはもとより、ここでの成果を他の地域でも取り組み、地域の振興と林業の活性化に尽力していきたいと考えています。
物林株式会社は、未来のあるべき社会を創造し、その実現のためにバックキャスティングで取り組んでいきます。
【デロイト トーマツ】:森林・林業経営に関わるビジネスプランニング、ファイナンス能力の強化や、それらを適切に経営していくために求められるガバナンスのあり方に関わるアドバイザリー
デロイト トーマツ グループは、カタリストとして林業に関わる様々な方々と議論・意見交換をしながら、業界変革の機運や様々なベストプラクティスを創出することで、日本林業の変革・発展に寄与していくことを目指しています※5。
これからの林業事業の健全化に向けた戦略の骨格を成すストーリーは生業として成立する林業、簡潔にいえば儲かる林業の確立であり、その確立に向け積極的に議論に参画し、アドバイザリーに努めていきます。そのためには、ビジネスプランニングにより、全体を時間軸とともに俯瞰することが重要です。そして、これまでの補助金依存になりがちだった経営を脱し、自立した林業事業体として自律的なファイナンス能力を充実していく必要があると考えます。そのためにも、これからの地域の林業事業を適切に経営していくために求められるガバナンスのあり方についても、真摯に議論を深めていきます。
※2:白鷹町森林(もり)とつながる暮らしビジョン
https://www.town.shirataka.lg.jp/1919.htm
※3:林業ビジョン『Japan Forest 2050 Ver.1.0』
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/public-sector/articles/lg/japan-forest-2050.html
※4:林政ニュース、第687号、2022年10月26日発行、「白鷹町の地縁団体・鮎貝自彊会が約1,700haの直営林を経営委託」
※5:林業アドバイザリーサービスを提供 社会からの要請に応えられる持続可能な林業を目指して
https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/public-sector/solutions/lg/forestry-advisory-services.html