日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)が長年研究開発を行い標準化活動を推進し主導してきた、データを暗号化したままで処理ができる秘密計算技術について、初の標準規格『ISO/IEC 4922-1:2023』が国際標準化機構(International Organization for Standardization、 以下ISO)から発行されました(※1)。
今回の規格化により、世界中の秘密計算技術の開発者や利用者の秘密計算技術についての認識を一致させ相互理解を深めて、技術開発や技術活用を正確かつ容易に行うことができるようになります。ユーザにとっては、本規格に準拠し開発されたものであれば、安心して使うことが出来るようになります。
本標準をベースに、秘密分散技術を利用した秘密計算を規定する、ISO/IEC 4922-2も規格化の最終段階に入っており、NTTは引き続き秘密計算技術の標準化に貢献していきます。
1. 背景
昨今、データに基づく意思決定の広がりや分野横断的なサプライチェーンの最適化などのため、様々なデータを共有し多分野での利活用を図る機運が高まっています。しかし、個人のプライバシーに関わるデータや企業運営、営業秘密に関わるデータなどは、情報漏洩や不正利用の懸念もあるためデータの共有がはばかられ利活用が進んでいない現状があります。その解決策として注目されているのが、データを暗号化したまま一度も元に戻さず処理ができる秘密計算技術です。Gartner社が発行する先進テクノロジーの普及度やトレンド遷移を示すハイプ・サイクルにおいても、秘密計算を含むPrivacy-Enhancing computation (PEC)はトップ・トレンドに挙げられています。
NTTは秘密計算技術に早くから着目し(※2)、長年技術開発に取り組んできました。また社会普及に向けた実証実験(※3-7)や、先進的な秘密計算サービス「析秘®」の実現(※8-10)に向けた技術提供も行ってきました。加えて、標準化にも積極的に取り組んでおり、秘密計算技術の前提となる技術である秘密分散技術についてもISO標準規格の作成を主導し標準化に貢献してきました(※11)。
2. 今回規格化された内容とその意義
秘密計算技術は学術的には古くから知られた技術であるものの、様々な定義や評価軸が存在していたため、専門家以外がそれらを正しく理解して利用することは難しく、他者との意思疎通の際に異なる定義や用語を用いてしまい共通認識を得られにくいという課題がありました。
そのためNTTはISO/IECにて秘密計算技術の規格化を一から提案し、エディタとして各国への働きかけや文案のとりまとめ等の活動を通じて規格作成を主導してきました。その成果として、2023年7月に秘密計算の初のISO規格である『ISO/IEC 4922-1:2023』が発行されました。
今回発行された規格は秘密計算技術の定義、秘密計算技術に関する安全性の評価軸やユースケース例を規定しており、様々な分野においても秘密計算技術について同じ用語で説明することが可能となり、共通認識が持てるようになりました。(図1)
また、今回の標準規格に続くかたちで、特に秘密分散技術を利用した秘密計算の方式を規定する『ISO/IEC 4922-2』も規格化の最終段階に入っており、こちらもNTTが規格化を主導しています。
図1. 秘密計算技術のイメージ
3. 今後の取り組み
NTTは安全なデータ流通社会の実現に向けて、引き続き秘密計算技術の標準化に取り組んでいくとともに、新たな価値の創造を実現するIOWN(※12)の主要機能の一つとして社会実装を進めるべく今後も秘密計算技術の研究開発に取り組んでいきます。(図2)
図2. 秘密計算技術による新たな価値の創造
〈参考・用語解説〉
※9 千葉大学病院とNTT Com、炎症性腸疾患において患者のプライバシーを保護したまま行う日本初の観察研究を開始 ~「SmartPRO®」と「析秘®」を活用し患者のプライバシーを保護~
https://www.ntt.com/about-us/press-releases/news/article/2022/1129.html
※10 がん治療成績の把握、患者の治療説明での活用を目的としたがん累積再発曲線を描画する簡易ノモグラムツールの開発
https://biobankjp.org/work/pdf/release22_1222.pdf
※11 秘密分散技術の初の国際標準にNTTの秘密分散技術が採択
https://group.ntt/jp/newsrelease/2017/10/23/171023a.html
※12 IOWN構想(アイオン:Innovative Optical and Wireless Network): あらゆる情報を基に個と全体との最適化を図り、多様性を受容できる豊かな社会を創るため、光を中心とした革新的技術を活用し、これまでのインフラの限界を超えた高速大容量通信ならびに膨大な計算リソース等を提供可能な、端末を含むコミュニケーション基盤の構想。
https://www.rd.ntt/iown/