オンラインと対面を交えたハイブリッド方式で運動を行った場合でも、適切な運動によって高齢者の認知・身体・心理・集団機能を改善することを証明~ 遠隔地の高齢者や外出が困難な在宅者の運動を通じた心身の健康増進への応用に期待 ~



1. 研究結果の要旨

立教大学スポーツウエルネス学部(埼玉県新座市、学部長:沼澤秀雄)に所属する川端雅人教授(クウィーンズランド大学名誉准教授)は、南洋理工大学 のAnnabel Chen教授とSu Ren Gan氏と共に、シンガポールの高齢者に対して、オンラインと対面を交えたハイブリッド方式でスクウェア・ステッピング・エクササイズ(Square Stepping Exercise: SSE)の介入研究を行い、ハイブリッド方式で行うSSEが高齢者の認知・身体・心理・集団機能を著しく改善することを明らかにしました。





この研究はシンガポールの教育省が管理する競争的資金の支援を受けて行われた研究プロジェクト(MOE2019-T2-1-019)であり、研究結果はSCImago Journal Rank (SJR)の「老齢医学と遺伝子学」領域でQ1(上位25%)に入る国際学術誌であるBMC Geriatrics (5-year Impact Factor: 4.9)に2024年4月25日に掲載されました。



2. 研究の背景

世界の高齢化のスピードは以前よりはるかに速くなっており、60歳以上の人口は2050年までに全世界で21億人になると言われています[1]。高齢者にとっても社会にとってもプラスとなる余生を送るためには、高齢者の身体的・精神的能力を維持することが極めて重要です。身体運動と認知トレーニングの両方を介入プログラムに組み込むことが、トレーニングプログラムの効果を最大化するために有利であると考えられています[2]。そのような身体運動と認知的要素の両方から構成されるトレーニングプログラムにSSEがあります[3]。

SSEは高齢者の認知機能低下を遅らせる運動トレーニングとして有望です 。しかし、コロナウイルスの大流行を踏まえると、SSEをオンラインで行う可能性を探ることは重要でした。そこで、川端らは、家にいながらSSEをオンラインで実施するためのプロトコルを考案し、活動的でない若年成人[4]と高齢者[5]を対象にオンラインによるSSEの短期的な有効性について報告しています。しかしながら、コロナウイルスと共存していく必要があることを考えると、高齢者に対するSSEアプローチの別の選択肢を模索することは有用です。そこで今回の研究において川端らは、非活動的な高齢者を対象に、SSEをオンラインと対面を交えたハイブリッド方式で行った場合の長期的効果について包括的に検証しました。


3. 研究の概要と主な結果

本研究には、身体的傷害や内科的疾患のない健康だけれども活動的でない合計93名の高齢者(男性19名、女性74名、年齢68.3歳 ± 5.7)が参加しました。介入群の参加者58名(男性9名、女性49名)はSSEの未経験者で、高齢者対象のアクティビティ・センターで、12週間に渡ってハイブリッド方式(Zoomを用いたオンラインによるインストラクターの指導を受けながら2-3のグループとして対面で運動する)でSSEを実施しました。一方、対照群の参加者35人(男性10人、女性25人)は、研究期間中、新しい活動を始めることなく、通常の身体活動レベルを維持するよう指示されました。

認知機能はStroop Colo-Word TestおよびTrail Marking Test (TMT)を用いて、心理機能と集団機能は、主観的活力尺度と身体活動集団環境質問紙によって評価しました。身体機能は歩行速度によって評価されました。


(添付:図1. Stroop Colo-Word Testの不一致条件における正回答の反応時間(Reaction Time) と正確性.
注) ms = milliseconds. Error bar: SD. ** p < .01.)

Stroop Colo-Word Test(図1)とTMTの結果から、ハイブリッド方式によるSSEは実行機能の改善に非常に有効であるとともに、身体的機能(普通と最大の歩行速度)や、心理的機能(主観的活力)の改善にも有益であることが明らかになりました。さらに、ハイブリッドSSEを通じて、参加者はトレーニング課題への取り組み程度が増加すると共に、社会的コミュニケーションも増え、グループのメンバーとの絆や親密さが増したことも分かりました。


4. 研究成果がもたらす可能性

本研究の結果は、コロナウイルスと共存していく必要がある中で、より安全で効率的な運動の選択肢を高齢者に提供するために極めて重要です。またハイブリッド方式によってSSEを行うプロトコルは、遠隔地の高齢者や外出が困難な在宅者に対しても応用可能であることから、そのような方たちに適切な運動を通じて心身の健康を高める機会を提供することに繋がることが期待されます。


5. 論文情報

Kawabata, M., Gan, S. R., & Chen, S. H. A. (2024). Effects of Square Stepping Exercise on cognitive, physical, psychological, and group functions in sedentary older adults: A center-based hybrid trial. BMC Geriatrics. DOI: 10.1186/s12877-024-04904-7


6. 研究代表者

川端雅人
立教大学スポーツウエルネス学部スポーツウエルネス学科 教授
(クウィーンズランド大学名誉准教授)
専門分野:スポーツ・運動心理学、ポジティブ心理学
URL: https://sw.rikkyo.ac.jp/feature/faculty/o2r4870000000com.html


7. 引用文献

1. World Health Organization. (2022, October 1). Ageing and health. [Retrieved on September 10, 2023]. https://www.who.int/news-room/fact-sheets/detail/ageing-and-health
2. Karr, J. E., Areshenkoff, C. N., Rast, P., & Garcia-Barrera, M. A. (2014). An empirical comparison of the therapeutic benefits of physical exercise and cognitive training on the executive functions of older adults: A meta-analysis of controlled trials. Neuropsychology, 28, 829.
3. Shigematsu, R., & Okura, T. (2006). A novel exercise for improving lower-extremity functional fitness in the elderly. Aging Clinical and Experimental Research, 18, 242-248.
4. Kawabata, M., Gan, S. R., Goh, G., Omar, S. A. B., Oh, I. T. F., Wee, W. Q., & Okura, T. (2021). Acute effects of Square Stepping Exercise on cognitive and social functions in sedentary young adults: A home-based online trial. BMC Sports Science, Medicine and Rehabilitation, 13, 82.
5. Gan, S. R., Low, K., Okura, T., & Kawabata, M. (2022). Short-term effects of Square Stepping Exercise on cognitive and social functions in sedentary older adults: A home-based online trial. ACPES Journal of Physical Education, Sport, and Health, 2, 70-77.



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立教大学総長室広報課
メール:koho@rikkyo.ac.jp


【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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