子や孫の代まで、日本の魚が食べられる未来のために漁業者様との共存共栄を目指す当プロジェクトでは、2010年から全国116カ所の漁港・漁協様と直接取引し、新鮮な魚を仕入れています。さらに2015年から定置網にかかった魚を丸ごと買い取る「一船買い」を開始。定置網で獲れた魚を重量に応じて年間契約で決めた価格で買い取るため、漁師さんは市場価格に左右されずに、また、あまり流通していない市場価値の低い魚でも引き取ってもらえるメリットがあります。一方、当社にとっては、豊富な魚種を安定して仕入れることができ、お客様に魅力ある商品としてお届けすることができます。
獲れるべき魚が獲れない状況を受け、
“欲しい魚をどう買うかではなく、獲れる魚をどう売るか”
全国各地の漁港・漁協とタッグを組んで目指す、
低利用魚の価値向上と獲れた魚を活用する“地魚地食”の進化のかたち
漁場の変化を実際に現場に赴き、感じているくら寿司バイヤーの大濱喬王が、
今の海洋事情を踏まえ実践していること、これから取り組むべきこと、取り組んでいきたいことについてお話しします。
―― 昨今、漁師さんから直接打ち明けられる、漁場の変化について教えてください。
最もよく耳にするのは、「獲れるべき時期に、獲れるべき場所で、獲れるべき魚が獲れない」という声です。例えば、関西でなじみのあるタチウオという魚は、6年ほど前までは九州から瀬戸内海にかけてが非常に大きな漁場でした。今は、タチウオで生業を立てておられる漁師さんはゼロ、まったく獲れない状況が3~4年続いています。今、タチウオが水揚げされているのは、東京湾、千葉、茨城、石巻から気仙沼あたり。獲れるポジションが完全に変わってしまった感覚があります。
―― 獲れるべきものが獲れない、海の変化を感じ始めたのはいつごろからですか。
「天然魚プロジェクト」をスタートさせた2010年ごろには、すでに変化を顕著に感じていました。あまり耳なじみのない魚、食べる機会のない魚が網にかかる割合が増え、漁師さんの収入に影響が出始めたんです。そこから欲しい魚だけを買うのではなく、獲れた魚を重量に応じて決めた価格で買い取る「一船買い」の話が持ち上がりました。また、獲れるべきじゃなかった低利用魚(おいしさが世の中に認知されておらず、あまり市場に出回っていない魚)に対して、われわれができることを考え抜き、商品化を進めるようになりました。低利用魚はおいしい魚であるということを訴求し、低利用魚の価値を少しでも上げることが、全国の漁師さんの収入につながる、という思いで続けています。
―― 低利用魚だったシイラも少しずつ認知され、人気が高まっているそうですね。
根本にあるのは、今この日本で獲れる魚を最大限に活用したいという思いです。スーパーで初めて低利用魚を見ても、買ってみようとはなりにくいと思いますが、すぐ食べられる刺身の状態で一皿ごとに提供する回転寿司のスタイルはお手軽で、低利用魚の最適なお試し場所です。例えばシイラの握りがおいしかったら、数日後にスーパーで見たシイラを買ってくださるかもしれない。そのためには、おいしくない商品は絶対に出せないので、必ずおいしく商品化した低利用魚をお出しして、日本全国の天然魚の付加価値を上げていきます。平日17時まで限定で販売している「旬の海鮮丼」にはシイラが入っていることもありますし、9月にはシイラを使った握りを販売予定です。
――近藤氏からは、「どうやって新しく獲れるようになった魚、いなくなった魚に適応していくかが、関係者の大きな課題」と伺いましたが、今後、全国の漁場に対し、くら寿司としてサポートできると考えることはありますか。
くら寿司では、地産地消ならぬ「地魚地食」の取り組みで、国産天然魚用の自社加工施設「貝塚センター」を含め、全国18カ所まで加工場を増やしました。これまで貝塚センターで培ったくら寿司のノウハウを、その産地にご提供して、その加工方法でおいしく召し上がっていくスキームはできているので、これまで獲れなかった魚が獲れるようになっても、くら寿司の加工場を活用していく可能性はあります。
また、くら寿司では全国に店舗があるのも強みだと考えており、「地魚地食」の取り組みにおいて、その地域で獲れた魚をその地域の加工場で加工し、その地域の店舗で召し上がっていただく流れになっていますが、気候変動によって今までその地域で食べられていなかった魚種が獲れて、なかなかその地域で食べられない等の状況が起こった際には、その魚種が人気のある地域で売るということもできると考えます。
水揚げ時期が変わったり、逆にこれまでたくさん獲れていたものが少なくなったり、さまざまな状況が起こっており、今後どうなっていくか分からない中で、くら寿司ではこれまで100種類以上の天然魚を貝塚センターで加工しているという実績があり、これから起こる気候変動の影響に臨機応変に対応できるのは、われわれの強みです。
※大濱喬王(おおはま・たかお)…2015年入社。専門知識を生かし、天然魚プロジェクトの担当バイヤーに就任。持続可能な漁業を実現するために全国の漁港を東奔西走している。魚の知識はくら寿司随一。
【参考】地魚地食の取り組み(2023年4月〜)
「天然魚プロジェクト」でつながる全国の漁港・漁協様の協力の下、2023年から動き始めた取り組み。各地域で水揚げされた地魚を使ったメニューを、各地域内の店舗にて販売。それぞれの地域の旬の地魚をお楽しみいただける、地産地消ならぬ「地魚地食(じざかなじしょく)」の取り組みです。全国の漁業者様とのネットワークも生かし、地域の漁業者様、地域の水産会社様、地域の店舗が連携するシステムを構築。各地域の漁港で水揚げされた水産物を、それぞれ拠点となる全国各地の協力先の水産加工場で加工し、地域内の店舗に送ります。地域における地魚の消費を促すことで、地域の漁業者様を支えることにもつながります。
※秋のラインアップの一例…【北海道】苫小牧漁協 北寄貝(一貫)、【福島・宮城】石巻港 なまこ酢、【東京・埼玉・群馬・神奈川】三浦半島 炙り釣り金目鯛(一貫)、【北陸】北陸 ほっこくあかえび、【和歌山】紀州日高漁協 ぐれ(めじな)、【徳島・香川】うず華はまち、【沖縄】沖縄 美ら海 イラブチャー(なんようぶだい)(一貫)
(参考情報)
海の温暖化、環境変化に対応しながら、新しい漁業創生のかたちを推進
未来の魚食文化につながる、当社の取り組みをご紹介
○天然魚 魚育(うおいく)プロジェクト(2019年~)
市場に出荷しても値が付きにくい定置網にかかったハマチやタイの未成魚を、養殖用の生けすで寿司ネタにできるサイズにまで畜養。また、「磯焼け」の原因となり、駆除対象となっているニザダイは、定置網にかかることが多い一方で、その独特のにおいから食用としては敬遠され、市場にほぼ出回っていない魚ですが、一定期間エサとしてキャベツを与えることで、においが薄まることが分かり、商品化に成功しました(※今季は水揚げがないため販売予定なし)。限りある海洋資源の保全と、商品の高付加価値化による漁師さんへの還元につながる取り組みです。
○「KURAおさかなファーム」設立(2021年11月)
漁業の持続可能な発展と魚の安定供給を図るため、くら寿司の子会社として設立。主な事業内容は、国際的基準を満たしたオーガニック水産物として日本で初めて認証取得した「オーガニックはまち」の生産と卸売、そして、人手不足と労働環境改善を目指した、AIやIoTを活用した「スマート養殖」です。スマート養殖では、外部の生産者の方々へ養殖を委託し、同社が中長期契約で全量買い取りすることで、生産者の方々の収入安定化を図ります。これらを通じ、グループ内で生産から販売まで一気通貫の体制を構築し、安定した供給量確保とコスト管理を実現することで、お客様により高品質でリーズナブルなお寿司の提供を目指します。また、生産者の方々や漁協とも連携し、収益機会の提供と労働効率の改善を通じて、「若者の漁業就業」や「地方創生」への貢献にも取り組みます。