昭和大学の谷亀高広講師(富士山麓自然・生物研究所)、神戸大学の末次健司教授(大学院理学研究科)などの研究チームは、ラン科イチヨウラン属の分類学的再検討を行い、長らく1種と思われてきたイチヨウラン属は、実は2種から構成されることを明らかにしました。
ラン科イチヨウラン属は、イチヨウラン(Dactylostalix ringens)のみで構成される単型属とされていました。しかし研究結果から、かつてPergamena unifloraとして記載され、その後はイチヨウランと同種と扱われてきた個体群を、新たにDactylostalix uniflora(タカネイチヨウラン)として区別するのが妥当と判断しました。
ラン科は、全世界に25,000~30,000種から成る、被子植物の中でも最も大きなグループの一つとして知られ、日本にも約75属230種が自生しています。
本研究の対象であるラン科イチヨウラン属(Dactylostalix)は、Reichenbachによって1878年に立てられ、今日までに千島列島から、日本にかけて分布することが確認されています。本州中部では標高800m~2,400mの山地~亜高山帯の苔むした林床に自生し、山梨県下では5月~8月にかけて亜高山帯の森林を散策すると、本属植物の花に出会うことができます。
かつてFinet(1900)は、花がより小さく、がく片に黒紫色の斑点がない上、花弁の側裂片が小さいなど、花の形態的特徴がイチヨウラン(Dactylostalix ringens)(図1A)と異なる個体を見出しており、Pergamena uniflora(以下、P. uniflora)という名で記載していましたが、その後、P. unifloraはイチヨウランと同種として扱われるようになりました (Freudenstein 1994; Freudenstein et al. 2005)。
しかし、神戸大学、大阪府立大学、昭和大学、国立科学博物館、東北大学の研究者による共同研究の結果、P. unifloraをDactylostalix uniflora(タカネイチヨウラン:図1B)とし、分類上別種として再整理するのが妥当と判断しました。それは、上記にある形態的特徴に加え、ゲノムワイドマーカーを用い系統解析を行い、さらに一塩基多型(SNPs)に基づくNeighbor-Net networkにより解析した結果、2種が異なる進化の道筋をたどったことが明らかになったためです(図2A,B)。
また、イチヨウランは、富士山周辺では標高800m~2,200mの山地から亜高山帯に自生しますが、新たに別種として認識されたタカネイチヨウランは2,200m~2,400mの亜高山帯に自生。また、イチヨウランが5月上旬から開花するのに対し、タカネイチヨウランは7月以降に開花するなど、開花期も異なっています。富士山麓には2種とも自生しており、本研究のサンプルとして活用されています。
本研究により、長らく1種と思われてきたイチヨウラン属は、実は2種から構成されることが明らかになりました。
【論文情報】
・掲載誌:Phytotaxa
・論文名:Taxonomic revision of the formerly monotypic orchid genus Dactylostalix
・著者名: Kenji SUETSUGU, Shun K. HIROTA, Takahiro YAGAME, Tomohisa YUKAWA, Yoshihisa SUYAMA
・掲載日:2024年7月5日
・DOI :10.11646/phytotaxa.652.2.1
▼本件に関する問い合わせ先
昭和大学 富士山麓自然・生物研究所
講師 谷亀 高広(やがめ たかひろ)
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E-mail:yagame_showa@cas.showa-u.ac.jp
神戸大学 神戸大学大学院理学研究科
教授 末次 健司(すえつぐ けんじ)
TEL:078-803-5713
E-mail: kenji.suetsugu@gmail.com
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