世界的な資金フローの変化により、エマージング市場へのグレートローテーションが発生

シュローダー・インベストメント・マネジメント株式会社



本レポートでは、世界的な資産配分において米国資産からの構造的な反転が起こる可能性について取り上げます。米ドルの基軸通貨としての地位が当面大きく揺らぐことはないとみておりますが、世界的な資金フローのリバランスが、米ドルの循環的な下落を引き起こすと予想しています。過去数年間グローバル投資家が資産配分においてエマージング債券に対して非常に消極的だったことから、エマージング現地通貨建て債券はこのリバランスの恩恵を特に受ける好位置につけていると考えます。


米国資産離れの主な要因には、割高な株式バリュエーション、持続不可能な水準にある米国の双子の赤字、過大評価された米ドル、世界の投資家が米国への配分を過度に高めているタイミングでの米国の政策における不確実性等が挙げられます。米国の純国際投資ポジション(NIIP)は記録的なマイナス水準に達しており、米国資産は海外投資家のセンチメントの変化に対して脆弱になってきています。

トランプ米政権による孤立主義、制度の衰退、対立的な通商政策、制限的な移民政策も米国経済に逆風となっています。対照的に、複数のエマージング国は着実に経済基盤を再構築し、規律ある政策を実践し、対外収支を強化してきており、資産価格バリュエーションはここ数十年間で最も魅力的な水準となっています。世界の投資家が米国資産への集中的なエクスポージャーを見直す流れの中、分散効果および魅力的なリターン追求の双方が見込めるエマージング市場へと資金シフトが起きていくと考えられます。

このようなエマージング債券へのローテーションは、世界的な混乱が相次ぐなかでも当資産クラスが好調を保っていることが後押しするとみられます。世界の資金フローがファンダメンタルズと政策の優先順位の変化に合わせて調整するなかで、経済成長とオーソドックスな政策の両方を求める投資家は、エマージング市場をもはや警戒が必要な投資先とはみなさないようになるでしょう。エマージング市場への資金フローのリバランシングは、エマージング国内の機関投資家による資金還流と、国外投資家の資金再配分の両方によって推進されると予想しています。

米国の財政赤字が持続不可能であること、財政赤字が生み出す米ドルのマネー創出、そしてこのマネーが米国資産に循環し、その所有が徐々に外国人に移っていき、米国の純国際投資ポジションはGDPの90%弱という驚異的な水準に達したことが、トランプ米大統領の政策を受けて改めて注目を集めています。このサイクルが崩れた場合、米国資産および米ドルにとって大きな逆風となると考えられます。
 


「ハウスマネー」効果と純国際投資ポジション

米国金融資産に対する外国人のポジションは過度に高まっていると言えます。割高な株式バリュエーション、過大評価された米ドル、旺盛な海外からのポートフォリオ流入により、米国金融資産に対する外国人ポジションは記録的な水準に達しています。米国経済の世界GDPに占める割合は26%であるにもかかわらず、米国上場株式は最近の軟調さの後でも世界の時価総額の50%近くを占めています。そして、米国政府は放漫財政を賄うために記録的なペースで国債を発行し続け、世界の債券市場におけるシェアを拡大しています。米ドル高は、グローバルなポートフォリオにおける米ドル建て資産の相対的比率をさらに高めることにつながります。米ドルの実質実効為替レート(REER、ブロードベース)は、1985年の「プラザ合意」以来の高水準で推移しています。
 


米国の純国際投資ポジション(NIIP)は23.6兆米ドルと記録的なマイナス水準に到達しています。NIIPは、米国が所有する外国資産と外国が所有する米国資産の差で測定します。NIIPがマイナスということは、米国が保有する外国資産よりも外国が保有する米国資産の方が多いことを意味します。この不均衡をもたらす主な要因は3つあり、外国からの純金融フロー(つまり、外国人が米国の金融資産を購入、もしくはその逆)、相対的な資産バリュエーション(例えば、米株価が米国外株価よりも急速に上昇すると、NIIPに対して下方に作用します)、通貨バリュエーションです。旺盛な投資フロー、米国株式市場のアウトパフォーム、米ドル高のすべてがNIIPを現在の大幅なマイナス水準まで引き下げました。外国人投資家は2025年4月時点で、米国株式市場の20%、米国債市場の30%、米国社債の30%を保有しています。世界のGDPに占めるNIIPの割合は25%、米国のGDPに占める割合は88%に近づいています。同様の特徴を持つ主要国は他にありません。米国に次ぐ経済大国である中国、ドイツ、日本のNIIPはプラスとなっています。これは、これらの国が米国証券を大量に保有し、現在のトレンドの反対側に立っていることが背景にあります。

NIIPの大幅なマイナスは、米国資産が外国からの資金フローの変化に対して脆弱になることにつながります。NIIPが大幅なマイナスになると、外国投資家のセンチメントの変化、すなわち「ホットマネー」のフローに対する脆弱性が増します。また、こうした負債に対する利払いが増加すると、対外債務を持続不可能なレベルまで押し上げる負のフィードバックループが生じる可能性があります。米国は、米ドルが世界の基軸通貨として機能しているため、このような動きに他国よりも長く耐えてきたと言えます。金融資産を事実上「輸出」することで、米国は世界の経常黒字を吸収しています。このようなダイナミクスは重要である一方、不均衡が行き過ぎた可能性を示唆する証拠も増えています。最近のNIIP悪化の大部分は、金融フローではなく、過大評価された通貨と膨らんだ資産価格によってもたらされています。

NIIPの急激な悪化をもたらしたのは、米国のポートフォリオ投資と直接投資のポジションの膨張です。細かく見ると、米国の純株式ポジションは2020年に初めてマイナスに転じ、その後さらにマイナス圏に沈んでいます。外国直接投資(FDI)ポジションも2018年に同様の悪化が始まり、同様の経過を辿っています。注目すべき点は、こうした変化は外国からの力強い資金の純流入ではなく、相対的なバリュエーション効果と米ドル高によってもたらされたことです。過去10年間、米国の経常赤字の大部分は、株式ではなく債券の外国からの純購入によって賄われてきました。
 
 
 


米国株はグローバルで最も人気のある資産の一つではありますが、外国人ポジション増加の大部分はバリュエーションと為替効果によるものとなっています。米経済分析局(BEA)のデータによると、2008年以降外国人の米国株ポジションは15.7兆米ドル増加しましたが、そのうち純流入によるものは1.7兆米ドルのみとなっています。2019年以降でみると増加が9.8兆米ドルで、そのうちの純流入は1.1兆米ドルです。これは「ハウスマネー効果」とも言えます。外国人投資家は多くの場合、米国の株価高騰と米ドル高から受動的に利益を得ています。結果、世界の株式ポートフォリオに占める米国のシェアは、市場パフォーマンスと通貨高によって「無機的」に拡大しました。ギャンブラーがプレー中に獲得した賞金、つまりテーブルにまだ持ち出されていない、「ハウス」から引き出した儲けをハウスマネーと言います。このような儲けを得ると、彼らはより積極的にプレーし、さらなる利益を追い求め、心理的に賞金と元金を切り離す傾向があります。世界の投資家も同様の行動を繰り返してきたと言えます。つまり、市場パフォーマンスによる資産増加に満足し、米国資産にポートフォリオを集中させてきました。そして、2010年代以降米国株は世界市場を大きくアウトパフォームし、確かにこの戦略は功を奏してきました。しかしながら、この傾向は続くのでしょうか?それとも、投資家はそろそろ「テーブルのチップを清算する」時期に来ているのでしょうか?私たちは、その答えは「イエス」だと考えています。

リバランシングが起きた場合、その影響は大きく、米国外の地域への資金流入の増加につながる可能性があります。この変化はすでに始まっているとみられ、米国のリスク資産、国債、米ドルは同じ方向に動いています。米ドルは利回り格差が示唆する水準から大きく乖離しました。株式は4月上旬に大きな圧力を受けましたが、米国外からの資金調達ストレスの伝統的な指標である主要通貨のクロスカレンシー・ベーシス・スワップ・スプレッドは危険信号を点滅させませんでした。つまり、外国人は米ドルのポジションを減らすことを選択し、米ドル建て資産価格を通貨とともに押し下げました。これは、外国人が米ドルを求めて奔走し、ストレス時には米ドルが安全な逃避先として機能してきた過去20年間からのレジームシフトと言えます。投資家が米ドル建て資産からの配分変更を行う現在は、米ドル高ではなく米ドル安が進み、投資家心理が大きく変化して非米国資産に強気サイクルが訪れる可能性があります。
 

5月初めに台湾ドルが対米ドルで一時7%以上上昇したことは、こうした世界的な不均衡がもたらす潜在的な影響の顕著な例であったと考えます。対GDP比で2桁の経常黒字が続く台湾は、対GDP比でNIIPが大幅なプラスとなり、その総額は1兆7,400億米ドル、対GDP比で227%に達しています。台湾の外国資産総額は2兆9100億ドルで、GDPの381%に相当します。そのうち約4分の1は生命保険会社のバランスシートで保有されています。生命保険会社は世界の債券市場、特に米国の社債市場における主要プレーヤーとなっており、そのシェアは一桁台半ばと推定されています。輸出業者もまた、多額の米ドル預金を国内に蓄積しており、台湾の米ドル・エクスポージャーの拡大にさらに寄与しています。

長年にわたり、生命保険会社は状況に甘んじ、ヘッジコストの高止まりや、中央銀行の台湾ドル過小評価維持の方針を背景とした台湾ドルの下落継続を理由に、為替ヘッジ比率を引き下げました。このため、台湾ドル建ての負債に対して為替ヘッジのない米ドル建て資産を保有することになり、バランスシートにおける大幅な為替ミスマッチが生じていました。4月下旬、輸出業者のオンショア外貨預金にある米ドルの売却や株式の流入など、さまざまな理由で台湾ドルが急速に上昇し始め、これを受けて、流動性が相対的に低めな為替市場において保険会社が為替ヘッジを慌てて再構築したことから、台湾ドルの急激なスクイーズを引き起こしました。このため、台湾ドルは5日間で大幅上昇し、13シグマという過去最大の変動を記録しました。

今回の事象からいくつかの教訓が得られます。(i) 外国資産のストックが非常に大きく、かつ集中している場合、特に、本国還流や配分変更のフローが為替を大きく動かす可能性があります。(ii) ヘッジフローは非常に重要です。台湾の生命保険株式会社が外国資産を売却したというデータはほぼなく、為替フォワードポイントカーブの大きな動きが示すように、通貨スワップ市場を通じて米ドルのエクスポージャーをヘッジするために急速に動いたと推測されます。(iii) 同様のミスマッチは、貯蓄率が高い他の経済圏、特にアジアや欧州にも存在します。これまで米ドル・エクスポージャーに満足していた大規模で集中的な資産が、為替ヘッジや、よりリターンの高い資産への配分変更を追求する可能性があります。

為替ヘッジによるフローは短期的に重要であり、資産の配分変更よりもはるかに大きく、通貨市場に急激な影響を与える可能性があります。米ドル高と米国株高が連動したため、世界の投資家の多くは株式エクスポージャーを為替ヘッジをせずに保有しています。米国債券の投資家は概ね為替ヘッジを行う傾向にありますが、外国株式投資家は為替変動に大きくさらされています。主要カストディ銀行であるステート・ストリートによると、米国株の外国人保有株のうち為替ヘッジされているのは23%に過ぎず、過去10年で最低の水準であり、2020年の50%近くから大幅に減少しています。今後、為替ヘッジ比率は株式下落の結果により変化する比率を上回るペースで上昇する可能性があり、この潜在的なフローの規模は相当なものになる可能性があります。

これまでに実感した痛みに加え、台湾ドルの急騰のようなエピソードは、資産と負債の為替ミスマッチに対する投資家の懸念を高めるとみられます。公的および民間の保有資産における為替ヘッジ比率を一定と仮定した場合、外国人の米国株保有額は合計18兆米ドルであり、為替ヘッジ比率が1%上昇すると1,800億ドルの米ドル売りが発生します。為替ヘッジ比率を過去の水準に戻すために6%引き上げる場合、2024年の米国の経常赤字全体の1.1兆米ドルを上回る為替フローが発生することになります。つまり、外国人投資家が為替ヘッジ比率を調整するだけで、米国の経常赤字を賄うために必要な年間資金流入額をはるかに上回る為替フローを急速に作り出すことができるのです。

為替ヘッジによるフローは、投資家が米国資産から広範で戦略的な配分変更を行う前に顕在化する可能性があり、その重要性を強調し尽くすことは難しいと言えます。台湾の事象はこの点を前面に押し出しましたが、すでにグローバル市場全体でこの動きが確認されつつあります。クロスカレンシー・ベーシス・スワップは穏やかな水準にとどまり、通貨リスク・リバーサルについても方向が反転しています。


世界的な投資家が米国への資産配分を再考する理由

米国の金融市場は構造的・循環的な逆風に直面していると考えます。トランプ米政権の急激な政策実施により、これまで米国への資金流入の理由となってきた重要なファンダメンタルズ要因、すなわちグローバルな貿易秩序と米国内制度に対する混乱が生じました。厳格な移民政策による人口増加率の低下は今後数年間の経済成長を損なう可能性が高いでしょう。財政面では、米政権が関税に対して積極的な姿勢を示している一方、こうした措置による収入は将来の減税によって相殺される可能性が高く、財政赤字は過度な高水準が続き、連邦債務は持続不可能な軌道に向かっていくと見込まれます。対立的な貿易政策は、グローバリゼーションの時代に過去40年にわたって発展してきた複雑なサプライチェーンに依存する米国企業を混乱させる恐れがあります。こうした政策は、1980年代以降、民主・共和両党の前米政権が自由市場資本主義と経済成長を擁護してきた熱意とは対照的と言えます。トランプ政権の政策はこのようなレガシーからの明確な離脱を意味し、米国資産と米ドルにとって下落要因になると考えます。

米国が作り上げたグローバル貿易システムは、米国を豊かにするどころか、かえって弱体化させたというのが現政権の有力者の主張です。彼らの見解では、世界の基軸通貨としての米ドルの地位が、人為的に米ドル高が維持されることによって、米国の競争力を弱め、産業基盤を空洞化させています。これまでに発表された通商政策は、政権の本気度と変革の意図を示すものです。なお、政権はマイナスのNIIPを脆弱性の一つと捉えており、トランプ大統領は「解放の日」の演説でNIIPに言及しました。米政権は、米ドルの基軸通貨としての地位、世界貿易システム、防衛の傘に対する報酬を求めています。その中には、安全保障のための直接的な支払いや、貿易交渉の一環として準備資産を100年債に期間を伸ばす提案など、選択的デフォルトといった提案も含まれています。旧体制を維持するか、新体制に従わない相手国からの協力縮小を受け入れるかの選択を迫られた場合、米政権は後者を選ぶと思われます。

国内制度の信頼性が重要であることは、エマージング市場の投資家である筆者はよく理解しています。米国の制度は悪化の一途をたどっています。この4ヶ月の間に、政権は裁判所の命令を無視したほか、独立機関のトップを解任しました。政権幹部はトランプ大統領の3期目出馬の可能性をちらつかせ、大統領は連邦準備制度理事会(FRB)に利下げ圧力をかけ続けています。チェック・アンド・バランスが機能しなくなれば、独立機関やFRB等投資環境に影響がある機関や米国の制度的枠組みの信頼性が著しく損なわれる可能性があります。堅固な制度と効果的なチェック・アンド・バランスは、投資先としての米国の魅力の重要な柱です。制度と法の支配の全般的な弱体化は、外国人投資家の信頼を徐々に低下させるとみられます。FRB議長の解任を試みるような、より唐突な行動は、可能性は低いとはいえ、根本を揺るがすような変化として捉えられ、この傾向を大きく加速させる可能性があります。

対立的な貿易政策とそれに起因する不確実性は、米国のビジネスを混乱させ、今後も混乱させ続けると捉えられ、投資におけるショックを引き起こしました。「解放の日」に発表された相互関税は一時的に停止されていますが、被害の多くはすでに発生しています。分野別の関税は実施されており、中国との対立は大幅に緩和されたものの、中国からの輸入品に対する平均関税率は今年30%上昇しています。政策の不確実性は依然として大きい状況です。企業はこれを受けて設備投資を遅らせたり、グローバル・サプライ・チェーンの見直しを行っているとみられます。最終的な政策がどうなるかにかかわらず、米国の消費者は価格上昇に直面する可能性が高く、こうしたコストを吸収しようとする企業は利益率が圧迫されることになります。政権は交渉に熱心ではありますが、交渉が実を結ばず関税が高止まりするリスクが残っています。この不確実性が、長期的な投資計画を行う企業に米国市場の競争力と信頼性の再評価を促しています。トランプ政権の通商戦略は不確実性を増幅させ、投資先や貿易相手国としての米国の魅力を低下させ、企業と金融市場の双方に悪影響を及ぼしています。
 
 

 

米政権の移民政策はトレンド成長を低下させると考えます。新型コロナ危機後の長期平均を上回る米国への移民の純増加は、政治的には人気がないかもしれませんが、トレンド成長を上回る成長率の主な原動力となりました。移民は、合法・非合法を合わせて、2020年以降の労働力増加の52%を占め、人口動態の低迷・悪化の影響を相殺し、米国とその他地域との主な差別化要因となっています。移民は2021年以降の労働力不足を大幅に緩和し、米国の労働生産性を向上させました。不法移民は生産性の低い職種に就く傾向があり、米国民をバリューチェーンの上位に押し上げることが背景にあります。トランプ大統領就任以来、不法移民はほぼ停止状態にまで減速しており、3月の南西部国境での入国者数は、2022年から2024年の月次平均18万8,000人に対し、月間で1万1,000人と過去最低を記録し、94%の減少となりました。労働力人口の減少とそれに伴う労働生産性の低下は、今後の成長に悪影響を及ぼすと考えられます。
 

財政赤字については、関税と歳出削減による収入が減税によって相殺される可能性が高いため、高水準が続くと予想されます。トランプ政権は、バイデン政権からすでに持続不可能な財政状況を引き継ぎました。政府効率省を通じて対応する象徴的な取り組みが行われているものの、これまでのところ成果は期待を下回っています。年初来で、非金利支出は名目GDP成長率を上回るペースで伸びています。関税による歳入が見込まれる一方で、減税や政権の移民・通商政策に起因する経済成長の鈍化によって部分的に相殺される可能性が高いと考えられます。2017年減税・雇用法(Tax Cuts and Jobs Act)の完全延長を前提とする調整法案は、消費者の信頼感を引き上げるには至っていません。議会はメディケア、SNAP(補足栄養支援プログラム)、インフレ削減法などのプログラムにおける支出を削減する意向ですが、債務安定化水準に達するために必要な2%以上の財政削減には及ばず、財政赤字は現在の水準で推移または拡大すると予想されます。債務全体の方向性は依然として持続不可能となっています。このため、将来の財政赤字を賄うために米国債の増発や構造的なインフレ率の上昇が必要となり、国のバランスシートのさらなる悪化につながります。このリスクは十分に指摘されていますが、外国人投資家からの資金引き揚げが起これば、状況は著しく悪化すると見込まれます。なお、トランプ大統領の税制法案はすでに市場の主な焦点となっており、経済成長見通しが悪化し、長期インフレ期待が比較的高めで推移するなかで、米国債イールドカーブの長期ゾーンが上昇しています。

なお、筆者が所属するエマージング債券運用チームでは、世界の基軸通貨としての米ドルの地位を疑問視する人々に対して同意はしていません。しかしながら、西側諸国がロシアの中央銀行準備の凍結を決定したことは、公的な米ドル資産に対する需要にとって、大幅な変化をもたらし得る難しい瞬間だったとみています。ロシアの外貨準備凍結は、米国の敵対国、とりわけ中国に対して、自国の外貨準備が常に安全とは限らないという警鐘を鳴らすものだったと言えます。中国等一部の国はすでに公的保有資産の分散を始めていましたが、今回の措置によって、特に戦略的ライバル国が今後分散を加速させる可能性が高いとみられます。中央銀行による需要の高まりが金市場に与える影響はすでに大きくなっています。米ドルの基軸通貨の地位を脅かすほどの大きな変化にはまだ至っていないものの、中央銀行による準備資産の分散の継続は、今後の米ドルおよび米金利の双方に重大な影響を与える可能性があるとみています。米政権が姿勢を大幅に後退させ、大幅な譲歩を交渉したとしても、すでにダメージは生じています。譲歩が一時的な猶予にはなるかもしれませんが、より深刻な問題は、世界的な余剰資本の米国資産への循環がすでに破たんし始めていることです。中国やブラジル、もしくは原油輸出国が、かつては考えられなかったような質問を今はしなければならなくなりました。それは、米国は依然として信頼がおける資産の管理者なのか?自分たちの資産を米国の金融システムに置いておくことは安全なのか?という質問です。このような疑問を持つこと自体が転換点を意味し、その答えはすでに進み始めた資産の配分変更を加速させるかもしれません。

エマージング債券運用チームのカントリー・リスク・モデルでは、主要な脆弱性の判断において、割高な為替レート(非競争性)と外国資本への過度の依存を警告サインとして注視しています。このモデルは、危機に陥るリスクのある国を特定するための7つの主要指標について90カ国をスコアリングするものですが、米国は危険水域までは達していないものの、相対的に大幅な悪化を示しています。この悪化の主因は、純国際投資ポジションに反映されるように短期資本への依存度が高いことと、為替レートが極端に過大評価されていることとなっています。米国の他の指標は健全性を保っているものの、全体的な悪化により、2008年の金融危機前以来初めてランキングの下位半分に押し下げられました。

これまでいわゆる「米国例外主義」の主要な要因であったものが、今後鈍化するとみています。対立的な通商政策、移民受け入れ減少、米ドル安志向、持続不可能な財政赤字の継続、国内制度の悪化等により、米国外の投資家は株式、債券ともに米国資産に対するオーバーウェイト(他国、他地域を上回る配分)を再考することになるでしょう。技術的優位性、エネルギー自給率、基軸通貨としての地位、市場規模等、米国はまだ多くの利点を有しているものの、今回取り上げた変化はレジーム・シフトを意味すると考えます。
 

エマージング資産に恩恵

エマージング資産、特に現地通貨建ての資産は、米国離れから大きな恩恵を受ける好位置にあるとみています。これらの市場は力強い経済ファンダメンタルズを誇り、外国人投資家のポジションは軽く、先進国市場と比較して魅力的なバリュエーションを有しています。米国資本市場の規模が非常に大きいことを考慮すると、資産配分が少し変わるだけでも、エマージング市場の資産は大幅に再評価される可能性があります。数字で見てみますと、主要エマージング債券指数の時価総額は66.7億米ドルで、これは米国のポートフォリオ資産における外国人保有資産のわずか20%相当となります。米国から小幅な資金シフトが起こるだけでも、エマージング債券市場にとって十分に意味のあるフローが生み出されることになります。


レポートの続きは添付のPDFをご覧ください。


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