PwC Japanグループ、「企業の地政学リスク対応実態調査2025」結果速報

PwC Japanグループ

2025年7月1日
PwC Japanグループ

PwC Japanグループ、
「企業の地政学リスク対応実態調査2025」結果速報

地政学リスクの高まりを感じる企業割合が過去最高の82%に、
最も懸念されるのは米国トランプ関税を含む世界各国の保護主義的政策

【調査結果の概要】
■ビジネスに関しての地政学リスクの高まりを感じる企業割合が82%となり過去最高を記録

■最も懸念される地政学リスクは米国トランプ関税を含む「世界各国の保護主義的政策」
 ⮚「米中対立」「第2次トランプ政権の政権運営」「各国の産業政策強化」が2~4位を占める
 ⮚昨年まで3年連続首位だった「サイバーアタック/サイバーテロ」は5位に後退
 ⮚「サステナビリティ・気候変動問題」(昨年4位)と「エネルギー供給構造の変化に伴う需給の不安定性」(同2位)も6・7位に順位を下げる

■8割以上の企業が、地政学リスクマネジメントが経営戦略上「重要」と認識し、7割の企業が地政学リスクの情報収集やモニタリング体制を確保
 ⮚「専任ではないが、社内に対応チーム(部署)がある」(36%)
 ⮚「社内に専任チーム(部署)を設けて対応している」(18%)
 ⮚「社外の専門家に依頼している」(17%) など

■米国トランプ政権の政策のうち自社影響が懸念される政策として、関税引上げなどの保護主義的政策が47%となりトップ
 ⮚「関税引上げなどの保護主義的政策」(47%)
 ⮚「米中対立の激化」(38%)
 ⮚「日米関係の悪化(貿易摩擦、日本の防衛費増額要求など)」(25%)

■42%が中国経済減速の影響を受け、26%が中国国外へ生産や調達プロセスの移管を検討。移管先としては、日本の首位が揺るがない一方、米国トランプ政権による相互関税率が想定以上の水準となった東南アジアを抜いてインドが2位に躍進

PwC Japanグループ(グループ代表: 久保田 正崇)は、地政学リスク・経済安全保障環境に対する日本企業の意識、対応実態を把握するため「企業の地政学リスク対応実態調査2025」を実施しました。同調査は2019年、2021年、2022年、2023年、2024年に続き6回目です。米国トランプ政権の政策に世界が翻弄され、中東情勢やウクライナ紛争も収束の兆しが見えない中、日本企業が地政学リスクをどのように分析・把握し、対応しようとしているのか、調査を通じて課題と解決のヒントを探ります。

■ビジネスに関しての地政学リスクの高まりを感じる企業割合が82%となり過去最高を記録
過去5年間でビジネスに関しての地政学リスクレベルは高まっているかとの質問に対し、「著しく高まっている」「やや高まっている」と答えた企業の割合は82%に達し、過去最高を記録しました(図表1)。

図表1:地政学リスクの高まりを感じる企業は、国内のみ・海外展開ありいずれも過去最高を記録


■最も懸念される地政学リスクは米国トランプ関税を含む「世界各国の保護主義的政策」
最も懸念する地政学リスクでは「保護主義的政策(米国の各種関税措置、EUの中国EVへの追加関税、資源国による資源輸出制限など)」が43%を占め首位となりました。「米中対立(貿易摩擦、安保上の対立など)」は39%で2位、「第2次トランプ政権の政権運営」(28%)が3位となり、上位3つがいずれも米国に関係するリスクであることから、トランプ政権の政策を中心とする変化が企業の事業環境をより不透明化させている実態が浮き彫りになりました(図表2)。

図表2:最も懸念される地政学リスクは米国トランプ関税を含む「世界各国の保護主義的政策」
 

一方、最も懸念する地政学リスクとして、昨年まで3年連続首位だった「サイバーアタック/サイバーテロ」は5位に後退。「エネルギー供給構造の変化に伴う需給の不安定性」(昨年2位)、「サステナビリティ・気候変動問題」(同4位)も、6・7位に順位を下げました。

■8割以上の企業が、地政学リスクマネジメントが経営戦略上「重要」と認識
自社の経営戦略にとって、地政学リスクマネジメントが「とても重要」または「やや重要」と答えた企業の割合は84%でした。地政学リスクは企業経営に強い影響を与える重要な経営課題だ、との認識が依然として高いことを示唆しています(図表3)。

図表3:地政学リスクマネジメントの重要性への認識は、84%と高水準を維持
 

■7割の企業が地政学リスクの情報収集やモニタリング体制を確保。具体的な地政学リスク対応として「専門人材の社内育成」など社内リソースの活用・育成に進展
地政学リスクの情報収集やモニタリング体制については、「対応をとっていない」と回答した企業は昨年比で3ポイント減となる29%となる一方、「専任ではないが、社内に対応チーム(部署)がある」が36%(前年比4ポイント増)、「社内に専任チーム(部署)を設けて対応している」が18%(前年比同率)、「社外の専門家に依頼している」が17%(同2ポイント増)、「専任の役員がいる」が6%(同2ポイント増)などといった体制を確保しており、昨年より多くの企業が地政学リスク対応の体制構築を実施していることがわかりました(図表4)。また、具体的な地政学リスク対応の体制構築として、情報共有やグループ国内外での取り組みが続くなか、特に「専門人材の社内育成」(23%、同4ポイント増)に進展が見られました(図表5)。

図表4:昨年より多くの企業が地政学リスク対応の体制構築を実施している


図表5:具体的な地政学リスク対応として、情報共有やグループ国内外での取り組みが続くなか、特に「専門人材の社内育成」に進展が見られた
 

■米国トランプ政権の関税引上げなどの保護主義的政策について半数近くの企業が自社への影響を懸念
2025年1月に発足した米国の第2次トランプ政権の政策のうち自社への影響が想定される政策として、47%の企業が「関税引上げなどの保護主義的政策」を挙げ、最多となりました(図表6)。業種別の回答詳細を見ると、鉄鋼・非鉄金属・金属製品(67%)、情報通信機械・電子部品(62%)、電気機械(60%)、石油・プラスチック・ゴム(60%)といった製造業において関税引上げの影響を懸念する企業の割合が高く、関税コストの負担やサプライチェーンの混乱といった形で影響が既に顕在化していることが分かります(図表7)。そのほか「米中対立の激化」(38%)、「日米関係の悪化(貿易摩擦、日本の防衛費増額要求など)」(25%)、「インフレ加速とFRB利下げ時期見直し」(18%)、「中東情勢の悪化(イスラエル・ハマス紛争、米国・イラン対立など)」(15%)、「欧州安全保障の不安定化(ウクライナ支援停止、NATO弱体化など)」(11%)を懸念する企業が多いことが分かりました(図表6)。

図表6:第2次トランプ政権の政策のうち自社への影響が想定される政策として、約半数の企業が「関税引上げなどの保護主義的政策」を挙げて最多に
 

図表7: 鉄鋼・非鉄金属・金属製品、情報通信機械・電子部品などの製造業において、「関税引上げなどの保護主義的政策」を懸念する企業の割合が多い
 

■42%が中国経済減速の影響を受け、26%が中国国外へ生産や調達プロセスの移管を検討。中国事業の継続と、縮小・撤退によるリスク抑制という企業対応の二分化が生じている可能性
自社に影響を与えている中国関連の地政学リスクを尋ねたところ、「全般的な中国経済の減速」(42%)、「中国国内の治安維持強化(反スパイ法など)」(25%)、「米国による経済制裁(エンティティリストなど)による中国企業との取引見直し・中止の必要性」(25%)、「中国からの輸出品にかかる関税コスト増」(22%)が上位に入りました(図表8)。こうした中国関連のリスクがあるなか、26%の企業が生産や調達プロセスの中国国外への移管を検討していることが分かりました(図表9)。

図表8:42%が中国経済減速の影響を受けたと回答。反スパイ法などの国内治安維持強化や、米国による対中経済制裁の影響を受けたとの回答も上位に
 

■中国からの生産や調達プロセスの移管先として日本の首位が揺るがない一方、米国トランプ政権による相互関税率が想定以上の水準となった東南アジアを抜いてインドが2位に躍進
中国からの生産や調達プロセスの移管先として「日本(53%、前年比9ポイント増)」が昨年に引き続いて首位となり、世界情勢が混沌とするなか国内回帰を選好する企業が多いことが分かります。また、昨年まで日本に次いで上位を占めていた東南アジア諸国を抜いて、「インド(28%、同11ポイント増)」が昨年比で急上昇し、2位となりました。ASEAN諸国に対する米国トランプ政権による相互関税率が想定以上の水準となったほか、インドと米国の貿易交渉妥結が近いと見られることで、インドを移管先の候補として検討する企業が増加したものと考えられます。そのほか「ベトナム(27%)」、「タイ(22%)」が多く選ばれています(図表9)。

図表9:移管先としては、日本の首位が揺るがない一方、トランプ関税が想定以上の水準となった東南アジアを抜いてインドが2位に躍進
 

こうした厳しい事業環境のなかでも、中国事業の縮小・撤退を検討する企業の割合は、前年から変動が小さい一方で、「これまで通り中国事業を継続する」と回答した企業の割合が昨年よりも増加しました(図表10)。米国トランプ政権による関税政策や、それに対する中国の対応が少しずつ明らかになるなか、事業リスクが高い中でも中国事業を継続する企業と、縮小・撤退によってリスクを抑制するという企業対応の二分化が生じている可能性があります。

図表10:中国事業の継続と、縮小・撤退によるリスク抑制という企業対応の二分化が生じている
 

本調査ではこの他、米トランプ政権による相互関税や国別関税、今後発出が懸念される半導体関税、医薬品関税に関する企業影響や企業対応の実態に焦点を当てた解説レポートを今夏に発刊する予定です。

【企業の地政学リスク対応実態調査2025】
海外で事業を展開する売上げ規模年商100億円以上の企業に勤務する管理職592名を対象に、2025年6月にオンラインで調査を実施(一部の設問は国内のみで事業を展開する企業にも調査)。調査対象とした企業は製造業、サービス業など産業全般をカバーした。同様の調査は2019年3月、2021年8月、2022年8月、2023年8月、2024年7月に実施しており、今回が6回目である。
以上

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