【麻布大学】トドはヒトの動作を「模倣」する能力をもつ

麻布大学

麻布大学獣医学部・動物応用科学科・伴侶動物学研究室の今野晃嗣講師、城崎マリンワールド(兵庫県豊岡市)の佐々木雅大氏、木下日波乃氏による共同研究グループは、「ハマ」と名づけられた飼育下のトドがヒトの動作を「模倣」する能力をもつことを世界で初めて明らかにしました。 人間の子どもは誰かの真似をしながら多くのことを学びますが、ヒト以外の動物は他個体の動作そのものを模倣することが得意ではありません。しかし最近、Do As I Do(まねして)トレーニングという教育手法が開発され、この手法を用いると、イヌやネコといった伴侶動物やシャチやベルーガなどの飼育下の鯨類でも、一部の個体では他個体の動作を「模倣」できるようになることがわかりました。 そこで共同研究グループは、城崎マリンワールドで暮らしている「ハマ」という名のトド(メス・現在14歳)を対象にDo as I doトレーニングを行い、トドが飼育員の人物の動作と同じような動作を「模倣」できるかどうかを調べました。その結果、ハマはDo as I doトレーニングのルールをすぐに学習し、Do as I doでトレーニングしたことのない動作をヒトが行ったときでも、自分がこれまでに学習した動作のなかからヒトの動作と似たような動作を選んで「模倣」することができました。さらに驚くべきことに、過去に一度も教えていない動作をヒトがやって見せたところ、ハマはそのうち2種類のまったく新しい動作についても「模倣」することができました。   本研究は、鰭脚類がヒトの動作を「模倣」する能力をもつことを示した世界で初めての報告です。ハマが示したような「模倣」能力が他のトドの個体でも再現できるかはまだわかりませんが、本研究の結果から、これまで考えられていた以上にトドが高い社会的学習能力を有していることだけでなく、異種動物であるヒトから多くの情報を学んでいることが明らかになりました。 本研究の成果は、ドイツと英国に本部を置くSpringer Nature社の国際学術誌「Animal Cognition」に2025年6月20日付で掲載されました。 <研究のポイント(本研究で新たに分かったこと)> ・飼育下のトドのハマにDo as I doトレーニングを実施したところ、ヒトの動作と似たような動作を選んで「模倣」できることが明らかになりました。 ・さらに、過去に一度も教えていない動作をヒトが提示したときにも、ハマはそのうち2種類の動作を「模倣」できることが明らかになりました。 ・飼育員が無意識の手がかり(非意図的な情報伝達)を与えている可能性を排除するための複数の統制実験を行ったところ、ハマの「模倣」行動は飼育員からの非意図的な情報伝達によるものではないことが実証されました。 <背景と目的> ž 動物が他個体を観察して様々な事象を学ぶことを社会的学習といい、集団で暮らす動物にとっては生存と繁殖のために欠かせない能力です。 ž 社会学習のなかでも、同種ではなく異種のヒトの動作そのものを模倣する動作模倣能力はヒト以外の動物では難しいことが示唆されており、これまでに大型類人猿(チンパンジー)と伴侶動物(イヌとネコ)と一部の鯨類(シャチとベルーガ)でしか報告されていませんでした。 ž 本研究では、城崎マリンワールドで飼育されているトドのハマという個体を対象にDo as I doトレーニングとよばれる教育手法を実施し、ヒトの動作に対してトドが類似した行動を再現できるかどうかを調査しました。 ž ハマはこれまでに50以上の動作を覚えて飼育員の指示で実行できることから、抽象的な概念学習能力をもつことが示唆されてきました。しかし、ハマがどの程度の社会的学習能力をもっているのかという点は未解明でした。 <結果と考察> ・ 研究1では、ハマに同時的Do as I do模倣をトレーニングしました。その結果、ハマはDo as I doトレーニング済の3つの行動だけでなく、Do as I doでトレーニングされていない7つの動作のうち6つの動作に対しても模倣的な行動選択を行いました。さらにハマは、過去に学習したことのない2種類の完全新規動作も模倣することができました。ただし、物体操作を含むその他の完全新規動作の再現はできませんでした。 ・ 研究2では、ハマに非同時的Do as I do模倣をトレーニングし、ヒトの動作に続けて「Go」という音声指示を与えた後に模倣するように教育しました。ハマは非同時的なDo as I doトレーニングにも成功しました。重要な点として、飼育員の動作の後にその人物とハマを視覚的に見えない状況にしても、ハマの模倣成績は良好でした。この結果は、ハマの動作模倣の能力が実験者による非意図的な手がかりによるもの(クレバー・ハンス効果)ではないことを示しています。 ・ 以上の結果は、ハマがDo as I doトレーニングを経験することにより、ヒトが行う動作と類似した自分の動作を選ぶという模倣ルールを学んだことを示しています。本研究の成果は、飼育下の鰭脚類がヒトの動作を模倣する能力を有することを実験的に示した世界初の報告です。 <掲載論文> 掲載誌:Animal Cognition 論文リンク: https://doi.org/10.1007/s10071-025-01971-0 原題:Do as I do imitation in a steller sea lion Eumetopias jubatus. 和訳:トドにおけるDo As I Do(まねして)模倣 著者:佐々木雅大、木下日波乃、今野晃嗣 <関連情報> 城崎マリンワールドによるプレスリリース VIDEO1 : Do as I doトレーニングを実施した3つの動作に対する「模倣」 https://youtu.be/HvweIaEEgTA VIDEO2: Do as I doトレーニング未実施の7つの動作に対する「模倣」 https://youtu.be/U7P-CdJAzss VIDEO 3: 過去にトレーニング経験のない新しい動作に対しても「模倣」できる(飼育員が左腕をあげるとハマも前肢をあげる) https://youtu.be/kfXJolsEe94 VIDEO 4: 非同時的Do as I do模倣:「Go」という音声指示の後に「模倣」できる https://youtu.be/ID7NcTWeXGc VIDEO 6: 飼育員とハマを視覚的に見えない状況にしても「模倣」できる https://youtu.be/VumJnFzM9-w VIDEO 7: ハマのDo as I do「模倣」の典型例 https://youtu.be/N31tRajy1w4 <参考情報> ●麻布大学について 麻布大学は、2025年に学園創立135周年を迎えます。動物学分野の研究に重点を置く私立大学として、トップクラスの実績を基盤に新たな人材育成に積極的に取り組んでおり、獣医学部(獣医学科、獣医保健看護学科、動物応用科学科)と生命・環境科学部(臨床検査技術学科、食品生命科学科、環境科学科)の2学部6学科と大学院(獣医学研究科、環境保健学研究科)の教育体制の下、ヒトと動物のよりよき関係をつなぐ専門性の高い人材育成を進めていきます。 麻布大学の概要: https://www.azabu-u.ac.jp/about/ ▼本件に関する問い合わせ先 事務局 入試広報・渉外課 山口 住所:神奈川県相模原市中央区淵野辺1-17-71 FAX:042-754-7661 メール:koho@azabu-u.ac.jp 【リリース発信元】 大学プレスセンター https://www.u-presscenter.jp/

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