窓の向こうに広がる「自分だけの森」〜自然と溶け合う暮らしが、心を健やかにする〜
カーテンのない暮らしへの想い
「大きな窓のある家に住みたい。でも、一日中カーテンを閉めていては意味がない」
そう語るのは、岐阜県で親子2代にわたり歯科医院を営むT様。故郷に戻り、自宅を新築するにあたり、大切にしたテーマの1つは「開け放てる窓」のある暮らしでした。誰の目も気にせず、いつでもカーテンを開けていられる圧倒的な開放感。それでいて、プライバシーはきちんと守られ、家族がのびのびと過ごせる広々としたリビング。相反しがちな条件をどちらも諦めずに叶えたい——その想いが、住まいづくりの出発点でした。
学生時代から建築好きで、雑誌を読み、気になる建築物があれば実際に見に行く。T様にとって家づくりは、妥協できない人生の大きなテーマです。当初は設計事務所への依頼も検討していました。
「正直、ハウスメーカーは“既製品の家”しかできないと思っていました。」
その考えを覆したのが、積水ハウスの設計担当、加藤との出会いです。打ち合わせは、建築の話だけにとどまらず、アートや趣味、価値観にまで広がり、会話の端々からプロとしての確かさと自分に通じる感性が感じられたといいます。さらに過去の実例も確認し、「この人なら任せられる」と確信に変わっていきました。
「確かな品質をベースにしながら、設計の自由度がどこまで広がるのか、見てみたいと思ったんです。」
積水ハウスの高い性能と信頼性を土台に、設計者が自由に発想すれば、安心でありながら“自由な発想の家”ができるのではないか。そんな期待を胸に、家づくりが始まりました。
建築と自然が溶け合う「コートハウス」
大きな窓にカーテンのない開放感のある暮らし。この要望に応え、加藤が提案したのは、建築と自然を一体化させるコートハウス。住まいを3つの中庭で挟み込み、その周囲をぐるりと壁で囲う構想です。
メインとなる1階の子ども部屋と2階のLDKは、南北の中庭で挟まれ、庭に面した部分はほぼ全面がフィックス窓です。窓を開ければ、そこに自然が広がっているのではなく、自然そのものの中で生活している——まるで森の中に居るかのような感覚を与えてくれます。
中庭を囲う外壁は、完全に閉じてしまうのではなく、太い木製ルーバーを設置。視線が抜ける"隙間"を設けることで、外からは中が見えず、内からは外の気配を感じられる仕掛けです。プライバシーを確保しながらも、お庭にある緑、街並の緑地帯、近くの公園の緑まで視界に取り込めます。
幾重ものレイヤーが織りなす、トータルなリビング空間
窓ガラスは、天井から床までのフィックス窓。サッシ部分を壁に埋め込み縁が見えないように工夫されているため、室内と中庭がより一体化した印象になっています。床材には幅広のクリを使い、耐久性がありながら中庭の緑と調和するナチュラルな風合いです。西向きのソファに座ると、窓ガラスの向こうに中庭の緑、ルーバー越しの公園の緑——いくつものレイヤーを通り抜けて、視線は遠くまで伸びていきます。
「中庭を含めて、トータルでリビングなんです。」と、加藤とT様は口を揃えます。
夜になると、空間はさらに幻想的な表情を見せます。天井のダウンライトはダイニングテーブルの上だけ。中庭の照明だけを点け、その光を“間接照明”として室内に取り込む設えです。室内の光源をあえて絞ることで窓の反射が消え、緑がまるでリビングに置いた観葉植物のように身近に感じられます。
科学が示す「窓」と「緑」の効能
T様のお住まいのように「大きな窓」と「身近な緑」のある暮らしは、実際に心身へ良い影響を与える傾向があることが、積水ハウスの調査で示されています。
① 「大きな窓」ほど、心が健やかに
リビングの床面積に対する「窓の大きさ」と、WHO(世界保健機関)が定める心の健康指標「WHO-5」との関係を分析したところ、窓が大きいほど住居者の心の健康状態が良好である傾向が確認されました。大きな窓は、単に室内を明るくするだけでなく、開放感や外の景色をもたらし、気持ちを前向きにする可能性があります。さらに解析の結果、その効果の要因として窓から入る光の量だけでは説明しきれず、「心理的な広さ」や「自然とのつながり」といった、光以外の要素が複合的に作用し、心の健康状態に影響を与えている可能性も示されました。
WHO-5 精神的健康スコア:5問×0~5の6段階評価で25点満点
参考)山中みなみ 他,開口面積と精神的健康の関連性:日本の住宅の横断研究,2025年度室内環境学会学術大会
② 「緑」と「木の温もり」が、愛着と心のゆとりを育む
また、窓から見える景色のうち、「緑(木・植物)が見える景色」だけが、本人の感じる健康度を高めることが分かりました。加えて、室内で「木の香り」を感じている人ほど、住まいへの愛着が高いというデータも。視覚・触覚・嗅覚を通じて自然を身近に感じる体験が、心身のバランスを整え、心のゆとりを育んでくれる。
主観的健康観:0(悪い)~10(良い)の10点評価
参考)中原みまえ 他,室内環境要素と主観的健康観の関連に関する横断研究,2024年度日本建築学会大会
触れる、香る、眺める——五感で「森」で感じる
T様のお住まいでは、こうした「自然を感じる暮らし」が随所で実現されています。
中庭には山から切り出した自然の樹木を据え、日本の原風景を再現しました。植栽がクレーンで中庭に搬入された瞬間を、T様は今も興奮気味に振り返ります。
「緑がスーッと入ってきた瞬間、鳥肌が立ちました。白い壁に緑が映えて、建物と自然が一体化するとはこういうことかと。」
植栽は低木と高木が絶妙なバランスで配され、立つ場所によって違う表情を見せます。
1階の子ども部屋からは、低木が目の前に広がり、高木を見上げる「森の中の目線」。2階のリビングからは、高木の梢を見下ろす「鳥の目線」。実際、この小さな森には鳥が頻繁に遊びに来るといいます。雨の日には、濡れた葉の上を這うカタツムリの姿も見られ、ガラス一枚隔てたすぐそこで、小さな命の営みを観察できる——まさに森の中で暮らしているような感覚です。春には花、夏には緑、秋には紅葉、冬には雪景色。四季の移ろいがガラス一枚隔てた目の前で展開されます。
室内には自然素材がふんだんに使われています。
「塗壁や木の床が、呼吸してくれている感じがするんです。家は常に自分の体が触れているものですから、自然に近いものであってほしいと考えていました。この家は触れたときの感覚が温かく、空気も本当に気持ちがいいです。」
森の中へ誘う、計算された動線
この家の魅力は、リビングだけにとどまりません。家のどこを歩いていても、緑と出会えるよう設計されています。
玄関へのアプローチは建物の南東から始まります。薄暗い細長い通路を進んでいくと、突き当たりに中庭の緑が飛び込んでくるドラマチックな演出。アプローチの足元に使われている御影石は、少し空中に浮かせたようなデザインで、その”隙間”を潜り込むように植栽が配されています。この細やかなディテールこそ、T様が感動したポイントでした。
廊下を進むと、さらなる驚きが。中庭に敷かれた玉砂利が、ガラス窓を超えて室内の床にも連続して敷き詰められているのです。外と内の境界が溶け合い、いつの間にか森の中へと足を踏み入れているような不思議な感覚に包まれます。
2階へ上がってもその体験は続きます。階段を上りきり、リビングに向かって回り込むと、今度は北側の緑が目に飛び込んできます。日常の何気ない移動、その動線の中に、緑との「出会い」が散りばめられているのです。
緑と溶け合う、これからの住まい
大きな窓、身近な緑、呼吸する素材。それは単なるデザインの話ではありません。住む人の心を健やかにし、住まいへの愛着を育む要素となっています。建築と自然が溶け合い、木々の息吹を間近に感じる日々——そんな緑と共にある暮らしが、ポジティブな変化を生み出してくれるかもしれません。
