小型軽量かつ汎用性の高いモーションキャプチャシステムを開発・医療分野などでの活用に向け実証実験を開始 -- 東京工科大学コンピュータサイエンス学部 東京工科大学 2016年12月09日 08:05 東京工科大学(東京都八王子市片倉町、学長:軽部征夫)コンピュータサイエンス学部の松下宗一郎教授らの研究チームは、腕時計サイズの小型軽量で日常生活での利用も可能な、高精度のモーションキャプチャシステムの開発に成功。医療分野などでの活用に向け、同大医療保健学部などと共同で実証実験を開始した。 本研究成果は、11月26日・27日に開催された第25回日本コンピュータ外科学会大会において発表された。 【背景と目的】 近年、日常生活で発生する情報を大規模かつ効果的に収集・分析する「ビッグデータ解析」の学術研究が盛んに行われている。一方で、身体の運動特徴といったデジタルデータによる効果的な記録手法が確立されていない分野においては、医師など専門家による所見をベースに一旦原語化した上で解析するといった手法が一般的であり、観察者による所見の違いや主観に依存する可能性があった。このため、外科手術における操作技量の評価や、日常生活の中で歩行の様子をモニタリングするといった予防医療の分野では、IoTの活用は十分に進んでいなかった。 人の動きをコンピュータに入力する「モーションキャプチャ」の技術は、スポーツの身体計測等で複数のカメラを用いた光学式システムや、市販のコンピュータゲーム等で赤外線カメラや重心揺動計を用いたシステムなどが用いられてきた。しかしながら、設備が大がかりになることや、導入コスト、使い勝手、計測精度などの面から、医療現場や日常生活での利用には適していなかった。本研究は、利用者が手に持ったり腕時計のように装着できる小型軽量で、いつでもどこでも利用できる低コストのシステムの開発を目指すものである。 【成果】 現在実用化されているモーションセンサによる加速度と角速度の計測をベースとしたモーションキャプチャシステムは、導入コストが高額になることや、センサー出力特性が時間や温度によって変化するため専門業者によるメンテナンスが必要になるなど、手軽に利用できるものではなかった。本研究では、角速度センサーの姿勢角を9個のベクトルで表すことで、基準位置からの姿勢角変動を非常に少ない計算量で求める方法を開発した。これにより、消費電力の少ない超小型マイクロコンピュータでの処理が可能となったほか、センサー出力特性の時間・温度変動についても、アプリケーションへの影響を最小限度に抑えている。加えて、地磁気センサーや角速度センサー等による姿勢補正を必ずしも必要としないシステムであることから、小型の充電池で長時間(4~8時間程度)の使用が可能。また、従来は複数個のセンサーを組み合わせることで精度を維持するシステムが主流であったのに対し、本システムでは腕時計型のデバイス単体での利用も可能である。これらにより、試作の段階にて腕時計サイズの総重量約60g以下という小型軽量設計を実現したほか、コスト面でも、すでに流通している部品のみを使用していることから、数千円程度の原価で留めることができる。 【今後の展開】 1) 東京工科大学医療保健学部臨床工学科の篠原一彦教授、加納敬助教との共同研究にて、一次救命措置における胸骨圧迫の正確なモニタリング手法への適用を想定し、腕時計型デバイス単体にて実用的に動作する重力キャンセラー及び重力以外キャンセラー(注1)システムの開発を進めている。 2) 東京大学大学院医学系研究科との共同研究にて、内視鏡下手術における縫合操作の技量モニタリングを開始しており、今後より実用的な場面での適用実験を進めていく。 3) 将来的には、在宅医療や介護といった病院外における利用者の情報をネットワークし、従来見過ごされてきた健康管理上の知見を効果的に提示するサービスなどのへの応用を目指す。例えば、骨折等の治療に伴う歩行リハビリテーションでは、日々のトレーニングによる成果を利用者に分かりやすく伝え、その状況を医療機関と共有するといった応用が考えられる。 4) 医療以外の分野(精密機器の組み立てといった精密な手作業の習熟が必要となる分野や、楽器演奏における高度な演奏技巧の習熟度をモニタリングするシステムといったエンターテイメント応用分野)についても、可能性を検証していく。 (注1) 重力キャンセラー/重力以外キャンセラー: 地面に対する正確な姿勢角をリアルタイムで計算する技術。重力が作用する方向をモーションキャプチャシステムで捉え、加速度センサーの信号に含まれている重力の成分を取り除いたり(重力キャンセラー)、振動等の影響を受けやすい加速度センサーの信号から重力成分のみを取り出す(重力以外キャンセラー)。 ■東京工科大学コンピュータサイエンス学部 松下宗一郎(CSエンターテイメント)研究室 コンピュータゲームや音楽をはじめとする人の心を豊かにするエンターテイメントについて、ゼロから何かをつくりだすことを目標に研究・開発を行っている。また、新しいアイディアによって斬新なコンピュータや誰も見たことのないシステムを作り上げる過程自体がエンターテイメントであるという考えのもとに、素敵な発想を形あるものへと変えていくことを目指している。最近では、なぜエレキギターの演奏技量がある時点から全く向上しなくなるのかを客観的に分析するコンピュータや、ゲームの世界にもっと直感的に飛び込んでいけるインターフェースをもつゲームコントローラの開発等を進めている。 [主な研究テーマ] 1.ウェアラブル(身体装着型)コンピュータ 2.新たなエンターテイメントを創り出すコンピュータ 3.ゲーム性とは何であるのか? ▼研究内容に関しての報道機関からのお問い合わせ先 東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 教授 松下宗一郎 Tel 042-637-2539(研究室直通) E-mail matsushita(at)stf.teu.ac.jp ※(at)はアットマークに置き換えてください。 【リリース発信元】 大学プレスセンター http://www.u-presscenter.jp/
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