湘南地域初の5階建て木造ビルにカナダ生まれの耐力壁MPWが採用
技術的課題の耐震性能の向上に貢献し、「地域密着型」の中層木造を支える
カナダ林産品の普及活動を行う非営利業界団体カナダウッドの日本事務所、カナダウッドジャパン(所在地:東京都港区、代表:ショーン・ローラー)より、カナダで開発された木質構造の高耐力壁「MPW(ミッドプライウォールシステム)」の国内導入事例についてご紹介します。湘南エリアの総合不動産企業である富士リアルティおよび湘南乃工務店では、2022年に完成した藤沢市大鋸の4階建て木造ビル「湘南 海友(MIYU)プロジェクト・シティスタイル」も手掛けており、近年は特に地域に密着した中層木造プロジェクトを推進しています。富士リアルティの永松代表取締役社長は今回の「this is me」プロジェクトについて、「これまでの木造での実績に加え、施主様が持っていたヴィーガンやジェンダーレス※などのSDGsに対する強い想いを、自分自身を表現する『this is me』というコンセプトにより反映させたもの」と説明します。
※入居予定のカフェはヴィーガンメニューを中心とし、エステティックサロンは性別の垣根なく施術を行う
日本の中層ビルにおいて木造を採用する場合、技術的な課題として耐震性能と耐火性能の向上が挙げられます。ツーバイフォー工法の中層では、同じくツーバイフォー工法を用いた日本の標準的な住宅と比較した場合、4倍もの耐震性が求められます。そこで今回、高い耐震性の確保のために導入されたのが「MPW(ミッドプライウォールシステム)」です。MPWはカナダの林産研究機関FP Innovationsとブリティッシュコロンビア大学によって開発された木質構造の高耐力壁で、特別な材料や道具、技術を必要としません。一般的なツーバイフォー工法用の木材で組み立てられるにもかかわらず、優れた耐久性を発揮できる点が特長です。枠材を面材で挟み込む従来の構造から、面材を枠材で挟み込む(平使いに配置)構造へと再設計しており(図1)、この構造によって壁を変形させようとする地震力を釘などの接合金具が二面で支えることが可能となり、耐力を大幅に向上させます(図2)。面材への釘の打ち込み過ぎによる性能低下や、枠材への釘の打ち損じなどの作業不良も防ぎやすいというメリットもあります。
カナダウッドジャパンでは、カナダ天然資源省(NRCan)の支援により日本の業界関係者と共同研究を実施し、MPWを日本の建築基準法の下で使用できるよう認定を取得しました。MPWは現在では日本国内4,500以上のプロジェクトで採用されており、「this is me」プロジェクトではMPWで耐震性を確保できたことで、柱のない広々とした店舗空間を作ることも可能となっています。耐火性能においては、一般社団法人 日本ツーバイフォー建築協会との共同研究によって取得したツーバイフォー工法における1時間および2時間耐火構造の国土交通大臣認定を組み合わせて使用しています。カナダウッドジャパンでは業界関係者の協力を得てこれまでに計53件の国土交通大臣認定を取得し、日本全国で4,254件以上の耐火建築物プロジェクトを実現しており、これらの技術で日本における中層木造の発展を支えています。
永松社長は、「湘南地域は自然を好む人々が多く集まる風土もあって木造の需要が高いのではないかと感じている。『this is me』プロジェクトは線路沿いという目立つ立地のため多くの人の目に触れることが予想され、木造への関心が高まるきっかけ作りをし、ゆくゆくは木造の真価を理解する人や企業と連携して事例を増やしていきたい。今後は木造が地域を活性化させるような流れを生み出し、将来的には今回のようなツーバイフォー工法による案件も増やしていきたい」とコメントしました。
2023年1月19日には、来日していたカナダのウィルキンソン天然資源大臣らが建設現場の視察に訪れ、担当者からの説明を受けながら、同席していた藤沢市の鈴木市長らとも交流を深めるなど、「this is me」プロジェクトに期待を寄せました。
カナダウッドジャパンでは、今後もMPWをはじめとした日本における木造建築技術の普及拡大を目指し、国内外の業界関係者とともに木造のさらなる発展に向けて取り組んでいきます。