【東洋大学国際観光学部News Letter 2024 Vol.2】 新しい観光のパラダイム「再始動したインバウンド観光とその展望」
イントロダクション
コロナ禍を経て日本のインバウンド観光需要は消失し、そして元に戻りました。数だけを追えば話はそれだけですが、この5年の間でその中身は変わったように思います。新しい観光のパラダイムを示すにあたって、インバウンド観光をテーマにいくつかの視点をお届けします。
コロナ禍の前後でインバウンド観光の何がどう変わったか?
インバウンド観光旅行者の意識と行動に着目して、その変化を考えます。はじめに、旅行者意識の変化をみてみましょう。訪日中国人旅行者数は、2024年7月にコロナ禍後はじめて国別の訪日客数でトップ(24%)を記録しましたが、コロナ禍前は一貫して首位だった(例えば2019年は30%)ことを思い返すと、中国からの旅行需要回復には長い時間がかかりました。コロナ禍を経て、いまどのような人が日本を訪れるのでしょうか。
私はコロナ禍前から、中国との共同研究で中国居住者の訪日意向を観測していました。2024年4月の最新データによれば、いまでも日本への旅行に慎重な人は、20代、30代の若者、年収の高い人という傾向が示されています。富裕層と若者はどちらも、将来的に日本のインバウンド観光を支えてくれる大事なマーケットですが、もしかしたら彼らは日本ではなく、ヨーロッパ等、他の観光地に関心が向いているのかもしれません。数が戻ったからと安心ばかりはしていられないようです。
次に、旅行行動の変化に着目します。私は2015年から富士河口湖町の観光統計調査整備に携わっていて、夏季と秋季の年に二回学生とともに観光客へのアンケート調査をおこなっています。もうすぐ10年が経過しますが、そこでずっと観察していると、コロナ禍前後での旅行行動の変化にいくつか気が付きます。2つ紹介します。
2つ目は、観光消費機会の増加です。10年間で消費単価を比べると、全体で2倍、中でも飲食費は2.8倍となりました。コロナ禍前から飲食施設の不足が町の課題でしたが、最近ではカフェや居酒屋を含め、飲食施設が増え、消費単価の上昇につながったと考えられます。
長期的な視点で質の高い観光地域を形成しよう
近年オーバーツーリズムの問題が顕在してます。短期的な対策はもちろん大事ですが、上記のようなインバウンド観光の変化を捉えながら、長期的な視点で質の高い観光地域の形成が求められるでしょう。
混雑対策のため階段への座り込みが禁止されたスペイン広場(ローマ)2024年7月撮影
東洋大学国際観光学部 教授
専門分野:観光地域計画
研究キーワード:観光政策、インバウンド観光、観光消費と経済効果