若年(AYA)世代乳癌に特異的な生物学的特徴を解明
~新たな予後予測や治療戦略へ~
横浜市立大学医学部消化器・腫瘍外科学の押正徳助教、山田顕光准教授,遠藤格主任教授らの研究グループは、ロズウェルパーク総合がんセンター(米国ニューヨーク州)の高部和明主任教授らとの共同研究により、複数の大規模データベースを用いてさまざまな癌特異的情報伝達経路の活性度を腫瘤の遺伝子発現パターンから同定し比較することで、若年(AYA:Adolescent and young adult、思春期・若年成人。15~39歳)世代乳癌が他年齢層の乳癌と異なる生物学的特徴を有することを証明しました。この研究結果は、若年世代乳癌の予後予測や治療戦略の向上において新たな示唆を与える可能性があります。本研究成果は、欧州腫瘍内科学会誌である「ESMO Open」誌オンライン版に先行公開されました(2024年10月14日)。
研究成果のポイント
- 遺伝子発現パターンを用いて、40歳未満の乳癌患者腫瘍における癌特異的伝達経路の活性度や、腫瘍微小環境の状況をスコアを用いて解析した。
- 若年世代ホルモン受容体陽性乳癌は、他のどの年齢層の乳癌と比較してもさまざまな癌増殖・促進系遺伝子伝達経路が活性化していることを発見した。
- 本研究結果は、若年世代乳癌における特異的な生物学的特徴を明らかにすることで新たな治療戦略を示唆するものである。
とくに乳癌で重要となるホルモン状態の背景を考慮し40歳未満の若年層をAYAグループ、40-55歳未満の閉経前グループ、55-65歳未満の閉経後グループ、65歳以上の高齢者グループの4群間で計5,000人以上の国外乳癌サンプルコホートを用いて比較検討を行いました。
図3 ホルモン受容体陽性AYA世代乳癌は他の年齢層と比較しDNA修復およびBRCAness状態が有意に高い。
図4 ホルモン受容体陽性AYA世代乳癌は他の年齢層と比較し複数の遺伝子変異の割合が異なる。
その結果、次の点が明らかになりました。
① AYA世代ホルモン受容体陽性乳癌は他の年齢層と比較し予後が有意に不良(図1)。
② AYA世代乳癌において複数の細胞増殖伝達経路、およびその他の癌促進伝達経路が他のいずれの年齢グループよりも高い活性状態にある(図2)。
③ 遺伝性乳癌卵巣癌に深く関与するDNA 修復(repair signaling)、およびBRCAnessにおいても高い状態である(図3)。
④ 他年齢層と比較し特異的ないくつかの遺伝子変異の割合が有意に異なる(図4)。
今後の展開
若年世代のホルモン受容体陽性乳癌は他年代の乳癌と比較し生物学的特徴が異なり、それが予後に関与している可能性が示されました。この生物学的特徴を理解し、治療戦略の最適化・新規薬剤の開発を推進していくことが期待されます。また、治療期間を含め、働き盛りの年代である若年世代乳癌患者の予後改善や、副作用回避による生活の質の向上は、女性の社会進出が進む現代において、社会全体の生産性向上に寄与することが期待されます。
研究費
本研究は、JSPS科研費(21K15535)、National Institutes of Health(R37CA248018、R01CA250412、R01CA251545)、US Department of Defense BCRP(W81XWH-19-1-0674、 W81XWH-19-1-0111)、Roswell Park Comprehensive Cancer Center(P30CA016056)の支援を受けて実施されました。
論文情報
タイトル: Breast cancer in Adolescent & Young Adult (AYA) has a specific biology and poor patient outcome compared to older patients
著者: Masanori Oshi, Akimitsu Yamada, Shipra Gandhi, Rongrong Wu, Mahato Sasamoto, Shinya Yamamoto, Kazutaka Narui, Takashi Ishikawa, Kazuaki Takabe, Itaru Endo
掲載雑誌:Esmo Open
DOI: https://doi.org/10.1016/j.esmoop.2024.103737