ジュリアン・ホゥダン
グローバル・アンコンストレインド債券チーム・ヘッド
グローバル債券やグローバル・クレジットを運用するグローバル・アンコンストレインド債券チームによる、マクロ経済環境見通しとポートフォリオへの示唆をご紹介します。
グローバル・アンコンストレインド債券チーム(以下、運用チーム)は、世界のさまざまな状況を分析し、現在のマクロ経済環境とその方向性を評価しています。
足元の経済データは、トランプ氏勝利を受けて米国でアニマルスピリットが解き放たれ、ノーランディング・シナリオの実現可能性が高まるという運用チームの見方を裏付ける形となっています。そして、米国経済の先行きに対する懸念はほぼ後退し、ハード・ランディングの実現可能性はさらに低下したと考えます。なお、シナリオはグローバル経済に関するものではありますが、現在の米国のダイナミクスを考慮すると、シナリオに及ぼす影響も大きくなっていると言えます。
米国はアニマルスピリットが経済の底堅さをサポート
選挙後、米国企業は新政権に好意的な見方をする可能性が高く、その結果、経済データも堅調を維持するだろうとの見方を運用チームは示しました。2024年12月にその兆候が早くも見られたましたが、2025年に入っても、このスタンスを裏付ける証拠が蓄積されつつあります。顕著なものとしては、中小企業の景況感のさらなる上昇や、製造業景況感の堅調さ継続、そして、米国の求人数の上昇は、米国企業の中期的な見通しが力強くなっていることを示唆していると考えます。
しかし、過熱感が出てきている?
米経済成長が健全な水準を維持し、先行きに対する信頼感が改善しているものの、経済がやや強くなりすぎている兆候も見られます。労働市場の面では、雇用計画が改善し、雇用者数の伸びも回復しているほか、失業率は2024年12月に小幅に低下に転じました。米連邦準備制度理事会(FRB)は2025年の失業率が若干上昇すると予想していることから、気になる点と言えます。今のところは、賃金圧力は緩和傾向がみられ、物価圧力は比較的抑制されていることから、現段階でFRBがすぐに反応する必要はないと考えます。しかし、こうしたリスクを反映し、ノーランディング・シナリオの実現可能性を引き上げています。
なお、新型コロナ危機以後、毎年1-3月期の経済データには季節的な強さが残る傾向があります。よって、すでに情報修正がされているものの、2025年の米経済成長率に対するコンセンサス予想がさらに上方修正されるリスクが高まる可能性があるとみています。
他地域はリフレーションからスタグフレーションへ
米国経済がフル回転しているのに対し、ユーロ圏、特に英国は状況が異なっています。予算後の英国企業の対応は、値上げと雇用・受注の削減というスタグフレーション的なものとなっています。雇用者国民保険税の引き上げは、2025年には消費者の物価上昇につながり、雇用主が利益率を保つために従業員の解雇を検討することになるとみられ、経済成長は低迷が見込まれます。
2024年10-12月期には英経済の動きが弱まり、目先の見通しも同様に抑制的と見られることから、緩和方向に偏っているイングランド銀行のスタンスは正当化されます。しかし、物価の粘着性が続いていることから、2025年中にどれだけの緩和が可能かについては疑問が残ります。
英国債市場はここ数週間、10月の予算案の影響が長引くなか、大幅な変動に見舞われました。限られた財政余地と世界的な利回り上昇とが相まって、英国政府が自らに課した財政ルールの現実性が疑問視され、英ポンド安と英国債の軟調さにつながりました。これは、特にスタグフレーションに直面している経済では、政府が支出を完全にコントロールできるわけではないことを思い起こさせる出来事と言えます。
大陸欧州では、全体として成長が停滞しているように見えます。しかし、これは地域間格差を覆い隠しています。つまり、 スペインは地域内で他国を上回る成長を続けている一方、ドイツは依然として低成長で、労働市場は比較的急速に悪化しています。よって、欧州中央銀行(ECB)が中立水準以下ではないにせよ、中立水準に向けてさらに緩和する余地があることは明らかであると考えます。
中国についても、米国とは正反対の状態にあります。つまり、米国が立派な成長ペースを維持し、インフレは目標を若干上回る水準となっているのに対し、中国は依然として低成長、デフレからインフレへの転換が全くできてないことに悩まされています。中国の10年債利回りは2025年1月上旬には1.6%を下回る水準まで低下が進みました。これは、経済成長の鈍化を食い止め、デフレ圧力に歯止めをかけるためには、さらなる景気刺激策が必要だという明確なシグナルを債券市場が示していると言えます。
ポートフォリオへの示唆は?
ノーランディング・シナリオの実現可能性を高めており、米国のデュレーションに対しては慎重な姿勢としています。底堅い米経済成長モメンタム、雇用者数の伸び、ディスインフレの停滞を考慮すると現時点では中立が適切だと考えております。イールドカーブについては、米国を中心に今後数ヵ月間でさらにスティープ化する可能性があるとみています。短期部分は引き続き政策金利見通しに連動する動きが想定されるものの、景気が軟調に転じた場合には短期金利の期待値が低下する可能性があり、リスクに非対称性が生じています。長期部分では、ターム・プレミアムの上昇がここ数週間、長期債利回りに対するプレッシャーとなっていますが、スタート地点が歴史的に低水準だったことを考えると、この傾向はまだ 続く可能性があるとみています。
資産配分については、前回から概ね見方を維持しています。欧州周縁国の政治リスクは短期的には抑制されていると言えるものの、価格に既に反映されていることから、リスク・リターンの観点から魅力は薄いと考えます。米国MBSのバリュエーションは魅力的で、国債利回りの上昇にもかかわらず、底堅さを維持しています。社債では、満期が短めの欧州投資適格社債の選好を継続いたします。ハイ・イールド債券は全体としてはバリュエーションの観点から魅力に乏しいものの、地域別では米国対比で欧州ハイ・イールド債に投資機会があるとみています。カバードボンドは、社債や政府関連債と比較して、バリュエーションの観点から魅力的であると考えます。
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