日本獣医生命科学大学(東京都武蔵野市)獣医保健看護学科の吉村久志准教授らによる調査により新たに発見されたニホンオオカミの遺物(上顎吻端部を用いた根付)が、3月15日(土)~6月15日(日)まで国立科学博物館(東京都台東区)で開催される特別展で展示される予定。吉村准教授らは、兵庫県内の旧家に保管されていた当該遺物を形態学的および画像診断学的に解析し、その特徴を詳細に検討した。さらに、総合研究大学院大学(神奈川県三浦郡葉山町)の寺井洋平准教授がミトコンドリアDNAの解析を実施した結果、ニホンオオカミである可能性が極めて高いことが証明された。この遺物は、ニホンオオカミの遺伝学的研究を進める上で非常に貴重な事例であることから、このたび同展で公開に向けて準備が進められている。
吉村久志准教授は専門である腫瘍病理学や野生動物病理学の研究に従事する傍ら、江戸時代の馬医書の調査にも取り組んでいる。兵庫県内の旧藩の家老を務めた旧家に保管されていた馬医書を調査する過程で、同じく保管されていたイヌ科動物の上顎吻端部を用いた根付に着目した。この遺物がニホンオオカミのものである可能性を考えた吉村准教授らは、各部の計測を行うとともに、同大学 獣医放射線学研究室の藤原亜紀准教授がCT撮影を実施し、非破壊的に内部構造を観察した。
さらに、ニホンオオカミのゲノム解析を専門とする総合研究大学院大学 統合進化科学研究センターの寺井洋平准教授が、微量の骨粉からPCR法によりミトコンドリアDNAを増幅し、得られた遺伝子配列を既知のニホンオオカミの配列と照合した。
本遺物は、根付として加工するため、上顎吻端部が第2前臼歯の後方で切断されており、上顎骨と鼻骨の一部、および切歯骨のほぼ全体が残存している。現状の上顎骨長は57.9mm、上顎骨幅(犬歯位置)は41.6mmであった。右犬歯の歯冠高は26.3mmと、ニホンオオカミのものと考えて矛盾しない長さを示していた。骨の背側と切断面には黒漆、口腔側には赤漆が厚く塗られていた。また、犬歯と第1前臼歯の間の正中部には、紐穴が上顎骨から鼻骨を貫通する形で穿たれ、その紐の一端には黒漆塗りの円柱状木片が結びつけられていた。
またCT画像では、鼻腔内に正常なイヌ科動物であれば存在する鼻中隔や鼻甲介等の構造がみられず、加工時に内部構造をかき出したことが示唆されたほか、切歯根周囲の上顎骨に骨融解が認められなかったため、比較的若い個体である可能性が示された。
さらに、ミトコンドリアDNA解析では、得られた配列がニホンオオカミのものと完全に一致し、形態の測定値と併せてニホンオオカミである可能性が極めて高いことが証明された。
ニホンオオカミは20世紀初頭に絶滅したとされ、現存する剥製は国内にわずか4体のみである。一方、江戸時代から明治時代にかけて、ニホンオオカミの頭骨は病気治癒の呪具として使用され、顎骨を用いた根付は山仕事をする人々が魔除けとして身に着けていたと伝えられている。そのため、ニホンオオカミの頭骨やその一部とされる遺物は、日本各地の民家などに一定数保管されていると考えられ、形態学的にニホンオオカミと判断されたものも少なからず存在する。しかし、DNA解析によってその由来が証明された例は多くない。
今回の遺物は、根付に加工した際に骨が漆により保護されていたためか、DNAが非常に良好な状態で保存されていた。このため、ニホンオオカミの遺伝学的研究を進める上で非常に貴重な事例となる。
こうしたことから、このたび、同遺物が3月から国立科学博物館で開催される特別展「古代DNA ―日本人のきた道―」において展示される予定である。
「新発見!ニホンオオカミの遺物-イヌ科動物の上顎吻端部を用いた根付けの解析-」
吉村 久志1、鈴木 遼太郎2、藤原 亜紀3、山本 昌美1、寺井 洋平4
第5回ニチジュウシンポジウム2024(2025年2月19日)
1 獣医保健看護学応用部門 病態病理学研究分野
2 同上 大学院博士課程
3 獣医放射線学研究室
4 総合研究大学院大学 統合進化科学研究センター
◆特別展「古代DNA ―日本人のきた道―」概要
【会 期】
3月15日(土) ~ 6月15日(日)
※休館日:月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)、5月7日(水)
【開館時間】
9:00~17:00(入場は16:30まで)
※ただし毎週土曜日、4月27日(日) ~ 5月6日(火・休)は19:00まで延長(入場は18:30まで)。
※常設展示は4月26日(土) ~ 5月6日(火・休)は18:00閉館(入場は17:30まで)。それ以外の期間、常設展示は17:00閉館(入場は16:30まで)。
【場 所】
国立科学博物館(東京都台東区上野公園7-20)
【入場料】
<一般・大学生> 前売券:2,000円 当日券:2,100円
<小・中・高校生> 前売券:500円 当日券:600円
【公式サイト】
https://ancientdna2025.jp/overview
▼本件に関する問い合わせ先
研究推進課
住所:〒180-8602 東京都武蔵野市境南町1-7-1
TEL:0422-31-4151
FAX:0422-33-2094
メール:research@nvlu.ac.jp
【リリース発信元】 大学プレスセンター
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