発表のポイント:
- 技術確立済である通信設備に対する災害時の被災予測技術を応用することで、豪雨時の道路被災予測技術を確立しました。
- 本技術は、NTTがこれまで蓄積してきた災害時の点検データから構築した予測モデルを活用することで公開情報のみで道路被災予測が可能であり、全国どこでも短時間で雨量に応じた被災リスク推定が可能です。また、ハザードマップ※1と同等以上の性能があることを確認しております。
- 今後、実際の道路等に対するトライアルにより事前防災への活用可能性を検討することで、社会インフラ全体の防災、減災および早期復旧への貢献をめざします。
日本電信電話株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、災害に対する通信設備の被災を予測する手法を応用し豪雨災害に対する道路の被災予測技術を確立しました。本技術は、現場調査や詳細な設備情報、過去の道路の被災データを用いることなく、公開されているデータのみで豪雨災害における被災リスクを推定することが可能となる技術であり、ハザードマップが無い区域に対しても短時間で予測することが可能です。また、予測結果は一般的に用いられているハザードマップ以上の性能を有していることを確認しました。
今後、本技術により推定した道路の被災リスクから避難ルートや救急・物流のルートを事前に検討することで、効率的な事前防災や避難計画の策定による地域のレジリエンス強化を実現することができます。
なお、本技術については2025年5月15日(木)~16日(金)に開催予定の「つくばフォーラム2025※2」にて展示いたします。
図1 概要
1.背景
近年豪雨災害が激甚化しており、豪雨発生時に土砂災害や盛土崩落にともなう電柱の傾斜、通信ケーブル切断などの被害が発生する事例があります。こうした被災に対しプロアクティブな対応を可能とするため、公開データと過去の点検データから電柱の被災予測を可能とする技術を研究開発し、この技術により全国に広く分布している電柱の被災予測を机上で実施できるようにしました。※3一方、豪雨災害においては通信設備の被災以外にも、道路での土砂災害や盛土崩落などの災害発生により集落が孤立する場合があります。こうした被災リスクを事前に把握し対応することは重要ですが、ハザードマップを作製するためには現地調査や技術者が必要となり、あらゆる道路に対し災害時の被災状況をあらかじめ予測しておくことは困難でした。
2.技術のポイント
このような背景を踏まえ、NTTはこれまでに技術確立した電柱の被災予測技術を応用することで、道路の被災予測を実現する基礎技術を確立しました。図2のように取得した予測対象道路上に仮想的に電柱を設置し、予測対象道路の位置情報と組み合わせてそれぞれの電柱の被災予測を行うことで、10mメッシュ単位で道路上の被災リスクを定量的に評価することを可能としました。電柱の被災が道路崩落や土砂災害に伴う倒木によってその多くが引き起こされることから、電柱と道路の被災要因が類似していることを利用し予測を実現しました。
①公開データのみで全国どこでも予測可能
上記の通り、電柱の被災データを用いた予測モデルで仮想電柱の被災を予測するため、道路に関する舗装や交通量、設計図面などの詳細なデータは不要であり、全国どこでも予測可能です。また、電柱の被災予測モデルも公開データ(標高、傾斜、地盤の硬さなど)を用いているため、詳細な地盤条件の調査なども不要となっています。
②短時間での予測により、リアルタイムな推定にも対応可能
本技術は時間のかかる数値計算などを必要としておらず、予測対象エリアの基本データを公開データ(標高、傾斜、地盤の硬さなど)を用いて事前準備しておくことで、想定雨量だけでなく直近の気象予報データや実測の雨量データを用いて短時間で被災リスクを算出することが可能です。そのため、豪雨発生直前および発生直後での被災箇所推定、避難経路検討などに活用できます。
図2 道路被災予測の概要
3.実験の概要
2020年7月豪雨時の電柱の被災有無が記録された点検データと標高などの周辺環境情報を学習した予測モデルを利用し、2024年9月に発生した能登半島豪雨における道路被災の一部を予測し被災リスクを定量化しました。当該エリア内の道路およびその付近に仮想電柱約12.2万本を設置し各電柱の被災予測結果と斜面崩壊・土石流・堆積分布データ※4を比較した結果、ハザードマップを判読した場合は約9.4万本正解し正解率77%に対して、本技術による予測では約9.8万本正解し正解率80%とハザードマップ以上の性能があることを確認しており、本予測技術が有効であることが確認できました。また、対象地域内には現時点でハザードマップが存在していない区域で被害が発生している箇所も存在していましたが、本技術によってそのような区域においても同様に予測できていることも確認できました。
4.今後の展開
実際の避難計画や事前防災計画の立案への本技術の活用に向けて、事業会社、自治体などと協力体制を構築しトライアルの実施をめざします。また、同時に豪雨だけでなく地震に対する被災予測や他のインフラ設備への応用に向けた研究開発を継続します。NTTがこれまで蓄積してきたデータを活用し、社会インフラ全体の防災、減災および早期復旧に貢献し、災害に強い社会の実現をめざします。
【用語解説】
※1. ハザードマップ
ハザードマップポータルサイトにて公開されている土砂災害のおそれのある地区(土砂災害警戒区域、土砂災害特別警戒区域)を指す。 ハザードマップポータルサイト URL:
https://disaportal.gsi.go.jp/
※2. つくばフォーラム2025
https://www.rd.ntt/as/tforum/
※3. 多様な災害に対するインフラの被災予測AIを構築 ~インフラ強靭化と災害復旧の早期化を実現~
URL:
https://group.ntt/jp/newsrelease/2024/04/25/240425a.html
※4. 斜面崩壊・土石流・堆積分布データ
国土地理院が9月23日及び9月24日に撮影した空中写真を用いて、2024年9月20日からの大雨によって生じたと考えられる斜面崩壊地、土石流範囲および堆積箇所を判読したもの。
国土地理院URL:
https://www.gsi.go.jp/BOUSAI/R6_noto_heavyrain.html