発表のポイント:
- 現場中心・熟練作業者依存だったトンネル工事を、IOWN技術を活用し遠隔・リアルタイムで1,000km離れていても安全かつ効率的に管理するため、重点的に取り組むべき業務領域を定め、問題・課題を解決する4つのユースケースを策定
- 建設業界で初めてIOWN Global Forumにて承認されたドキュメントが一般公開、2026年3月までに実証実験を開始し、ユースケースごとの有効性・実装可能性を評価予定
株式会社安藤・間(本社:東京都港区、代表取締役社長:国谷 一彦、以下「安藤ハザマ」)、NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は建設現場のデジタルトランスフォーメーションの推進に向けたIOWN技術のユースケースの検討をリードしています。今般、両社を中心としたIOWN Global Forum(注1)検討チームのメンバーと共に、トンネル建設現場におけるIOWNを活用した施工管理の遠隔化・自動化について重点的に取り組むべき業務領域およびユースケースを策定し、満たすべき評価基準と共に取りまとめたドキュメント「Use Case and Technology Evaluation Criteria -Construction Site(注2)」がIOWN Global Forumにて正式承認を受け、一般公開されました。本ドキュメントでは主に山岳トンネルをターゲットとしています。本ドキュメントの公開を起点に広範にパートナーを募るとともに、2026年3月までに開始予定の実証を通して、ユースケースごとの有効性、実装可能性の評価を進め、システム設計および構築をする上で必要な考え方や確認すべき点をまとめた実装例(リファレンス実装モデル)を確立してまいります。トンネル建設工事および供用(施工後の運用)中における安全性と生産性向上を同時に実現するIOWNソリューション創出を加速するとともに、国内外のトンネル工事現場で活用可能な次世代のICT基盤構築をめざします。
1. 背景・概要
建設業界では、生産年齢人口の減少や高齢化による労働力不足の一方、自然災害の激甚化・頻発化や社会インフラの老朽化に伴い工事量の増加が見込まれるなど、日々多くの課題に直面しています。こうした課題に対して、国土交通省により2024年にi-Construction2.0(注3)が策定され、業界全体としてさらなる生産性向上に向け建設現場のオートメーション化に取り組んでいます。
トンネルの建設現場では危険を伴う環境での作業や、ベテラン人材減少の課題を抱えており、崩落や事故の予兆をいち早く検知するデータ解析や、オフィスなどから現場の管理や検査を実施する遠隔施工管理や遠隔臨場の取り組みが進められています。現場状況を正確に把握・解析するためには、リアルタイムに多様なデータをやり取りする大容量・低遅延通信が必要になるとともに、現場やオフィス、データセンタ等の多拠点間の接続や、過去の現場データの蓄積も活用したAIによる高度なデータ分析を行うための情報処理能力を確保する事が必要となります。しかし、トンネル建設現場においては、工事期間中のみ使用する仮設の通信設備に対してコストをかけられないことや、従来通信を必要とする作業が測量データやカメラでの切羽(掘削作業の最前線)監視などに限られていたことから、ネットワークをベースとしたICT基盤の構築が進んでおらず、取り組みに向けたソリューション導入の障壁となっていました。また、施工後の運用の段階に移ってからは定期的な点検を行い、構造物の健全性を確認する必要があるものの、1万本以上のトンネルを点検するには検査者が不足しており、この対応も課題となっています。
こうした課題を解決するため、安藤ハザマ、NTTは世界の業界リーダーが集うIOWN Global Forumにおいて、パートナーメンバーと共に、トンネル建設現場のオートメーション化の実現に向けたIOWN適用を検討するチームを立ち上げ活動をしてまいりました。トンネル施工管理の遠隔化・自動化に向けたシステム構築を推進するためのリファレンス実装モデルを作成するにあたり、現状のトンネル現場における問題・課題をベースに取り組むべき業務領域を定め、最大1,000km離れた施工者や発注者のオフィス、現場、データセンタなどが相互にIOWN APN(注4)で接続された構成において、早期に実現が見込める4つのユースケースを策定しました。早期ユースケースをまとめたドキュメントがIOWN Global Forumにて建設業界で初めて承認され、この度、一般公開されました。
2. トンネル工事現場の革新に向けたユースケースの概要
トンネル工事の生産性および安全性を高める取り組みとして早期に実現が見込める範囲のユースケースを定め、「Use Case and Technology Evaluation Criteria -Construction Site」にまとめています。本ドキュメントは以下のIOWN Global Forumのサイトにてダウンロードすることが可能です。
https://iowngf.org/use-case-and-technology-evaluation-criteria-construction-site/
本ドキュメントでは建設現場と施工者や発注者のオフィス、データセンタ等がIOWN APNによって接続された環境における4つの早期ユースケースを提案するとともに、実現に必要な基準を掲載しています。以下では建設現場の問題・課題と共に本文記載の各ユースケース概要を紹介します。遠隔化については施工者オフィスと現場間距離を1,000kmと想定しています。
■ユースケース1: 定常的な監視とデータ収集(遠隔監視):
現状の問題・課題 |
現在は安全点検の多くを専門家の目視により実施しているため、現場の変化をすべて追うことはできない
安全確認不足で労働災害が発生する複数の建設現場において、専門家の目視に頼らず現場の変化を把握できるインフラが必要 |
活用IOWN技術 |
IOWN APNの大容量・低遅延通信によるリアルタイムのデータ転送 |
実現すること |
IOWN APN 経由で建設現場の高解像度映像・センサデータを遠隔地に集約し、
AIによる自動分析で常時監視・早期安全リスク検知を実現 |
■ユースケース2:施工中必要時のデータ分析(遠隔解析):
現状の問題・課題 |
現在は掘削後の形状が設計通り確保できているかの確認を、危険な切羽エリアで時間をかけて実施している
切羽エリアでの熟練者による安全確認と測量時に、工事の中断時間を最小限に抑え、工事進行と安全の両立を図る体制が必要 |
活用IOWN技術 |
IOWN APNの大容量・低遅延通信による遠隔の計算リソース活用
IOWN APNの光パス(注5)設定を柔軟に行う技術による計測手法に合わせたオンデマンドのIOWN APN接続先切り替え |
実現すること |
IOWN APNを介して現場と遠隔処理環境を接続し、大容量点群データ解析にかかる時間を、工事進行を妨げない60秒にまで短縮。安全・品質判断の即時性確保 |
■ユースケース3: モバイル検査(遠隔臨場):
現状の問題・課題 |
管理基準に定められている検査について、現在は一部を遠隔臨場にて実施しているが、現状の遠隔臨場では映像の解像度や遅延による指示のずれなどで、検査・指摘漏れの懸念がある
遠隔臨場で実施する際、検査者が着目したい箇所(地山の亀裂や湧水等)を映像の解像度向上、指示タイミングの遅延解消により正確に判断できる仕組みが必要 |
活用IOWN技術 |
IOWN APNの大容量、低遅延通信により高解像度映像で遠隔検査
IOWN APN光パス設定を柔軟に行う技術による常時接続の無い拠点からのオンデマンドのIOWN APN接続 |
実現すること |
取り回し可能な高精細カメラとIOWN APNで、必要な時に遠隔拠点から検査者の着目点を正確に捉えるピンポイント検査を実現 |
■ユースケース4: 通信ファイバを活用した維持管理(モニタリング):
現状の問題・課題 |
供用(施工後の管理運用)中は定期的(注6)に点検が実施されるが、定期点検の間に生じた異常の発見は困難であり、点検時には既に緊急措置が必要な場合がある
計画的な修繕のための健全性の確認を、トンネル利用者への影響や点検者負担を増やさずに早期発見できるモニタリング体制が必要 |
活用IOWN技術 |
施工時敷設光ファイバのデータのセンシング転用 |
実現すること |
施工中に組み込まれた光ファイバ等をセンシングに転用し、延長方向の任意の箇所の歪み検知と加速度計測を行うことで、剥離や変形といった変状や経年劣化を遠隔で常時監視するシステムを構築 |
これらの早期ユースケースは、建設工事に携わるステークホルダに以下の効果が得られると想定しています。
ステークホルダ |
得られる効果 |
ゼネコン |
遠隔監視:リアルタイム性の高い現場データの収集・解析・評価・フィードバックによりデータドリブン、トレーサブルな施工管理の実現
遠隔解析:工事リスク(安全・品質)の予測強化により、限られた期間内での安全で品質の高いプロジェクトの遂行を実現
遠隔臨場:工事業者・発注者等の関係者間の物理的な距離を超えた協力体制の実現 |
専門工事業者 |
遠隔監視:危険に繋がる行動の事前検知による作業環境の安全性向上を実現
遠隔解析:工事リスク(安全)予測の強化により、安全な環境下における工事を実現 |
発注者 |
遠隔臨場:現場および工事業者との物理的な距離を超えた効率的な検査の実現
モニタリング:施工中に整備されたネットワークインフラにより、施工後の構造物の維持管理の高度化を実現 |
機器・サービス提供者 |
現場に整備されたネットワークインフラや現場とIOWN APNで接続されたデータセンタ等を活用した新たなソリューション提供する機会が拡大し、トンネル建設現場向け市場の拡大を実現 |
3. 各社の立ち位置
安藤ハザマ:
DXビジョン2030を掲げ、2022年7月に建設業界で初めてIOWN Global Forumに加入して以降、建設業界におけるリーディングカンパニーとして、ユースケース、ドキュメント作成を主導して行っています。山岳トンネル工事の生産性および安全性を向上させる取り組みとして、当社が開発を進めている「山岳トンネル統合型掘削管理システム(i-NATM®)」の通信基盤としてIOWNを活用します。
NTT:
高速低遅延のネットワークをお客さまに提供してきた実績を有するとともに、IOWN APNをはじめとしたIOWN構想を推進しています。今後の検討では、IOWNを構成する各技術やAPN内の光パスを柔軟に切り替えることでオンデマンド利用を実現できる新たな接続方法について建設現場ユースケースに必要なアーキテクチャや仕様の検討・検証を行います。また、NTT研究所保有技術であるインフラ設備を効率的に保守する技術(画像・動画解析のAI活用等)の将来的な活用・実装について、検討を行います。
4. 今後の展望
今後、各ユースケースのソリューション開発を促進するためにアーキテクチャや評価基準を議論し、実現に向けた明確な要件を整理することで、システム構築に必要な情報を記載したリファレンス実装モデルの公開に向けて取り組んでまいります。各々のユースケースについてはIOWN Global Forumのメンバーやパートナーと協力して2026年3月までにPoC(Proof of Concept)を開始する予定です。PoCでは通信に関する技術仕様について机上検討を行い、パソコン上でのシミュレーション、ラボ環境での実験を通して通信性能を確認し、現場でのIOWN技術を活用した実証を行います。PoCから得られた検討結果や実証結果を今後公開するドキュメントに反映することで、トンネル建設工事に関わる多くのステークホルダにとって有益となる次世代のICT基盤構築をめざします。
さらには安藤ハザマの海外施工実績やNTTの国際展開力も活用し、IOWN Global Forumのメンバーと共に国内外の建設業界全体のデジタルトランスフォーメーションを加速させ、未来の建設現場の在り方を大きく変えることをめざします。これからも革新的な技術を取り入れ、建設業界の未来を切り拓いてまいります。
<用語解説>
(注1)IOWN Global Forum
これからの時代のデータや情報処理に対する要求に応えるために、新規技術、フレームワーク、技術仕様、リファレンスデザインの開発を通じ、シリコンフォトニクスを含むオールフォトニクス・ネットワーク、エッジコンピューティング、無線分散コンピューティングから構成される新たなコミュニケーション基盤の実現を促進する業界フォーラムです。
https://iowngf.org/
(注2)Use Case and Technology Evaluation Criteria
IOWN Global Forumにて発行されるドキュメントの1つで、特定の業界における具体的な利用例(ユースケース)を示し、その実現に必要な技術要件や満たすべき評価基準を整理・提示するための文書です。
(注3)i-Construction2.0
https://www.mlit.go.jp/report/press/kanbo08_hh_001085.html
(注4)IOWN APN
IOWN APN(オールフォトニクス・ネットワーク)
IOWN Global Forumにてオープンにアーキテクチャ策定が行われているフォトニクス技術をベースとした革新的ネットワークです。フォトニクス(光)ベースの技術の適用範囲をネットワークから端末まですべてに拡大することで、現在のエレクトロニクス(電子)ベースでは困難な、低消費電力、高品質・大容量、低遅延の伝送を実現します。詳しくは以下ホームページを参照ください。
https://www.rd.ntt/iown/
https://iowngf.org/wp-content/uploads/2025/02/IOWN-GF-RD-Open_APN_Functional_Architecture-2.0.pdf
(注5)光パス
光信号の送信機から受信機までをつなぐ光信号の通り道を光パスと呼びます。各光パスは、通過する光ファイバや光ノードシステムによって構成される経路と、光信号の容量や割り当てられる波長が指定されています。オンデマンドの光パスについて詳しくは以下ホームページを参照ください。
https://group.ntt/jp/newsrelease/2025/04/25/250425a.html
(注6)道路トンネルの場合5年に1回の頻度を基本とします。
国土交通省道路トンネル定期点検要領
https://www.mlit.go.jp/road/sisaku/yobohozen/yobohozen.html
i-Construction2.0は国土交通省国土技術政策総合研究所長の登録商標です。
i-NATMは株式会社 安藤・間の登録商標です。