薬の効かないてんかんでも重い副作用なく発作が20%以上減少
東京慈恵会医科大学脳神経外科学講座・リハビリテーション医学講座・臨床検査医学講座は共同で、薬剤治療が無効な難治性てんかんに対する新たな低侵襲治療として反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)の安全性と有効性を本邦で初めて同時に示しました。
内服治療に抵抗があり月に1回以上てんかん発作を繰り返している8名の患者にrTMS治療を実施したところ、8名とも重篤な有害事象は認めず、6名で発作回数が20%以上減少しました。とくに前頭葉てんかんの2名は脳波上の改善が明確で、うち1名は治療1か月後にてんかん発作が半減したことを調査により明らかにしました。
【ポイント】
難治性てんかん患者に対するrTMSの安全性・有効性を本邦で初めて同時に確認しました。
8名の患者全員で重い副作用は認められず、6名の患者の発作が20%以上減少しました。
特に前頭葉てんかん患者で脳波が明らかに改善し、最大で発作の頻度が半分になりました。
薬が効かないてんかん患者でrTMSが外科手術に代わる新たな選択肢となることが期待されます。
【研究に至る経緯】
本邦では約100万人のてんかん患者がいると推定され、その30%は内服治療が十分効かず、侵襲的な脳外科手術が考慮されます。本研究は本邦で初めて低周波rTMSをてんかん治療に用いることの安全性を示し、さらに有効性も示したものです。これによりこれまで手術が必要であった難治性てんかんの治療に飛躍的な向上が期待できます。
てんかんとは脳の中に異常な電気信号が出ることでけいれんを起こしたり、失神したりする病態です。発作は突然起きるため、熱傷、溺水、交通事故や転落事故等を起こす方も少なくありません。このためてんかん患者においては発作の抑制が重要ですが、複数の抗てんかん薬でも発作のコントロールが得られない薬剤抵抗性のてんかんが約30%存在します。そのような患者さんに対しては開頭を要する侵襲性の高い手術や、侵襲が若干低いけれども即効性・根治性が乏しい迷走神経刺激装置留置術などが行われてきました。
近年、新たなてんかん緩和治療として低周波を用いた反復性経頭蓋磁気刺激(rTMS)が注目されています。国際的にもてんかんに対する有効性が示される一方、磁気刺激によるてんかん誘発リスクが懸念されてきました。しかしこれまで、てんかんに対するrTMS療法につき丁寧な安全性確認を行った報告はほとんどありませんでした。そこで本学の脳神経外科とリハビリテーション科は共同で、難治性てんかん患者に対するrTMSの安全性と有効性を検証しました。
【対象・方法】
<対象>
2021年から2023年までに本学を受診した複数の薬剤に抵抗性であった20~75歳の患者で、てんかん発作症候や脳波や画像評価などの非侵襲的検査により焦点が同定されている難治性てんかん症例8名を対象としました。研究内容を十分に説明され、十分に理解した上で自発的に同意書を提出した患者を対象としました。
<方法・評価>
8名に朝夕2回に分けて2週間の入院期間にrTMS治療を行いました。rTMS治療前後の高次脳機能や精神状態、脳血流検査、脳波など詳細な評価を行いました。また、治療後3ヶ月間の経過観察を行い治療前後の発作頻度を比較検討しました。
【結果】
8症例全例でrTMS施行前後の脳波所見および発作頻度に悪化はみられませんでした。有効性に関しては、
特に2例の前頭葉てんかんでは治療後の脳波所見、発作頻度ともに他の焦点と比較して改善がみられました。
また、治療前後の高次脳機能評価や精神状態評価および脳血流検査で多角的評価行いましたが、いずれも有意な変化はなく、大脳皮質に過度の抑制が生じていないことが証明されました。
上記はある症例の60分の脳波です。rTMS治療の前とrTMS治療後の変化を示します。rTMS治療の前の脳波で、多棘徐波複合を含むてんかん性放電が認められ、そのてんかん焦点は両側の前頭葉に存在すると考えられますが、rTMS治療後においては、てんかん様放電の回数と持続時間の両方における減少が見られました。
【今後の展開】
今回の研究では難治性てんかん患者に対するrTMSの安全性・有効性を検証しました。このなかで難治性の前頭葉てんかん患者においては、特に有効性が示唆されました。この結果は、rTMSがてんかん外科治療や観血的な緩和治療に先駆けて検討されるべき新たなてんかん治療選択肢となりうることを予見させるものです。
本研究は、難治性てんかん患者の治療選択肢を広げ、生活の質(QOL)を向上させる可能性を示しています。
本研究の成果は Jikeikai Medical Journal誌にて2025年3月付けで公開されました。
Kaito N, Koseki H, Takeishi H, Karagiozov, Higurashi N, Miyasaka M, Murayama Y, Ochi S, Abo M. Rhe Safety Profile of Repetitive Transcranial Magnetic Stimulation for Instractable Epilepsy. Jikeikai Med J 2025; 72:7-15.
メンバー:
東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座
講座担当教授 村山雄一
助教 小関宏和
助教 武石英晃
リハビリテーション医学講座
講座担当教授 安保雅博
臨床検査医学講座
講座担当教授 越智小枝
講師 海渡信義
【本研究内容についてのお問い合わせ先】
臨床検査医学講座(葛飾医療センター中央検査部)
講師 海渡信義
電話 03-3603-2111 (葛飾医療センター・代表)
附属病院 脳神経外科
小関宏和
電話 03-3433-1111(附属病院・代表)
【報道機関からのお問い合わせ窓口】
学校法人慈恵大学 経営企画部 広報課
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