~プレバイオティクスによる新たな食物アレルギー治療法に期待~
藤田医科大学(愛知県豊明市)消化器内科学講座および医科プレ・プロバイオティクス学講座(いずれも廣岡芳樹教授)は、ウェルネオシュガー株式会社(東京都中央区、代表取締役社長:山本貢司)と共同で、短鎖および長鎖フルクタン(1-ケストースとイヌリン)の併用によるアレルギー改善効果を検討する研究を行いました。
本研究では、卵白由来アレルゲン(OVA)による食物アレルギーを誘導したマウスモデルを用いて、ケストース(Kes)とイヌリン(Inu)の単独および併用摂取がアレルギー指標に与える影響を評価。その結果、特にKes+Inu併用群では、アレルゲン特異的IgE(OVA-sIgE)が有意に低下し、腸内における短鎖脂肪酸(SCFA)※1、特に酢酸の産生が促進されたことが明らかとなりました。
これらの結果は、食物アレルギーに対する腸内細菌叢の役割と、プレバイオティクス※2介入の治療的可能性を示唆するものです。
本研究成果は、2025年6月30日発行の栄養科学系学術誌「Journal of Nutritional Science and Vitaminology(2025年第71巻3号)」に掲載されました。
URL:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jnsv/71/3/71_238/_article
<研究のポイント>
- 1-ケストースとイヌリンの併用投与により、OVA特異的IgE(OVA-sIgE)が有意に低下
- 直腸温の安定化、アレルギースコアの改善が確認された
- 腸内におけるMuribaculaceae科細菌が有意に増加
- 酢酸(SCFAの一種)の産生量が有意に増加し、アレルギー抑制と正の相関
- 単独摂取では得られない相乗効果が、短鎖フルクタン(1-ケストース)および長鎖フルクタン(イヌリン)の組み合わせにより得られた
<背景>
食物アレルギーは近年、世界的に急増しており、その予防と治療は国際的な課題となっています。従来の治療法(経口免疫療法やアレルゲン除去食)は制約が多く、より安全かつ有効な代替手段が求められてきました。
近年、腸内細菌叢が免疫系の調節に関与し、アレルギー反応に影響を及ぼすことが報告されています。本研究は、プレバイオティクスによる腸内環境の改善が、アレルギー症状の緩和に寄与し得ることを実験的に示したものです。
<研究方法>
- マウスにOVAアレルゲンを用いてアレルギーを誘導
- ケストース(Kes)、イヌリン(Inu)、またはその併用(Kes+Inu)を4週間にわたり飼料に混合投与
- アレルギースコア、体温、OVA-sIgE、腸内細菌叢(16S rRNA解析)およびSCFA(HPLC)を測定
<今後の展開>
今後は、特定の腸内細菌や酢酸を介した免疫制御メカニズムの解明が期待され、ヒトにおける臨床応用に向けた研究の加速が望まれます。プレバイオティクスの組み合わせによる個別化栄養療法は、アレルギー治療の新たな選択肢となる可能性を秘めています。
<用語解説>
Synergistic Effects of Short- and Long-Chain Fructans: A Novel Strategy for Mitigating Ovalbumin Allergy via Microbiome-Driven Acetate Production
腸内の有用菌の選択的増殖を促す食品成分。オリゴ糖や食物繊維が代表例。
<文献情報>
Synergistic Effects of Short- and Long-Chain Fructans: A Novel Strategy for Mitigating Ovalbumin Allergy via Microbiome-Driven Acetate Production
高橋秀明1,2,3*、藤井匡1,3,4、 山田千佳子2、藤木理代2、近藤修啓1,5、倉満健人1,6、舩坂好平1、大野栄三郎1、廣岡芳樹1,3,4、栃尾巧1,3,4
1 藤田医科大学 医学部総合消化器内科学
2 名古屋学芸大学 大学院栄養科学研究科
3 株式会社Biosis lab
4 藤田医科大学 医学部医科プレ・プロバイオティクス講座
5 ウェルネオシュガー株式会社
6 名古屋大学 大学院生命農学研究科
10.3177/jnsv.71.238