【概要】
東京医科大学(学長:宮澤啓介/東京都新宿区)乳腺科学分野 小山陽一助教、石川孝主任教授、医学総合研究所 分子細胞治療研究部門 落谷孝広特任教授、横浜市立大学附属市民総合医療センター 乳腺・甲状腺外科 成井一隆准教授、横浜市立大学医学部 消化器・腫瘍外科学 山田顕光准教授らの研究チームは、乳腺組織上で特定のマイクロRNAが乳癌脳転移再発の予測バイオマーカーとして有用である可能性を示しました。
この研究成果は、2025年9月29日、Bio Med Central社が出版する国際誌「Breast Cancer Research」に掲載されました。
【本研究のポイント】
- 乳癌は骨、肺、肝臓に転移をきたすことが多く知られているが、10-30%の割合で脳に転移をきたし、転移性脳腫瘍の中では肺癌に次いで頻度が高いと言われている。
- 乳癌脳転移は早期に発見できれば、局所療法が奏功し、全身状態を維持することで予後改善が期待されるが、現在までにそれを予測するバイオマーカーは存在しない。
- 今回我々は、早期乳癌の乳腺組織を用いて、脳/肺/肝/骨単独再発を来した患者4群に分けた。乳癌脳転移との関連が報告されている15種類のマイクロRNAを発現比較したところ、hsa-miR-155-5pが脳単独再発群で有意に発現が上昇していた(p<0.001)。
- Hsa-miR-155-5pの発現は有意な脳転移再発予測能を示した。(AUC=0.960)
- さらなる検証で、乳癌無再発群との比較では、脳単独再発群においてhsa-miR-155-5pの発現が高い傾向が見られた。(p=0.081)
【研究の背景】
乳癌は本邦女性が罹患する悪性腫瘍の中で最も頻度が高く、年間9-10万人が罹患し、死亡率も上昇の一途をたどっています。乳癌は骨、肺、肝臓に転移をきたすことが多く知られていますが、10-30%の割合で脳に転移をきたすことがあり、脳転移後の生存期間は他の内臓転移と比較しても短い傾向にあります。このことから、早期に脳転移を発見し治療を行うことが重要であると考えられますが、現段階で乳癌の脳転移早期発見のためのバイオマーカーとなるものは存在しません。
マイクロRNA(microRNA(miR))は、ゲノム上にコードされる20-25塩基長の核酸です。この短鎖RNAは機能性のノンコーディングRNAに分類され、他の遺伝子発現を調節するという重要な役割を果たしています。乳癌領域において今日までに、乳癌の発生・悪性化・転移・診断・予後と関連するマイクロRNAが多数報告されており、今後マイクロRNAが、がんの早期発見や転移の予測、治療効果、治療後の予後管理のためのバイオマーカーとなり得ることが期待されます。
既報告では乳癌脳転移に関連するマイクロRNAも多数報告されていることから脳/肺/肝/骨転移再発を来した乳癌において、マイクロRNAの発現を定量PCR法で解析し、乳癌脳転移再発に特異的なバイオマーカーを探索しました。
【本研究で得られた結果・知見】
乳癌脳転移との関連が報告されているマイクロRNA15種類を、脳/肺/肝/骨
単独再発した患者の乳腺原発巣上で発現比較を行ったところ、hsa-miR-155-5pが脳単独再発患者で有意に発現が上昇していました。(図1)また、hsa-miR-155-5pの発現は有意な脳転移再発予測能を示しました。(AUC=0.960) (図2)
図1
図2
追加検証で、乳癌無再発群との比較では、脳単独再発群においてhsa-miR-155-5pの発現が高い傾向が見られました(
p=0.081)。(図3)また、In situ hybridizationによって、hsa-miR-155-5pは乳腺原発巣の癌部に均一局在していることが示されました。(図4)
図3
図4
【今後の研究展開および波及効果】
本研究では、乳腺組織上でのマイクロRNAの発現が、乳癌脳転移再発の予測に有用である可能性が示されました。臨床現場において定量PCR法は普及しており、患者にとっても脳転移再発のリスクを知ることは、脳転移の克服という医学的課題への重要な一歩だと確信していることから、今後も、本研究結果を元にさらなる追加研究を進めて行こうと考えています。
【論文情報】
タイトル:Hsa-miR-155-5p expression in primary breast tissue may have the potential for prediction of breast cancer brain recurrence: results from the multi-institutional exploratory cohort study
著 者: Yoichi Koyama
1*, Masako Muguruma
1, Yoshiya Horimoto
1,2, Kazutaka Narui
3, Akimitsu Yamada
4, Kimito Yamada
5, Shinya Yamamoto
6, Shunichiro Orihara
7, Hiroshi Kaise
1, Akiko Kogure
8, Yusuke Yoshioka
8, Takahiro Ochiya
8* and Takashi Ishikawa
1*
(*:責任著者)
所 属:
1 Department of Breast Surgical Oncology, Tokyo Medical University Hospital
2 Department of Breast Oncology, Juntendo University School of Medicine
3 Department of Breast and Thyroid Surgery, Yokohama City University Medical Center
4 Department of Gastroenterological Surgery, Yokohama City University Graduate School of Medicine
5 Department of Breast Surgical Oncology, Tokyo Medical University Hachioji Medical Center
6 Department of Breast Surgery, Yokohama Rosai Hospital
7 Department of Health Data Science, Tokyo Medical University
8 Department of Molecular and Cellular Medicine, Institute of Medical Science, Tokyo Medical University
掲載誌名:Breast Cancer Research
DOI:
https://doi.org/10.1186/s13058-025-02123-5
【主な競争的研究資金】
該当なし