世界初、200GHz級の動作速度と高信頼性を両立した次世代光通信向けの受光素子を実現 ~データセンタ内をつなぐ毎秒3.2テラビット級の超高速光通信の実用化へ前進~

発表のポイント:
  • データセンタなどで超高速光通信への期待が高まる中、動作速度200GHz級の受光素子を、世界で初めて実用レベルで実現しました。さらに、同動作速度で世界最高の受光感度も達成しました。
  • デバイス内の構造や半導体レンズ集積などの技術を新たに開発することで、高速動作・高信頼性・製造のしやすさを同時に実現しました。
  • 本技術は、導入が期待される毎秒1.6テラビット級の次世代となる毎秒3.2テラビット級の通信速度を見据え、高速光通信デバイスの研究開発に不可欠な超高速計測技術の高度化に貢献します。さらに、将来の毎秒3.2テラビット級以上の光トランシーバへの応用が期待されます。

 NTT株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:島田 明、以下「NTT」)は、信号速度400Gbaud(※1)級の光通信に必要となる動作速度200GHz級素子で、実用レベルの信頼性を持つ受光素子を世界で初めて実現しました。
 コンピュータの並列処理などを背景に、データセンタ内光通信の高速化が進んでいます。200Gbaud級以上の受光素子は、その高速化の鍵となる技術です。その一方で、既存技術は、高速化に伴う感度劣化・信頼性低下が課題でした。今回開発した技術は、データセンタ内の光通信に適用される1310nmの波長帯で、世界最高となる速度・感度を記録しました。また、データセンタのサーバ・ラック内での高温環境を想定し、200Gbaud級以上の受光素子としては前例のない、85℃動作条件で50年に相当する高い長期信頼性を実現しました。本技術は、毎秒3.2テラビット超の通信速度を実現するために不可欠な、200Gbaud級から400Gbaud級の光トランシーバの基盤技術となることが期待されます(※2)。
 本研究開発成果は、2026年3月15日~19日にアメリカ・ロサンゼルスで開催される、光通信分野における世界最大の国際会議「The 2026 Optical Fiber Communication Conference and Exhibition (OFC2026)」で、査読委員から最も高く評価されたトップスコア論文として講演いたします。また、今後は本成果を踏まえ、市場導入に向けた開発を進めます。

1.背景
 コンピュータの並列処理や映像配信サービスの普及により、通信トラヒックは世界的に急増しています。またそれらのサービスを運用するデータセンタの消費電力も急増し、社会問題となっています。消費電力を抑えながら、多くのトラヒックの処理を可能にするため、高速光通信の需要が急速に高まっています。特にコンピュータラック間などの短距離の接続では、毎秒3.2テラビット級のイーサネットが議論されています(※3)。現在は信号速度100Gbaudの送信器・受信器を用いた毎秒800ギガビット級イーサネットの導入が進んでいますが、将来の毎秒3.2テラビット超級のイーサネットには200Gbaud級から400Gbaud級の信号速度が求められます。200Gbaudを上回る光通信を行うためには、それらに対応する超高速の送信器・受信器が必要となります。しかし、それらの信号品質を評価するためには、既存の100GHz級の受信器・計測器では対応できません。そのため、高速の受光素子は送信器開発に必要な計測技術として、また将来の毎秒3.2テラビット級を上回るトランシーバ実用化の基盤となる技術です。
 受光素子は高速化に伴い、サイズが縮小していきます。これは、素子の静電容量を減らすことで、信号の立ち上がり・立ち下がりが速くなり、高速信号に追従しやすくなるためです。しかしながら、光電変換領域の縮小は通信信号の品質を決定する受光感度の低下や、素子の耐久年数を示す長期信頼性の低下に繋がります。実用ネットワークでの光通信を長期間にわたって維持するためには、高速・高感度・高信頼な受光素子の実現が大きな課題となります。


図1 今回開発した受光素子技術の利用シーン

2.研究の成果
 今回、受光感度を高める干渉型の垂直入射構造、信頼性を高める階段状の反転型構造、製造コストを低減する半導体レンズ集積技術を組み合わせた構造設計により、200GHzを超える動作速度と、長期使用に耐える信頼性を兼ね備えた受光素子を開発しました。超高速受光素子として、実用レベルの長期信頼性を実証したことは、世界初の成果です。また、本技術はデータセンタ内で使用される波長(1310nm)の光信号に対して、200GHzを上回る超高速動作における、世界最高の受光感度を達成しました(感度帯域積115 GHz・A/W)(図2(a))。
 開発した素子は400Gbaud級の動作が期待できる動作速度を持ちますが、既存の測定技術では400Gbaud級信号の生成・評価が困難です。そのため、現時点の測定技術で実施可能な最高水準である200Gbaudでのデモ実験を行いました(図2(b))。実験では、受信信号波形を多数重ね合わせたアイダイヤグラムを用いて評価し、波形の目が大きく開いていることから、良好な品質の信号伝送を実証しました。
 受光素子の信頼性評価には、高温に加熱することで材料や構造の劣化を加速させ、故障の基準となる光入射なしでの電流(暗電流)(※4)の変化を評価しました。光通信向けのTelcordia GR-468-CORE(※5)の仕様に準拠し、開発した素子を無作為に25個選出して、200℃で2000時間の高温通電試験を実施しました。本評価から、素子ごとのばらつき、時間に対する暗電流変化が極めて小さいことが確認できます。データセンタ向けに保証が求められる85℃の使用温度に換算すると、信頼性評価で一般的に用いられるアレニウスの式(※6)から、50年を超える耐久年数が見込めます(図2(c))。



図2 (a)既存受光素子との比較、(b)高周波特性と伝送実験のデモンストレーション、
(c)長期信頼性の評価結果

3.技術のポイント
(1)受光感度を高める干渉型の垂直入射構造
 受光素子の高速化と高感度化はトレードオフの関係にあります。光を吸収する層を薄くすると、光で生成された電荷(キャリア)が電極に到達するまでの時間(信号の応答時間)が短くなり、高速動作が可能になります。一方で、層が薄いほど光を吸収できる量が減るため、受光感度が低下します。そのため高速通信向けでは、長い距離で光を吸収でき感度を確保しやすい導波路型(※7)が用いられてきましたが、構造が複雑になりやすく信頼性の低下などが課題でした。一方で、垂直入射型(※8)は構造がシンプルで高信頼化が可能である一方、受光感度の確保が課題でした。
 NTTで長年培ってきた設計技術(※9)をさらに発展させ、光学設計とバンド設計をともに最適化することで、干渉によって光を閉じ込めて感度を高める垂直入射構造を開発しました(図3(a))。本技術を用いることで、波長1310nm、動作速度200GHz級の受光素子で世界最高の受光感度を達成しました。

(2)信頼性を高める階段状の反転型構造
 動作速度の向上には受光素子の小型化が重要です。しかしながら、小型化に伴って、劣化に弱い素子の側面を流れる暗電流の密度が増加し、故障につながることが課題でした。暗電流は素子の劣化状態を判断する代表的な指標であり、劣化とともに増加する傾向があります。一般に、初期状態の暗電流を低く抑えるほど、その後の増加も抑制されやすく、長期信頼性の向上に有利です。
 NTTでは、素子の動作領域を内部に閉じ込めて側面の暗電流を抑制する反転型構造を開発しました(図3(b))。この構造は、素子を製造するための結晶成長などのプロセス難易度が極めて高くなりますが、反転型構造を活用したアバランシェフォトダイオード(APD)(※10)の実用化を推進してきたNTTの技術蓄積によって実現されました。一般的な受光素子の暗電流はnA(10億分の1アンペア)オーダーですが、本技術により初期状態の暗電流を世界最小級となるpA(1000分の1nA)オーダーまで低減し、高い信頼性を確立しました。

(3)製造コストを低減する裏面への半導体レンズ集積技術
 動作速度の向上には受光素子の小型化が重要です。高い受光感度を得るためには、受光素子の中の光電変換領域と信号光が照射される位置を合わせる必要があります。これは、トランシーバの組み立ての際に位置ずれを抑える精密な技術が必要となり、コスト面で課題がありました。
 NTTは、半導体の凸レンズを受光素子に作り込み、受光領域を広げることで許容度(トレランス)を高める技術を開発しました。半導体を球面形状に加工するためには高いエッチング精度(※11)が必要となります。NTTでは、これまで培ってきた化合物半導体の高精度エッチング技術を活かすことで、受光素子への半導体レンズ集積を実現しました(図3(c))。
 本技術を用いることで、光の位置ずれ許容度を2倍以上改善し、トランシーバの組み立てを効率化・低コスト化しました。


図3 本技術のポイント

4.今後の展開
 今後NTTでは、毎秒3.2テラビット級の高速光通信の実現に向けて、本受光素子技術を活用した各種高速デバイスの開発を推進していきます。また、NTTイノベーティブデバイス株式会社にて、本技術の製品化を進める予定です。

【用語解説】
※1.baud:
 ボーと読む。シリアル通信において1秒間に何回信号の変調(状態変化)が行われるかを示す数値の単位。通信速度の指標として用いられ、値が大きいほど高速に通信できる。一方で、ヘルツは受光素子や回路が追従できる周波数帯域を表し、どちらも高速化に必要な指標である。

※2.毎秒3.2テラビットのイーサネットとボーレート:
 ビット毎秒は「1秒間に送れる情報量(ビット)」を表す。現在よく使われるPAM-4という方式では、1回の信号で2ビットの情報を表せるため、200 GbaudのPAM-4は1つの波長(1レーン)あたり毎秒400ギガビット、400GbaudのPAM-4は毎秒800ギガビットの通信速度に相当します。このため、毎秒3.2テラビット級は、例として200GbaudのPAM-4なら8波長、400GbaudのPAM-4なら4波長を用いて信号を同時に送ることで実現できます。同じ通信速度なら、より高い400Gbaudを用いることで使用する波長数を減らせるため、送信器・合分波器(信号をまとめたり分けたりする部品)・受信器などの規模縮小やコスト低減に有利です。

※3.Ethernet Allianceの作成するロードマップ
 https://ethernetalliance.org/wp-content/uploads/2025/12/EthernetRoadmap-2026-Side1-2-Final-2-RGB.pdf

※4.暗電流:
 光を入射しない状態で、受光素子に逆バイアスを印加した際に流れる電流。主に欠陥起因の電流で、素子劣化・故障の指標として用いられる。

※5.Telcordia GR-468-CORE:
 通信機器に使用される光電デバイス(レーザーダイオード、光増幅器、フォトダイオードなど)の信頼性保証に関する包括的な業界標準であり、機械的強度(振動、衝撃)、環境耐性(温度サイクル、高温高湿)、および寿命試験の条件と評価方法を規定するとともに、製品の長期的な安定稼働を担保する合格基準を示している。

※6.アレニウスの式:
 化学反応の速度を表す数式。反応速度は温度に依存するため、高温で試験することで素子劣化の反応を加速させて、故障までの時間を推定することができる。

※7.導波路型:
 光が横方向から入射し、化合物半導体でできた「導波路」と呼ばれる横長の層内を伝わりながら徐々に吸収させて、電気信号に変換する構造。

※8.垂直入射型:
 半導体基板の表面または裏面に対して、光を垂直方向に入射する構造。有効な受光径が大きく、実装が容易なことから広く用いられている。

※9.超高速・高感度受光素子技術(NTT技術ジャーナル)
 https://journal.ntt.co.jp/backnumber2/1210/files/jn201210057.pdf
 単一走行キャリヤー・フォトダイオードとその応用(応用物理学会会誌「光学」)
 https://annex.jsap.or.jp/photonics/kogaku/public/35-01-kaisetsu2.pdf

※10.アバランシェフォトダイオード:
 高感度受信機に用いられる受光素子の一種。逆バイアス下でキャリアの衝突電離(アバランシェ増倍)を利用し、内部利得により微弱光を高精度に検出できる。

※11.エッチング精度:
 半導体加工において、エッチングによる形状(曲率・深さ・位置・側壁角など)を設計どおりに作り込む精度。レンズ形状の光学特性や再現性、歩留まりに影響する。

この企業の関連リリース

この企業の情報

組織名
NTT株式会社
ホームページ
https://group.ntt/jp/corporate/overview/
代表者
島田 明
資本金
93,800,000 万円
上場
東証プライム
所在地
〒100-8116 東京都東京都千代田区大手町一丁目5番1号大手町ファーストスクエア イーストタワー
連絡先
03-6838-5111

検索

人気の記事

カテゴリ

アクセスランキング

  • 週間
  • 月間
  • 機能と特徴
  • Twitter
  • デジタルPR研究所