さらに詳細な解析により、DRAMセルは熱的に不安定な状態(非平衡状態)に情報を保持しているため、初期化操作の途中で熱的に安定な状態(平衡状態)へ移行する際に余分な熱が発生し、ランダウア限界を達成できないことが分かりました。したがって、ランダウア限界に迫る省エネルギーメモリ素子の創出には、熱的に安定な状態に情報を保持できる構造を用いる必要があることが示されました。
4.今後の展開
本技術により、DRAMセル構造におけるエントロピーと熱を定量的に評価することが可能となりました。さらに、本技術は他の回路構造の評価にも応用可能です。今後、本技術をさまざまな情報処理回路へ応用することで、省エネルギー性に優れた回路構造の解明が期待されます。
本研究で得られた知見をもとに、DRAMセルを超える新たな省エネルギーメモリデバイスや、熱揺らぎを計算資源として活用する新しいコンピューティング技術の実現をめざします。
5.掲載論文誌情報
掲載誌:Physical Review Letters
論文タイトル:Thermodynamic Constraints in Dynamic Random-Access Memory Cells: Experimental Verification of Energy Efficiency Limits in Information Erasure
著者:Takase Shimizu, Kensaku Chida, Gento Yamahata, Katsuhiko Nishiguchi
DOI:
https://doi.org/10.1103/1sgm-dhys
URL:
https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/1sgm-dhys
【用語解説】
※1. ナノメートル:10億分の1メートル、最先端の電子デバイス加工などで用いられる単位。
※2. エントロピー:ここでは、S=-ipilnpi で定義される情報エントロピー(シャノンエントロピー)を指します。pi は、ある瞬間に系が論理状態i を取る確率です。情報エントロピーは、状態の確率に偏りがないほど、すなわち情報のばらつきが大きいほど大きくなります。例えば、メモリに入っている1ビットが必ず0だと分かっている場合に比べて、0か1か分からない場合の方が、情報エントロピーは大きくなります。
※3. ランダウア限界:情報エントロピーが減少するような情報処理を行った場合に、最低限それに対応した発熱が生じるという熱力学第二法則(エントロピー増大則)から導かれる発熱量の下限値。
※4. マクスウェルの悪魔:熱ゆらぎで生じる粒子や系の微視的状態を測定し、その測定結果に基づいた操作(フィードバック制御)を行うデバイス。NTTは2017年にマクスウェルの悪魔を用いた発電を実証しています。
熱ノイズを選り分けて電流を流すことに成功~マクスウェルの悪魔による発電~ | ニュースリリース | NTT
https://group.ntt/jp/newsrelease/2017/05/16/170516a.html
※5. 初期化エラー率:例えば、図2のようにすべての情報を1に初期化しようとした際に、一部が0のまま残ってしまう割合を初期化エラー率といいます。初期化エラー率が小さいほど、初期化後の情報のばらつきは小さくなり、エントロピーも小さくなります。その結果、初期化に伴うエントロピー減少量は大きくなります。